2007年有望ビジネスへの着目点
  
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2007年有望ビジネスへの着目点

 大企業は好決算を発表し、ベンチャー企業からは株式上場を果たす会社が急増した反面、自殺者やいじめの問題が深刻化したのも2006年の特徴といえる。IT業界では「Web2.0」というキーワードが話題となり、2.0型の新しいビジネスモデルを模索する動きも慌ただしくなったが、その具体的な姿は未だ掴めていないというのが実態だろう。それでは新しい年、2007年にはどんな出来事が待ち受けているのだろうか?

大きな胎動としては「人の生き方が変化する」ということからイメージしておきたい。巷でも指摘されている通り、これまでのトレンドリーダーであり、経済を支えてきた団塊の世代(1947年〜1949年生、約800万人)がいよいよ 60代へと入るのが2007年で、ここを境にして世の中の枠組みが大きく変化していくことになりそうだ。近視的にみれば若い世代への仕事の継承や年金問題などが山積しているが、もっと奥深いところでは、団塊の世代がこれまでの人生(生き方)を振り返り、その反省や償いのために時間やお金、そしてまだ健在な労働力を費やすことになるだろう。

その影響は団塊世代だけに留まるものではなく、その子供達(団塊ジュニア)や他の層にも少なからず変化を与える。それは団塊世代がこれまでに生み出してきた数々の社会現象を見れば明らかだ。団塊世代と、30歳前後でニートやフリーターをしている層の生き方とは無関係のようにもみえるが、じつは親子の関係である。サラリーマンとしての生き方を否定する若手起業家の登場も、会社人間として生きてきた父親を反面教師として、新たな生き方を模索しているものと捉えるとわかりやすが、ニートとして自宅に引き籠もるか、起業家を目指すかは、表現方法の違いでしかない。

その他にも、人の生き方が変化しているシグナルはたくさんある。女性が社会の中で力を付けてきている状況、結婚しない人達の増加、副業の収入でセミリタイアを目指す若者、LOHAS(ロハス)という新しい価値観の台頭、いずれも個人としての主張を大切にする生き方で、それぞれの点を結びつけると現代人が求めている“新しい生き方”の方向性が見えてくる。これからのネットやITは、これら理想のライフスタイルを実現するための手段(脇役)として活用されるに過ぎず、それを主役として捉えるべきではない。具体的な機能よりも、生きるための喜びや心が満たされる価値観を人々へ与えることに2007年以降の商機がある。

組織から“個”の変化〜多様化するライフスタイルの選択

     急速な少子高齢化、所得格差の広がり、女性の社会進出など世の中を取り巻く環境はここ数年で大きく変化している。政府が定めているこれまでの標準世帯といえば、会社員の夫に専業主婦、子供二人というものだが、現代でこれに当てはまる家庭というのは、全体の3割未満に過ぎない。残りの7割は、日中は子供の世話ができない共働き世帯であったり、結婚をしていない単身世帯、母子家庭の世帯、子供のいないチャイルドフリーの世帯など、どこか従来の標準(常識)とは異なる部分を抱えながら暮らしている人達である。

    ところが国の制度やサービスの枠組みは未だ“標準世帯”をモデルとしたものになっている。たとえば幼稚園は学校教育法(文部科学省)によって子供の面倒を見られるのは、1日平均4時間までと決められているが、これでは共働き世帯では通わせることができない。そこで必然的に保育園ということになるが、こちらは児童福祉法(厚生労働省)の管轄という縦割り行政はどうみてもおかしい。

    いじめの問題にしても、深刻ないじめで学校に通えなくなってしまった子供達に対する救済措置が日本にはまだない。そのため親が防波堤となり、自分の仕事や住まいを変えるなど、ライフスタイルを変える努力をしないと子供を守ることはできない。本来、我々の生活を守るために社会のルールが存在しているはずなのだが、それが逆転して、古いままのルールや常識が、いまの時代の価値観や人間関係に合わなくなって、現代人(特に新しい感性を持つ人達)に大きなストレスを与えてしまっている。

    国内の古い教育制度に馴染めない感性を持つ子供であれば、もっと広い視野で海外留学をさせるというのも柔軟な生き方としての選択肢の一つで、実際に不登校児を対象とした留学支援サービスが新しい市場を形成してきている。また会社の組織に馴染めないで自宅に引き籠もっている若者は、無理に会社に勤めようとするのではなく、自分一人でできる仕事(商売)のやり方を考えればよいのだ。

