JNEWSについてトップページ
売上の増減によって変動する適正人件費と安定収益の構造

JNEWS
JNEWS会員配信日 2003/5/7

 会社が業績を伸ばしていく過程で経営者の悩み事として浮上するのが、どの程度のペースでスタッフ人員を増やしていくことが妥当なのかという問題である。
優秀な人材をたくさん採用することは、将来の“力”となるが、現在の収益に見合わない無理な採用計画は、人件費の負担を大きくして経営を悪化させる要因となる。

特に請負受注型の仕事が多い下請け製造業者や、IT業界におけるシステム開発会社、ホームページ制作会社では、大きな仕事を受注した際に、大量の人員を採用して会社の規模を拡大していくケースが多い。しかし、好景気が一転して仕事量が減少すれば、目減りした売上高で社員達の人件費を賄うことが難しくなってくる。そこで給料日やボーナス前なれば融資で資金繰りをつなぎ、毎回その繰り返しで次第に借金体質へと陥っていく“成長企業”は予想以上に多い。

このような悪循環を回避するためには、不定期で偏りがちな大型案件のみに依存した収益構造ではなく、毎月安定収入が得られる事業を軌道に乗せて、そこから得られる収益を月々の人件費に充当できる経営体質を作ることが理想である。会社全体の粗利益を「継続的な安定収益」と「スポット的な収益」とに分ければ、最低でも全体の3割以上は安定収益が得られる経営を心がけることが大切だ。

【労働分配率から導く適正人件費】

 会社全体の適正な人件費を把握するためには「労働分配率」という指標を活用するとわかりやすい。業種によって詳細は異なるが、適正な労働分配率は粗利益高に対して30~40%といわれていて、この水準を上回った場合にはスタッフ体制を見直すことも必要になってくる。

労働分配率(%) = 人件費 ÷ 粗利益 × 100

《試算:年商1億円規模の会社における適正人件費》

しかし現実問題として、売上が上昇した年度には人材を増やそうとするが、逆に売上が半分に減少したからといって、スタッフ人員を半分に減らすことは難しい。そこで同じスタッフ体制まで新規事業を立ち上げ、目減りした売上分の収益を補おうとするが、新規事業立ち上げには相応に資金も投入することになるため、万が一、この新規事業に失敗すれば、たちどころに資金繰りは悪化してしまう。

ところが、実際の新規事業が成功する確率はそれほど高くなく、50%以上の確率で新規事業を成功へと導ける会社というのはかなり少ない。つまり、人件費の支払いが重い負担となってから、その資金繰り改善を目的として新規事業を立ち上げたとしても、失敗する確率のほうが圧倒的に高い。この状態では、新規事業立ち上げによる業績回復を試みるより、まずは従業員を削減するか、正社員を非正社員に切り替えるなどして、人件費の負担を軽くする選択のほうが、経営者の判断としては正しいことになる。

【人件費分の安定収益を得る契約体系の工夫】

 小売業の場合には日々の売上変動を把握しやすいが、請負受注型の仕事では不定期にある大口の入金に資金繰りが依存してしまうため、経営状態も不安定になりやすい。そこでクライアントに対する契約体系を工夫することで、月々の安定収益が得られる体質へと改善していくことも考えてみたい。

ソフトウエア開発会社の場合、1000万円規模の大口の仕事を受注した際に、従来は「開発費」として 1000万円を一括請求していたものを、開発費を600万円に値下げする代わりに、システムの保守契約料として月々25万円ずつ徴収する契約体系にしたほうが収益基盤は安定する。この契約では年間900万円(600万+25万×12ヶ月)の収入が得られるが、翌年以降も保守契約が続くとすれば、複数クライアントの保守契約料が毎月入ることによって、粗利益の中の約3割は常に安定収益とすることができる。

ソフトウエア開発会社にとっての安定収益は、保守契約料の他に、ASPのレンタル料金やライセンス料なども考えられる。得意とする開発分野のシステムを機能レンタルして、数多くのクライアントが安価で利用できる ASP事業を軌道に乗せることができれば、それまでの請負受注のみの仕事よりも収益構造は遙かに安定する。ソフトウエア開発会社に限らず、すべての企業経営者にとって、毎月の収益変動をなるべく平均化させる安定収益源の確保は、売上高の拡大策と並行して行うべき重要な課題といえるだろう。

この内容はJNEWS会員レポートの一部です。正式会員の登録をすることで詳細レポートにアクセスすることができます記事一覧 / JNEWSについて

この記事に関連したJNEWSレポート
毎月の売上変動を予測する季節指数の求め方
労働分配比率から導く「潰れにくい会社」の条件
人件費を軽減する無人店舗の新業態開発モデル
FLと人時売上高を基準に組み立てる飲食ビジネスの限界点
会社を維持するためのコスト感覚と資金繰り

この記事の完全レポート
JNEWS LETTER 2003.5.7
※アクセスには正式登録後のID、PASSWORDが必要です。
※JNEWS会員のPASSWORD確認はこちらへ


(起業家の成功法則)/(トップページ)/(JNEWSについて)/(Facebookページ)

これは正式会員向けJNEWS LETTER(2003年5月)に掲載された記事の一部です。 JNEWSでは、電子メールを媒体としたニューズレター(JNEWS LETTER)での有料による情報提供をメインの活動としています。 JNEWSが発信する情報を深く知りたい人のために2週間の無料お試し登録を用意していますので下のフォームからお申し込みください。

JNEWS LETTER 2週間無料体験購読

配信先メールアドレス

※Gmail、Yahooメール、スマホアドレスの登録も可
無料体験の登録でJNEWS LETTER正式版のサンプルが届きます。
 
Page top icon