人間は無意識のうちにトイレを探しながら行動する。トイレのある場所に人は集まりやすく、店舗の集客マーケティングに活用することができる。有料トイレ事業のビジネスモデルは多様に考えることができる。(JNEWSについてトップページ
有料トイレ事業は成り立つのか?ビジネスモデルと採算

JNEWS
JNEWS会員配信日 2007/4/21
記事加筆 2021/9/2

 ドライブをしていて用を足したくなり、トイレ休憩のために最寄りの店に入るというのはよくある光景だ。最近ではコンビニ店舗が公衆トイレの代りとして使われることも多いが、コンビニでもボランティアとしてトイレを貸しているわけではない。普通の人なら「トイレを利用させてもらった」という感謝の気持ちを込めて缶コーヒーの1本でも買って帰るもので、トイレが集客の役割を果たしているのだ。車の通行が多い街道沿いのコンビニでは、トイレマークの看板を設置するか否かによって来店客数に違いがあるという。

日本はトイレ先進国といわれているが「トイレを貸す」ということについては意外と後ろ向きな時代が長かった。店内のトイレはお客様用にあるもので、「トイレだけの利用者はお断り」といったスタンスだ。しかし日本人の文化レベルからすると、清潔なトイレを気持ちよく使わせてもらえば、何らかの感謝の気持ちを表わすものだ。それが“ついで買い”につながることもあるし、『あそこの店のトイレは素敵だから一度行ってみて』という口コミとなって善意の宣伝が広がることもある。

人間には生理現象が避けられないことから、無意識のうちでも常にトイレ探しをしている。その習性からするとトイレがある場所に人は集まりやすいということになり、しかも清潔なトイレほど集まる人の質も高い。そこを踏まえると、集客を考える店舗経営者は店内のトイレをもっと戦略的に使うべきだろう。

では日本で有料トイレを経営するという発想はどうだろうか?おそらく有料トイレだけを単独の事業としてみれば成り立たない。JR秋葉原駅の「オアシス@akiba」は1回100円の利用料がかかる有料の公衆トイレだが、それだけでは豪華トイレの建設費と、常駐する管理人の人件費、それに頻繁な清掃にかかるコストを賄うことはできない。しかし「秋葉原に安全できれいなトイレがある」ということが、ある種の広告効果をもたらしてくれるのであれば、無駄な宣伝活動に金を使うよりも有意義だ。じつはそこにトイレビジネスの急所が隠れている。人間行動学に基づけば、使いやすいトイレのある場所に自然と人は集まりやすい法則があり、それを集客へと繋げることができる。


※JR秋葉駅「オアシス@akiba」の内部

【意外と知らない公衆トイレの設置基準】

 そもそも公衆トイレは、多くの人が集まる場所には適切な数のトイレを整備することが指針として定められている。たとえば、オフィス内のトイレとなると、国が定めた「事務所衛生基準規則」の中で、設置すべきトイレの数がきちんと定義されている。たとえば、男性の小便用便所は「同時に就業する男性労働者30人以内ごとに一個以上とすること」(同則第十七条三)とあり、女性用便所の数は「同時に就業する女性労働者20人以内ごとに一個以上とすること」(同則第十七条四)とある。ただここで定められている数字について、その具体的な根拠はわかっていない。またスポーツ大会でのトイレ設置でも、たとえばトライアスロン大会では、「スタート地点では競技者50名あたり1個、種目の切り替え地点に最低5個、マラソンスタート地点に最低3個、水泳スタート地点に最低5個を設置する」という国際標準が設けられている。

しかしこと公衆トイレについては、こういった設置基準が設けられていない(あるいは公開されていない)様子だ。しかし国際的にみても衛生的で高機能型の公衆トイレを整備することが文化都市の条件になりつつある。

そんな中、東京都が独自に設置の指針を示しているのが興味深い。都が提唱するトイレ整備への取組み指針「とうきょうトイレ」によると、都内にトイレの「空白地帯」をなくすという名目で、半径4~500メートル以内に必ず公衆トイレがあるという設置指針を打ち出している。この数字は都民へのモニタ調査に基づいたもので、高齢者の歩くスピードも考慮したうえで、十分以内にトイレにたどりつけるという想定で求められた数字だ。単純に計算すると、東京都内におよそ8000カ所の公衆トイレが必要ということになるだろう。もちろんそのすべてが、独立して設置されている「公衆トイレ」というわけではなく、コンビニやファミレス、飲食店などの店舗内トイレも含めての数としているようだ。

東京都や横浜市、京都市、神戸市など外国人が多く訪れている地域では、国際的なマナーの改善といういわば“外圧”もあって、そこでの公衆トイレ整備は、単にキレイであるという域を超えた展開が図られている。たとえば、赤ちゃんからお年寄りまで使える「バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」の実現はもはやあたりまえのこと。今求められているのは、車椅子の利用者や人工肛門や人工膀胱などのオストメイトと呼ばれる付属具の使用者も利用できるだけの装備と設計がなされた「だれでもトイレ」と呼ばれる、多目的かつ多機能トイレの設置だ。

また、群馬県では「ぐんまビジタートイレ認証制度」という、公衆トイレから店舗内のトイレに至るまで、「便器の汚れはないか」「車いすでも利用できるトイレが一つ以上あるか」「利用頻度に応じた清掃・管理をしているか」などのチェック項目「ぐんまビジタートイレ認証基準」を満たすことを目的としたトイレの認証制度を設けている。新潟県でも同様のコンセプトで、「どこでもトイレ」と称した社会実験が行われた。