    そのお手本として、自宅からネットを使って月収百万円を毎月稼ぐことに成功しているニートは、人生の落伍者として軽蔑されるどころか、新しいタイプの起業家として尊敬の対象になっている。つまり、常識的な社会のルールに自分を当てはめるのではなくて、自分が抱えている生活上の条件、自分の個性や性格にふさわしい生き方を確立し、その道で皆が納得する結果を出せば、世間はそれを新しいライフスタイルとして賞賛するのだ。

新たなライフスタイルを支えるP2Pツールの普及

     そうはいっても常識はずれの考えや生き方をする人達は、これまで世間の仲間外れとなって孤独な思いをしてきたわけだが、ネットがその閉塞感を突き破った。限られた地域の中では、いわゆるマイノリティ(少数派)のライフスタイルでも、日本全国、さらに世界の中では自分と同じ価値観を持った人達が大勢いる。それを容易に結びつけているのがインターネットで、マイノリティ派ほどネットによるコミュニケーション能力に長けているという特徴がある。

    ネットの中でもこれから注目していきたいのが「P2P(peer to peer:ピアツーピア)」というキーワードである。これはファイル交換システムに代表される技術用語として広く知られているが、もともとの「peer」には「地位や立場が同じ人達、仲間」という意味がある。この解釈を発展させると、同じ価値観を持つ人達がネットで結びつき、上下関係のないコミュニティ社会を形成するためのツールがP2Pといえる。

    コミュニケーションをする具体的な手段はメール、ブログ、SNSなど何でも構わないが、生き方や価値観が同じマイノリティ派の個人と個人が出会い、コミュニケーションすることで生まれる動きは、やがて社会全体を動かすほどの力になってゆくはずだ。たとえば米国では、子供を学校に通わせずに自宅で教育することを実行した「ホームスクーリング」が新たなライフスタイルが確立している。

    《ホームスクーリング市場を形成するライフスタイル》

     米国でもやはり、いじめや学力的な問題で普通の学校へは通えない不登校児の問題が深刻化しているが、彼らに対する支援策としてホームスクーリングが法律でも認められている。ホームスクール(自宅学習)でも、中学や高校の卒業資格が取得でき、そこから大学へ進学することもできるのだ。そのため学力が飛び抜けて高く、普通の学校では逆に馴染めないような天才児の教育法としてもホームスクーリングが注目されている。

    ホームスクールを実現するには、親が教師役となって子供に勉強を教えなくてはいけないが、そのためには親のワークスタイルから変えていかなくてはいけない。「父親が子供の教育のために会社を辞める」という選択は、日本ではまだ常識外れのことであるが、米国では既に在宅ワーカー(SOHO)としての働き方が確立しているし、そのためのジョブサービスや、仕事を受注するためのマッチングサービスも充実している。

    ホームスクール用の教育カリキュラムにしても、専門のeラーニングサイトが多数あるため、それらの教材に沿って自宅学習を進め、要所要所のポイントを親が教えるというスタイルであれば、普通の学校に通うよりも履修の速度は早いといわれている。またホームスクールでは常に“子供ひとり”での学習となるため、友達が作れないというのが欠点だが、それについてもホームスクーラー達が集まるコミュニティが形成され、週末の合宿やサマーキャンプなどのリアルな交流も深まっている。要するに「ホームスクーリング」という新しいライフスタイルを家族が決意すれば、同じスタイルを目指そうとする人達がネットで繋がり、一つの市場を形成することになるため、彼らに向けたツールやサービスが次々と開発されている。

    《ホームスクーリングが普及していく流れ》

     ●「ホームスクーリング」という新しいライフスタイルをすることの決意
     ↓
     ●同じライフスタイルを目指す人達がネットで繋がり、交流を始める
     ↓
     ●個と個の繋がり(P2P)が次第に広がり、ホームスクール市場に
      対して企業が注目するようになる。
     ↓
     ●ホームスクール市場に向けた各種のツールやサービスが開発される
     ↓
     ●ホームスクーラーの中から優秀な子供達が登場し、新しい
      ライフスタイル成功したと世の中に認知されるようになる。

    「ホームスクーリング」に限らず、新たなライフスタイルが世の中に定着していいく流れは上図のようなパターンであることが多い。2006/7/1号で紹介した、同性愛(レズビアン、ゲイ)、両性愛(バイセクシャル)、トランスジェンダー(自分の性に違和感のある人)を指すLGBT層に向けたレインボー市場(性の多様性が語源)についても、世間の偏見を除いて客観的にリサーチをすると、彼らの平均年収や購買力は一般の消費者層よりも高いことから、欧米の企業はそれを新たなライフスタイルとして認め、優良顧客との囲い込みを始めているほどだ。

