版権ビジネスで差別化をはかる小売業界の裏方業者
JNEWS会員配信日 2005/5/9
記事加筆 2021/9/11
最近のパチンコ業界では、見慣れたアニメ主人公や有名人のキャラクターが登場する遊技台をよく見かけるようになった。パチンコ台やパチスロ機には、射幸性を抑制する目的により、大当たり確率には制限がかけられているため、各遊技台メーカーとも性能面では大きな差が出せないこともあり、人気キャラクターを採用してゲーム性を強調することでヒット作を生み出そうとしている。
同業界でその仕掛け人的存在として急成長しているのが、「フィールズ」という会社である。同社は遊技機メーカーとパチンコホールとの中間にある遊技機卸業者としての位置付けにあるが、その事業展開は単なる中間業者としての平凡なものではなく、ゲーム、アニメ、スポーツ、タレント業界で人気のキャラクターを利用するための版権(商品化権)を取得し、その版権を持って遊技機メーカーに商品企画を提案するユニークなものである。
本来の卸業者は、メーカーと販売店(パチンコホール)との中間で取引の仲介をするのが役割だが、“中抜き”による直接取引も可能な昨今では、それだけでは卸業者の存在が危うくなってしまう。そこでフィールズのように、新製品の企画で重要な価値を持つ人気キャラクターの商品化権を取得することで、メーカーに対しても優位な立場で新機種の独占販売権を得ることができるのだ。人気キャラクターの版権を取得することで、他社に真似のできない商品企画をする手法は、パチンコ分野に限らず様々な業界で注目されているものだが、版権を取得するための具体的な方法については、各社それぞれに独自のノウハウが隠れている。
【海外版権を日本に販売するエージェント会社】
有名キャラクターの版権(商品化権)を取得するためには、その権利者を探し出すことからスタートする。アニメのキャラクターであれば、その原作者であるマンガ家自身が交渉に応じるケースというのは意外と少なく、信頼できる版権エージェントに管理を委託しているケースのほうが多い。そのため、自社の商品に人気キャラクターを使用したい企業では、その版権を管理するエージェントと具体的な交渉~契約をする流れになる。
版権エージェントと一口にいっても、ワールドワイドに活動している大手業者から、特定の業界人脈を活かした個人事務所まで様々だ。具体例として、英国を本拠地としてワールドワイドな版権ビジネスを展開するCopyrights Group社は大手のエージェンシーで、世界的に有名な作家、アーティスト、キャラクター、美術品、ブランドなどの著作権を管理し、その版権を商品製造企業などに販売することを事業にしている。同社が管理しているプロパティ(著作権資産)には、ピーターラビット(絵本)やチャップリン(映画俳優)など日本でもお馴染みの有名キャラクターが多数存在している。
ピーターラビットは1902年に出版された絵本だが、そのイラストを使用した雑貨は日本国内でも根強い人気商品で、ライセンス商品の総売上は、世界全体で3兆5千億円以上といわれている。また、1960年代に英国で制作され日本で放送されて以来、親子三世代にわたっての人気を維持しているSFドラマ「サンダーバード」も同社が管理するプロパティである。昨年にはリメイク映画の上映を機に玩具メーカーが多数のサンダーバード関連グッズを発売したが、それらはすべて同社からの商品化権を取得したものである。異色なところでは、ネスレジャパンがコーヒー製品にサンダーバードのメカフィギュアをおまけにつけて話題となった。
なお、同社では版権ライセンスを提供する企業に対して、詳細にわたる条件を提示することで、プロパティの価値やブランドイメージが低下しないことに細心の注意を払っている。ライセンス契約をした各企業がキャラクター商品を製作する際には、製品のコンセプト/デザイン/サンプルの各段階で、その試作品を同社と版権所有者(コピーライトホルダー)に提出し、監修を受けることが求められている。また、商品の売上げに対して一定率のロイヤリティを支払う契約になっているため、契約先の企業は商品の販売状況を定期的に報告する義務がある。
ライセンス契約の期間は通常2~3年だが、契約終了後は90日以内にライセンス商品の在庫を売切ることが求められている。ただし、キャラクターの価値が落ちることを防ぐために、値引き販売は一切禁止されている。
またキャラクター商品以外の版権契約例として、2008年頃までのユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)では、喜劇王として有名なチャールズ・チャップリンが“小さな浮浪者”としてのキャラクターで園内をかっ歩して来場者を楽しませているが、これも同社がUSJに対してライセンシングしているものである。
同社では、このように英国を中心にした欧米の著作権資産を幅広く管理して、日本およびアジア、オセアニア地域の企業に売り込むことを戦略としている。同社は1981年に英国で設立され、支社をドイツと日本に置いている他、米国には提携代理店がある。日本の拠点は、コピーライツアジア株式会社として、日本市場でのライセンスビジネス全般に携わっている。同社がプロパティ版権を売ることで得ている収入は年間で約30億ドルで、その中の7割以上は英国外の海外市場からによるものだ。
【国境を越えて流通する人気キャラクターの版権】
一方、同じ英国からワールドワイド展開しているもう一つの版権エージェントとして有名なCopyright Promotions Licensing Group社(CPLG)は、ドリームワークスや20世紀フォックスなどハリウッド映画やソニーなどの映像エンターテインメント、スポーツチーム、ファッションブランドを抱え、主に米国や日本で人気のキャラクターやブランドの版権を、欧州の企業に販売することを目的としている。
■Copyright Promotions Licensing Group
CPLG社が管理する版権には、米国の人気TVドラマ「スタートレック」の他、ドリムーワークスのCGアニメ「シュレック」や20世紀フォックスの人気TVアニメ「ザ・シンプソンズ」などハリウッド製アニメーションが目立っている。また、日本の「鉄腕アトム」の米国制作版「アストロボーイ」や、小学館のTVアニメ「ハム太郎」も同社が管理するプロパティだ。なお「アストロボーイ」の版権所有者は米国ソニーピクチャーズになっているが、鉄腕アトムに絡んだ版権取引には以下のような経緯がある。
鉄腕アトムが昭和38年に虫プロ(アニメ制作会社。当時原作者の手塚治虫氏が社長だった)によってアニメ化された後、虫プロをアニメ制作会社として確立するために製作費をアトムを商品化してその版権料で賄おうと考えた。そこで手塚氏のアイデアで海外へフィルムを売ることになり、「アストロボーイ」のタイトルで欧米や中国などに売られていった。1960年代の話である。その後、虫プロは手塚漫画以外の作品もアニメ化するようになり、手塚氏は社長を退任、以降は手塚プロがアニメ部門を持つことでカラー版が製作され、現在に至っている。
そのため日本の「鉄腕アトム」の版権所有者は少々入り組んでいて、最初に虫プロによってアニメ化されたモノクロフィルム版「鉄腕アトム」の版権は(株)虫プロダクションが所有し、漫画原作とカラー版アニメの版権は手塚プロダクションにある。鉄腕アトムは、日本で最初にアニメ版権ビジネスを確立させた“プロジェクトX”的な存在である。なお1998年に手塚プロは米国ソニー・ピクチャーズと「アストロボーイ」を映画化する契約を結んでいる。ただしCPLGが版権を管理する「アストロボーイ」は、米国ソニーピクチャーズ配給によるテレビアニメの版権である。
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■この記事の完全レポート
・JNEWS LETTER 2005.5.9
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