written in 2011/6/12
日本には2百万件の農業生産者が、米や野菜を売ることで生計を立てているが、そのほとんどが農業協同組合(JA)に加入して、JAに収穫物を出荷することで収益を得ている。しかし、原発事故の影響により、「○○産の野菜から放射物質が検出された」というニュースが流れるだけで、その地域で出荷された野菜がすべて売れなくなるという二次被害が起きている。
これまで日本の農業は、各地域のJAが「○○産」という地域の統一ブランドを形成して、地元の農家はJAに対して収穫物の販売委託をしてきた。そのため、同じ地域で収穫された野菜であれば、同じ価値で取引されることが通例だった。しかし、原発事故のような理由で、地域全体が風評被害を受けような事態に陥れば、個々の農家が独自に「うちの農場で収穫した野菜は安全です」という情報発信や、作物を売るための努力をしてかなくては、地域ブランドの信用低下と共に、経営が立ちゆかなくなってしまう。
被災した地域の農業復興策を考える上でも、JAに頼った販路だけでは心許なく、今後は、農家から消費者への直販ルートを築くことが不可欠といえそうだ。消費者が安全な農作物を求めるのは、世界の先進国に共通した傾向で、有機栽培を実践するオーガニック農家と消費者とが直接的に結びつきはじめている。
その世界的な手本になっているのは、じつは日本で1970年代の後半に起こった「産消提携運動(テイケイ)」である。しかし、当時の日本は、スーパーチェーンによる、価格と効率を優先した流通網が築かれている時期と重なり、大手スーパーの店頭に行けば、いつでも豊富な品揃えの野菜が買える便利さに消費者が慣れてしまい、生産者の素性までは意識しなくなっていった。
一方、欧米では1980年代から、健康や食の安全性を重視した一部の消費者から、ベジタリアンやオーガニックのブームが訪れて、日本のテイケイモデルから学んだ、生産者と消費者とが直接取引をする農業のスタイルが開発されていった。
過去のレポートでも何度か紹介している「コミュニティ・サポート・アグリカルチャー(CSA)」が、その具体的なモデルで、生産者が毎年の作付け前に、一般の家庭(消費者)を出資会員として募集することで、年間の農業経営に必要な資金をまず確保する。そして、数ヶ月後に収穫された野菜を、会員に分配・宅配する方式のため、生産者は毎年安定した収入(年会費×会員数)を得た上で、安全な農業に専念することができる。
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《CSAによる農家と消費者の直接取引モデル》
CSAは農作物の安全性ばかりでなく、農家の収益構造を改善できる効果があるため、米国ではCSA方式を導入する農場が増えており、その会員との関係作りにおいても、様々なアイデアや工夫を考案することで、新しい発想の産直ビジネスが展開されるようになってきている。それは、日本の農水省が推進する「農業の第6次産業化」を先行するもので、その動向を探ることで、日本でも応用可能な新農業ビジネスの方向性が見えてくる。
(注目の新規事業一覧へ )
●産直ビジネスへシフトする米国農家
●CSAによる農家独自の会員システム
●新たな農業起業のスタイルとしてのCSA
●CSA農家が会員を獲得しているノウハウの解説
●CSA農家のツイッター、フェイスブック活用事例
●会員(出資者)との対話によるリピーターの維持
●第6次産業としてのCAS農業
●植物農園がハーブを加工販売するの第6次ビジネス
●消費者との協業による新たな農業の形
●無線ブロードバンドで変わる田舎地域の兼業ワークスタイル
●原発震災が引き起こす食糧危機の考察(今秋以降の米不足)
●バーチャル農園で本物の野菜を栽培する農業の新スタイル
●スローライフ志向のエリート客を取り込む持続型レストラン
●感動をウリにする第5次ビジネスの正体と消費者の欲求願望
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LETTER 2011.6.12
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