    そこまで極端ではないにしても、現代人が何らかの“こだわりを持った生き方をしたい”と考える傾向は強くなっている。会社で出世する、起業家になる、仕事よりも家族を優先する、毎回の食事は何よりも大切にする、などいずれもライフスタイル(生き方)の一端であるが、人生の中で自分が何を最も優先するかの答えは、これから更に多様化していくことだろう。

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    2006/10/20 多様化するライフスタイルで変化する遺産相続の損得勘定
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    2005/10/14 負け組とは侮れないネオニートの「雇われない生き方」の知恵
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     2006年に注目された「Web2.0」の中には、ソーシャルネットワーク、ソーシャルブックマーク、ソーシャルテキストなど「ソーシャル(social)」がキーワードとなっているものが数多い。この場合のソーシャルには、「同類の集まり、共助や互助」という意味が込められていて、先のライフスタイルによって人と人が繋がるという流れとリンクしている。あれこれと登場しているWeb2.0型のネットサービスは、そんな人々のソーシャル活動を支援するためのツールであり、ソーシャルマーケット全体のごく一部でしかない。そこでこの市場の全体像を捉えるには、「ソーシャルマーケットとは何か?」を大きな視野で理解しておく必要がある。

    これまでの世の中の枠組みは、公共性の高いサービスは政府や自治体が行い、民間の企業はそれとは異なる営利追求型のサービスを提供するという二極分化によって成り立っていたが、少子高齢化による家族構成の変化や環境問題など、社会構造が変化することによって「公益」と「私益」の中間にあたる「共益サービス」に対する需要が急速に高まっている。

    《事業における公益・共益・私益の違い》
      事業における公益・共益・私益の違い

    ホームスクーリングの問題にしても、国の制度が世間の声に対応するまでの速度は最も遅く、企業も市場が未成熟でビジネスとしての採算が見込めない段階では参入してこない。それでも水面下では悩める不登校児が急増しているという状況の中で、いちはやくアクションを起こすのは、実際に不登校児を抱えている家族やその友人、彼らを支援しようとする市民レベルの協力者達である。その活動がNPO団体のような形で規模を大きくしていくこともあるし、ネット上のソーシャル活動として拡大していくこともある。

    これらの共益活動は利潤を目的としたものではないが、経済に与える影響は決して小さくない。経済産業省の試算では、ソーシャルマーケットを経済的な側面からみた市場規模は現在でも約75兆円で、10年後には 120兆円を超えると予測されている。新たな社会問題が次々と出現してくる中で、ソーシャル活動(共益活動)が求められる分野は急速に拡大しているのだ。

    《ソーシャルマーケット拡大の要因となる社会問題》
      ソーシャルマーケット拡大の要因となる社会問題

    ソーシャル活動への参加者は、一般市民や消費者のレベルだが、その中には企業経営者や各界で活躍するプロのスペシャリスト達も個人の立場で含まれている。彼らが本業のビジネス(私益活動)で培った経験やノウハウを、ソーシャル活動の中に還元することにより、私益と共益との境界線は次第に曖昧になっているのだ。たとえば、大手システム会社に勤める優秀なエンジニアが、プライベートな時間を利用したソーシャル活動としてオープンソースの開発に参加することは、これまで企業が積み上げてきた知財がソーシャルマーケットへとシフトすることを意味する。

企業の商圏を喰いはじめるソーシャル活動

     非営利での活動方針を掲げているものの、大企業を凌ぐほどの規模に成長した共益団体も欧米には多数存在している。2005/7/19号で紹介した「全米退職者協会(AARP:アープ)」はその代表的なもので、50歳以上を対象とした会員を全米で3600万人以上集めている。

    年間 12.50ドル(米国外の会員は年間25ドル)の会費で会員になれば、各種保険サービスの利用から税務や相続についての相談、旅行プランの提供や、趣味サークルやボランティア活動への参加まで、セカンドライフを楽しむための各種サービスが豊富に用意されている。

    そんな状況から、企業も共益団体の活動を無視することができなくなっているが、そこでは敵対するのではなく、共存共栄の道を模索することのほうが賢い。AARPが退職者の支援を旗頭として巨大団体へと成長している背後でも、企業が巧みな事業提携をしている。AARP会員サービスの特徴は、AARPが独自に行なうのではなく、AARPの会員組織に魅力を感じる民間企業との業務提携によって実現している仕組みであることだ。例えば、保険分野のサービスでは、米保険業界大手のハートフォード社やニューヨークライフ社などが、実質的なサービスの提供をしている。AARP側では提携企業に対して、団体名を冠としたサービス提供をすることを認めたライセンス料を徴収することで収益を得ている。

