公立教育の崩壊で多様化する米国の受験ビジネス
いまの子どもが学校以外で勉強する時間は、中学生で1日あたりの平均が約90分、その中には学習塾へ通う時間も含まれているが、自宅の勉強では宿題におよそ30分を費やしている。
学校から宿題が出るのは、昔の時代から変わっていないが、今ならば、友達にメールして答えを教えてもらうことや、ネットで解くためのヒントを探したり、コミュニティで誰かに問題を解いてもらうこともできる。当然ながら、子どもの勉強にもITは使えるわけで、活用の方法によっては、ズルをして要領よく宿題を片づけてしまうことなど容易いし、逆に、授業や教科書に書かれていることより、もっと深いことを掘り下げて学ぶことができたりと、一長一短がある。
子ども達の自室にまでネットが繋がってきたからには、勉強のスタイルが変わっていくことは必然といえる。学習塾に通うという方法以外でも、新たな勉強法を開発することは可能で、そこには大きな商機が潜んでいる。少子化の時代とはいえ、現在の学習塾業界は、総生徒数が1千万人、年間の売上が3600億円という市場規模で、親の平均所得が減少しているにも関わらず、緩やかな成長を続けている。
しかし、今の学習塾が最善の勉強法というわけではなく、子どもの個性や価値観は多様化して、従来のような集団指導ばかりでなく、個別指導や遠隔教育などの新サービスを打ち出していかないと、教育ビジネスで生き残っていくことが難しく、大手の塾ではM&Aによる業界再編の動きが騒がしい。
大学受験の状況についても、昨年度は全国にある私立大学(570校)の4割以上が“定員割れ”を起こしており、推薦入試やAO入試などの合格枠を増やすことで、どうにか体裁を整えている。そのため“学校の名前”さえ選ばなければ、誰でも大学生になれる「大学全入」の時代は、既に到来しているのだ。
それでも現実には、名門大学の競争倍率は相変わらず高くて、難関であることに変わりはないし、不況にも強いことで人気の「医学部」については、現役生や浪人生に加えて、社会人の受験者も増えている。そうしたことから、今後の受験産業がすぐに崩壊してしまうとは考えにくい。
一方、比較的容易に入学できると言われてきた米国の大学でも、近頃では、世界からの入学希望者が増えていることから、昔よりも高度な受験対策が必要になっている。そこではITを駆使したハイテク受験ビジネスも登場してきており、勉強のスタイルにも大きな変化が起こっている。今回はその仕組みを紹介しながら、教育ビジネスの方向性や、新たに注目されるようになってきた、新タイプの優等生についても掘り下げてみたい。
【多様化する米国の教育システムと勉強方法】
米国の教育制度は、日本とはシステムが異なっており、公立や私立の学校の他に、地域の人達で運営されるチャータースクールや、家庭内で教育をするホームスクールなどの多様化が進んでいる。
そのため、子どもの学習能力は、各州や全米統一でおこなわれる標準学力試験で判定、比較をされるのが普通で、中学や高校に進学する際の指標として使われる「SSAT」、大学の合否判定資料として使われる「SAT」「ACT」、それにホームスクールで学んでいる子供が、大学への入学資格を得る「GED」などの標準テストがあり、それぞれの試験対策を目的とした教育サービスが成り立っている。
リーマンショック以降は、各州の財政が悪化して、公立学校では週休4日制にする例もあるほど、公教育のレベルが低下している。そのため、教育熱心な家庭では、不足している勉強を民間のオンライン教育サービスで補い、全国標準の学力テストに臨むことが、近年の勉強スタイルとして定着しつつある。
米国で大手の進学予備校といえるのが「Kaplan(カプラン)」という会社で、大学受験向けの予備校に加え、小中高校の教育プログラム開発から、学習塾、英語学校、資格学校の経営を手広く手掛けて、現在では4,000以上の教室で100万人以上の生徒を指導している。同社が次に力を入れているのが、オンライン教育の分野で、2007年にはeラーニングの技術会社を買収して、各種のeラーニングサービスを立ち上げている。
これにより、同社の受講生は、教室で授業を受けた後に、自宅でオンライン教材にアクセスして復習をしたり、オンライン模擬テストで自分の実力を確かめることができる。さらに、それだけでは試験日までに間に合わないというのであれば、家庭教師の派遣までを行い、リアルとオンラインを結びつけたシームレスな教育を実現させている。
受講生にとっては、勉強にかけられる時間と予算に応じて学習のスタイルを自由にカスタマイズすることができて、米国の大学入試にあたる「SAT(大学進学適性試験)」の対策であれば、オンライン学習のみの99ドルから、家庭教師+オンライン学習で4000ドルを超すコースまで選ぶことができる。
(この内容はJNEWS会員レポートの一部です。正式会員の登録をすることで詳細レポートにアクセスすることができます → 記事一覧 / JNEWSについて)
■JNEWS会員レポートの主な項目
・ホームスクーラーに向けた詐欺商法が意味するもの
・電子教材を主役にしたオンライン教育の業界構造
・オンライン英会話レッスンの仕組み
・システムよりも“人”に重心を置くオンライン教育
・宿題ヘルパーと不正レポートの監視ビジネス
・テストの方法で変わる「学力」のトリック
・時代と共に変化する優等生の種類
・ストリーミング教育で変わる授業料単価と「学校」の新形態
・自分の専門知識を収益化するオンラン副業プラットフォーム
・クラウドワークとネット副業を普及させるペイパルマネーの実力
・子どもの才能を発掘して育てるサマーキャンプの事業モデル
・労働市場に起こる需給バランスの異変と学歴デフレの実態
■この記事の完全レポート
・JNEWS LETTER 2010.11.1
※アクセスには正式登録後のID、PASSWORDが必要です。
※JNEWS会員のPASSWORD確認はこちらへ
■この記事に関連したJNEWS会員向けバックナンバー
・子供への投資として考える高級教育ビジネスの特徴と成長分野
・変化する親の教育観と求められるホームスクール支援市場
・価値が下落する学歴社会に求められる教育投資効率の考え方
・荒廃した公立学校を再生する教育ベンチャーの役割と商機
・眠れる天才児を発掘・育成する教育ビジネスと潜在市場
・幼児のIQを伸ばす知能教室の開業スタイルと業界構造
・高騰する子ども教育費を支援するキャッシュバックサービス
(注目の新規事業)/(トップページ)/(JNEWSについて)/(Facebookページ)
これは正式会員向けJNEWS LETTER(2010年11月)に掲載された記事の一部です。 JNEWSでは、電子メールを媒体としたニューズレター(JNEWS LETTER)での有料による情報提供をメインの活動としています。 JNEWSが発信する情報を深く知りたい人のために2週間の無料お試し登録を用意していますので下のフォームからお申し込みください。