過去への回帰が購買欲を刺激するノスタルジア消費の特性
消費者の物欲を刺激する商品は次第に少なくなっている。新製品は次々と発売されているものの、最近は環境性能にシフトしたものが多く、消費者が望む方向性とは異なる面もある。
その典型例といえるのが自動車の分野だろう。千葉県が2021年7月に行った調査では、次回に買い換え検討する自動車として、ガソリン車またはディーゼル車の割合は最も高く、電気自動車(EV)の購入を検討するのは17%となっている。EVが環境性能に優れていることは理解していても、物欲を刺激するまでの魅力は感じていない層が多い。
その一方で、人気が過熱しているのが今から30年以上前に生産された、いわゆる「旧車やビンテージカー」と呼ばれる古い車達である。この時代に名車と評価された車は、近年の取引相場が軒並み上昇しているのは、世界に共通した傾向である。
ドイツ自動車産業協会(VDA)では、欧州で人気の高い旧車の中から88車種を選定して、その中古車相場の推移を1999年=1000として指数化した「ドイツクラシックカーインデックス(DOX)」を集計している。それによると、1999年と比較して、現在の旧車相場は2.7倍にまで上昇している。
この指数では、スーパーカーは除外されているため、旧車の人気が一般車にまで波及していることがわかる。指数に選定されている車種の中で人気が高いのは、1975年に発売されたBMWの初代3シリーズとなったE21型で、2016年から2019年にかけての価格上昇率は61%、現在は28,000~53,000ユーロ(約380~720万円)で売買されている。その他にも、1930年代から2003年まで生産されたフォルクスワーゲンビートル、1960~1970年代のアルファロメオやフィアットなどの人気も高い。
■Deutscher Oldtimer Index(DOX)
■BMW 323i (E21) classic review(動画)
こうした古い製品に対する人気の復活は、自動車の他にも、洋服、家電製品、オーディオ、玩具、楽器など多方面に及んでいる。それらの魅力は、自分の人生と重ねて過去を懐かしむことができる点にある。昔の時代に回帰して、郷愁に浸りたい心理は「ノスタルジア(Nostalgia)」として、コロナ禍以降は特に高まっている。
このトレンドは、中高年者に限らず、Z世代(10代~20代)の若者の中でも、自分の子どもの頃、さらに両親が若かった頃に流行った製品に憧れを抱くような現象が起きている。アパレル分野では「Y2Kファッション」として、2000年代に流行ったデザインが、2020年頃から見直されるようになり、古着市場で当時の服が人気となっている。
現代の消費者が、なぜ昔の製品に魅力を感じて、高額でも購入しようとするのかについては学術的にも研究されるようになっている。複数の論文の中で、人は郷愁を感じる過去の出来事を思い出したり、振り返ったりした時に、多くのお金を使いたい意欲が高まることが確認されている。そうした消費者行動に基づき、大手メーカーの中では、コマーシャルに古い映像を使ったり、昔のデザインを新製品の中で復刻させるような、ノスタルジーマーケティングを展開するようになっている。本レポートでは、そうしたノスタルジア消費の心理を分析した製品開発や、高騰するヴィンテージ品を扱う起業者の動向を解説しています。
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■JNEWS会員レポートの主な項目
・郷愁に浸りたい消費者心理と行動の法則
・ノスタルジアマーケティングの手法
・変化するヴィンテージアパレルの定義
・ヴィンテージ古着屋の起業と仕入れの方法
・昭和アイテムからお宝を発掘する視点
・見逃された日本製フィルムカメラの価値
・品質重視で評価されるジャパンヴィンテージ
・高騰するヴィンテージアイテムの投資テーマ
・スリフティングによる節約生活と古着転売の副業
・返品商品が清算されるリバースロジスティクス
・世界で急騰するジャパニーズ・ウイスキー投資
■この記事の完全レポート
・JNEWS LETTER 2022.8.2
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