新型コロナワクチン開発競争の市場構造と流通経路
WHOによると、新型コロナウイルスのワクチン開発は、既に臨床試験が行われているものと、臨床試験前のものとを合わせると、2020年7月の時点で160以上の研究機関や製薬会社で行われている。
その中で、実用化までたどり着けるのは数パーセントの確率で、ギャンブル性の高い事業だが、新型コロナの場合は、世界人口の大半が接種の潜在患者数となるため、莫大な市場規模になるとみられている。
ワクチンが完成した直後は「需要>供給量」の状態で、各国が奪い合う形となることが予測されるため、米国や英国の政府は、ワクチンが完成前の段階から複数の開発メーカーに対して購入予約を行い、国民人口の数倍にあたる数量を確保しはじめている。ワクチンの効果を有効にするのに、1人あたり数回の接種が必要になることを想定してのことである。
米国政府の場合は、通常は10年程度かかるワクチン開発の期間を1~2年に短縮する「ワープスピード作戦(Operation Warp Speed Vaccine Initiative)」を2020年5月から実行している。
具体的には、政府が最大100億ドル(約1兆円超)の予算を投じて、実験で有効性が確認された段階で、複数のワクチン開発メーカーに対して購入保証や資金提供を行うものだ。この支援制度により、メーカー側では開発失敗による経済的な損失を恐れずに、早期の段階から大規模な臨床実験や、量産体制の設備投資を行うことができるようになり、2021年内にはワクチンの供給を目指す計画だ。
7月28日には、富士フィルム(4901)の米国子会社である「ダイオシンス・バイテクノロジーズ」に対して、米国政府が2億6500万ドル(約280億円)の資金提供をすることが報じられたが、これもワープスピード作戦の一環である。ダイオシンス社は、ワクチン開発元であるノババックス社との間で、新型コロナワクチン原薬の製造受託契約を交わしている。
ノババックス社も、米国政府から16億ドル(約1700億円)の資金提供を受けており、3万人規模の臨床実験を行った後、2021年上旬までに1億本、2021年末には3億本のワクチン量産を目指している。このワープスピード作戦により、ノババックス社の株価は、5月から7月にかけて、およそ8倍に高騰している。
【予防接種ワクチンの流通ルート】
新型コロナワクチンが、どの程度の価格で流通するのかは確定していないが、米国政府は1億回分のワクチンを約20億ドルで購入予約していることから、接種1回分の単価は約20ドル。1人2回の接種が必要となれば、国民1人あたりのワクチン単価は約40ドル(約4,200円)になる。
パンデミックが終息するまでは、政府が買い上げたワクチンを医療機関経由で配給するような措置が取られるだろうが、これから継続的(毎年または数年に1度)な予防接種が必要になるとすれば、その費用は国民が自己負担していくようになるだろう。
インフルエンザの予防接種については、日本でも自費診療が原則である。インフルエンザのウイルスは変異しやすいため、各シーズンに流行するウイルスの型を予測した上で、政府が供給不足が生じない毎年の製造予定量を決めて、国内のワクチンメーカーが毎年の製造に着手している。
厚生労働省が公表している会議資料によると、インフルエンザ・ワクチンの製造原価は、接種1回分あたりが350円で、2つの中間業者を経て、医療機関には平均1,000円で納入されている。医療機関では、問診料を含めて平均3,500円の料金設定で予防接種を行っている。
《インフルエンザ予防接種の流通構造(日本)》
○厚生労働書が毎年の製造予定量を決定
↓
○ワクチン製造業者(製造原価350円)
↓
○製造販売会社(600円)
↓
○薬品卸業者(750円)
↓
○各地域の医療機関(1000円)
↓
○接種を受ける患者(3500円)
他の医薬品と比べて、ワクチンの製造から流通が難しいのは、変異するウイルスに対応してワクチンの改良も随時行っていく必要があり、大量生産すると不良在庫を抱えるリスクがあること。感染者の増加や減少は急変動するため、需給の予測がしにくいことなどがある。
さらに、新型コロナウイルスは、変異の特徴やサイクルが詳しくわかっていないことから、ワクチンメーカーに対して、政府が充分な支援やインセンティブを与えないと、開発を持続させていくことが難しい。
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