    《AARPが展開する会員サービスの仕組み》
      AARPが展開する会員サービスの仕組み

    全米退職者協会(AARP)

ソーシャルマーケットにおける民間企業の役割

     AARPの例からもわかるように、ソーシャルマーケットにおける民間企業の立場は、ビジネスとしての採算を度外視した無償サービスを提供して共益団体と張り合うことではなく、共益団体に対して企業の立場にふさわしいパートナーシップを組んでいくことだろう。企業がソーシャルの流れによって「利益を追求しない団体」になってしまえば、自由な時間を利用して共益活動に参加している人達の収入源(サラリー)が途絶えて生活の糧が無くなってしまう。つまり私益な活動が健全に機能している世の中であるからこそ、共益活動に資金とマンパワーが循環してゆくのだ。これを裏付けるように、欧米では所得水準の高い富裕層ほど共益活動への参加率が高い。

    民間の企業がソーシャルマーケットへ関わる具体的なビジネスモデルとしては、2006/12/21号で紹介したファンドレイジング向け商材の卸売ビジネスなどが欧米では成長している。これはNPO団体が活動資金集めのために販売できる商材を企業が卸売りの形で供給するもので、NPOとの間では歴としたビジネスの商取引が成り立っているが、それがNPO活動の資金繰りを支援することになるため、企業は間接的な社会貢献をしていることになる。

    《グッズ販売によるNPO団体の資金調達例》
      グッズ販売によるNPO団体の資金調達例

    またリサイクルビジネスにおいても企業(私益団体)とNPO(共益団体)との提携関係は効果的に作用する。米国ペンシルバニア州にあるファンディング・ファクトリーという会社は、使用済みの携帯電話やプリンターカートリッジをリサイクルするビジネスを展開しているが、その回収ルートとしてNPOや学校などを提携先としている。

    その仕組みは、まず、学校やNPOなどリサイクル活動による資金集めをしたい団体が「FundingFactory.com」にオンライン登録をする(登録料は無料)。会員となった学校(団体)の生徒や父兄、職員らは、使用済みのプリンターカートリッジや不用な携帯電話を学校(団体)単位で回収して、「FundingFactory.com」まで宅配便で送付する。その際に使用する梱包材や送料は同社側で負担する。

    こうして回収されたカートリッジと不用携帯電話の機種や数量に応じて、各学校・団体側にはポイントが発行され、各々に設定されたオンライアカウントに蓄積される。そのポイントが貯まれば、同社サイト上にあるオンラインカタログに紹介されている商品から、各団体が必要としている物品と交換できるという仕組みだ 。リサイクルビジネスのやり方がわからない共益団体にとって、その分野の
    専門ノウハウを持つ企業の手助けが必要になることに着目し、お互いにギブアンドテイクの関係になる仕組みを確立したのが、同社のビジネスモデルといえるだろう。(詳細は2004/3/28号にて解説)

    Funding Factory

    《Funding Factoryのリサイクル品回収プログラム》
      Funding Factoryのリサイクル品回収プログラム

    これからの企業がソーシャルマーケットへの関わりが重要になることは間違いないが、そこでは私益団体としての立場を明確にしながらも、事業の社会貢献性について重視しなくてはいけない。「儲かれば人を不幸にしても構わない」という拝金主義に偏った事業は消費者からの非難を浴びて顧客を失う反面、社会貢献度の高い事業に対しては消費者が支持をして、口コミで顧客を呼び集めてくれるという追い風が起こりやすい。この法則に習えば、経営者が事業の方向性に迷った時には「それは世の中のためになる事業なのか?」を問いただしてみることにより、来年以降の活路が開けるはずである。

    《ソーシャルマーケットを味方に付けた企業の成長法則》
      ソーシャルマーケットを味方に付けた企業の成長法則

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    2006/4/10 Web2.0サービスの実例から学ぶ情報連鎖の仕組みとネットの将来像
    2006/1/20 営利企業の商圏を脅かす非営利団体と有償ボランティアの影響力
    2005/7/19 最大の退職者団体AARPに学ぶ団体運営ビジネスの急所
    2004/3/28 独自の回収ルート開拓が鍵となるリサイクルビジネス攻略法
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     ネットの力が人間の新しい生き方(ライフスタイル)やソーシャルマーケットに対して大きな影響力を及ぼしていることは間違いないが、もう一つ、2007年の新たな動きとして予測されるのが、資金(お金)の流れがWeb2.0的なネットの変革によって変わっていくことである。経済の枠組みは「人・モノ・金」によって出来上がっているが、人と物の動きについてはネットの普及によって激変したことは言うまでもない。お金の流れについてもオンライントレードをする個人投資家が増えたことにより、創業からわずか数年のベンチャー企業でも株式上場による資金調達がしやすくなっている。これだけでも“革命”と言えなくもないが、金融2.0の潮流には、さらにその奥がある。