群馬県「ぐんまビジタートイレ認証制度」について

しかしこうした取り組みはまだごく一部で、総じて日本の公衆トイレには「4K」のイメージが根強いとのアンケート調査結果もある。ここでいう4Kとは、「きたない」「くさい」「こわい」「くらい」という意味で、とりわけ公園や歩道に設置された典型的な「公衆便所」は最悪の存在となってしまっている。最近では盗撮の被害や暴行事件や誘拐の発生など、安全面においてその質が著しく低下してきており、公衆トイレに必要なものとして「非常通報装置」を挙げる女性の数も多いほどだ。そこで登場してきたのが“有料トイレ”の事業コンセプトである。

【店舗への新たな集客経路となるトイレマップ】

 従来の「公衆トイレ」といえば行政が義務として設置するものという考えが根付いていたが、集客を促したい商業施設や小売店舗では、自店のトイレを積極的に「公衆トイレ」として開放することが得策かもしれない。というのも、先の“とうきょうトイレ”にあるような都市計画では、民間店舗のトイレも活用したいという意向がある。それに応じるか否かは各店舗経営者によって意見の分かれるところだが、トイレ提供のメリットとして期待できるのが「トイレマップ」へ自店が掲載されることだ。

トイレマップというのは、外出時のトイレに困らないようにと目的地周辺で利用できる公共施設や民間店舗のトイレ所在地をネットや携帯電話から調べられるサービスのことを指す。トイレマップには行政が制作したものと、個人や民間の団体が作成したものとがあるが、これが店舗への集客において大きな効果を示すものとして注目されている。そこに記載される内容には、トイレある所在地の他に便器の種類、トイレが使用できる時間帯、トイレの写真、実際に使った人の感想などが掲載されることもある。もともとトイレマップの編集は個人的な活動としてスタートしたものだが、身障者や高齢者が外出する時には是非とも必要なコンテンツということで国や自治体も予算を投下してトイレマップ制作事業に取りかかりはじめている。

たとえば、オーストラリア政府は約9億円の予算をかけてトイレマップの編集にあたっている。トイレマップ専用サイト「toiletmap.gov.au」では、オーストラリア国内にある1万箇所以上の公衆トイレ所在地がデータベース化されており、目的地に応じて周辺のトイレを検索することができるが、その中には公共施設のトイレばかりでなく、民間店舗のトイレも含まれている。さらに各トイレデータの中には緯度経度の情報まで記載されているのが特徴で、これは自動車や携帯電話に搭載されたGPS(ナビゲーション機能)からの利用を前提としたものだ。
つまりトイレマップに掲載されている店には、GPSが集客の手助けをしてくれるということになる。トイレマップに自分の店が掲載されることで来店客数が増えるのなら、それは積極的にトイレを公衆のために開放したほうが賢いということになる。

toiletmap.gov.au

《トイレ開放による店舗の新たな集客経路》

【公園の公衆トイレはなぜ常に汚いのか?】

 公衆トイレの増設が求められている中でも、特に女性の場合には従来からある屋外の公衆トイレ、たとえば公園に設置されているような公衆トイレを利用する人はほとんどいないのではないだろうか。それはやはり「トイレが汚れていて不潔」というのが理由だが、どうして公園のトイレは清潔に保てないのだろうか?もちろん市町村が管理する公衆トイレの清掃は定期的に行われているはずだが、常に汚れているように感じる原因はトイレ清掃にかかるコストの問題にある。

ある自治体が管理する公園の例では、週5回のペースでトイレの清掃をするために年間160万円のコストを費やしているが、それでもトイレを清潔に保つためには清掃回数がまったく足りない。ではどれくらいの清掃頻度が求められるのかといえば、多くの人が利用する公衆トイレを清潔に維持する1日に最低3回の清掃が必要と言われている。これを1年間(365日)に換算すると 1095回の清掃が必要ということになり、1回あたりの清掃費用を6千円で見積もっても、なんと年間ではトイレ1箇所につき657万円のコストがかかってしまう。誰でも自由に利用できる屋外の公衆トイレは“キレイにすれば、すぐに汚される”のイタチごっこで、清潔さを保とうとすれば清掃にかかるコストは底なし沼というのが実態だ。

そのため、限られた清掃予算の範囲では「公衆トイレはある程度は汚れていても仕方ない」というところに落ち着いてしまうのだ。この状況を回避するためには公衆トイレを有料化するという案もあるが、じつはもっと身近に“公衆トイレ”を上手にビジネスとして収益化している例がある。それは高速道路や国道沿いに設置されたサービスエリアや道の駅である。

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JNEWS会員レポートの主な項目
・意外と知らない公衆トイレの設置基準
・有料トイレ事業は成り立つのか?そのビジネスモデル
・複合的なメリットで考える有料トイレ事業の採算性
・店舗への新たな集客経路となるトイレマップ
・トイレ開放による店舗の新たな集客経路
・公園の公衆トイレはなぜ常に汚いのか?-清掃管理委託の業界構造
・公衆トイレで稼ぐドライブインのビジネスモデル
・サービスエリアへの出店に絡む利権の構図
・需要が決して減ることがないトイレ関連ビジネスに向けた商機
・変わるリアル店舗の集客経路と消費者を味方に付けた情報戦
・家賃なしで好立地に出店するワゴンショップのビジネスモデル

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JNEWS LETTER 2007.4.21
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