オンラインソーシャル金融による資金の直接調達

     金融2.0の特徴をわかりやすく言えば、「私はこんな事業がしたいのです」と広く投げかけると、それを資金面で援助してくれる“あしながおじさん”が様々なルートから見つけられるようになる、ということだ。もちろんそこでもネットが重要な役割を果たすことになる。

    次に迎える大きなインターネット上のトレンドには「個人間金融(Peer-to-PeerLending)」の登場があると言われている。これはネットを通じて一般の消費者同士でお金を融通しあう「Zopa(ゾーパ)」のようなモデルだ。以下は2006/11/1号でも紹介した内容である。

    《Zopa(ゾーパ)による個人間金融の仕組み》

     英国にある「Zopa(ゾーパ)」というサービスは、お金を貸したい、あるいは借りたい個人をマッチングさせるためのオンラインマーケットプレイスである。お金を人に貸してその利息を儲けたい人、家の修繕や旅行などでまとまったお金を借りたい人などが利用者で、貸したい人と借りたい人の情報を公開してのマッチングをサイト上で行う。貸し手はサイト上で借りたい人のリストを検索して情報をチェック、これなら貸していいという人を入札する。貸し手と借り手が一対一でもいいが、貸し手のリスクを分散するために、たとえば50万円を10万円ずつ5人に分けて貸すといったことができるようになっている。

    Zopa(英国)

    ただし、顔が見えない相手に対して金を貸すことには信用面のリスクが伴う。そこで融資審査に相当する借り手の信用度を図る行為は、個人の信用情報会社のイクファクス社(米国)が提供する信用情報(主にクレジット履歴など)に基づいた格付け情報を、貸し手自らで確認するようになっている。最良の格付けがされた借り手は「A*」で、次いで「A」「B」「C」の4段階が設定されている。それぞれのランクによって設定できる金利が異なっていて、A*ならば5〜10%、Cでは8〜10%というのが標準的な金利の設定ラインだ。

    ゾーパ本体の収益構造は、借り手から手数料として借入金額の0.5%を徴収する。また貸し手からも年間サービス料の名目で貸出金額の 0.5%を徴収する。これ以外の追加費用は求めていないが、利用者が保険業者の紹介をゾーパに求めた場合は、その仲介手数料が保険会社から得られるようになっている。

    ゾーパでは担保をとるという概念がない代わりに、返済を保証する一つの手段として「返済保護保険(Repayment Protect policy)」を保険会社から提供している。これは、借り手が病気や事故、失業などで返済できなくなった時は1500ポンド(約33万円)まで、本人死亡の場合は25000ポンド(約550万円)までを本人に代わって保険会社が弁済するというプランだ。加入は任意で、加入すると借入額、金利、利用日数から保険費用を算出して毎月の返済金額の中に組み込まれる。

    《ゾーパによるオンライン個人金融の仕組み》
      ゾーパによるオンライン個人金融の仕組み

趣味の活動におけるマネタイズと仮想資産

     もう一つの、お金に関する変化として「労働」以外でもお金を稼ぐ選択肢が増えていくということを2007年以降の注目点として挙げておきたい。ブロガー達の間では「マネタイズ」というキーワードが浮上してきているが、これはブログやSNSなどネット上での個人的な活動を収益化していくことを意味している。従来からあるマネタイズの方法としては、広告枠の掲載やアフィリエイトがわかりやすいが、もっとバラエティに富んだマネタイズの方法が登場してくるのが2007年のトレンドである。

    その背景には、企業が“ネットにおける個人ユーザーの力”というものに着目していて、これまで広告宣伝費としてマスコミ媒体に投下してきた資金の一部を、個人ユーザー向けの報酬プログラムに差し替える準備が水面下では着々と行なわれていることがある。個人的な趣味の活動においても収入の道が開かれるようになれば、これまでの「労働」に対する常識や価値観が大きく変化していくかもしれない。

    「芸は身を助ける」という言葉ではないが、「趣味道楽が身を助ける」という動きが端的に表れているのが 2006/12/3号で紹介したようなコレクション投資の世界で、玩具や古着、アニメグッズなど、これまで“道楽者の遊び”としかみられていなかったアイテムのコレクションが“資産”としての価値を持ちはじめているのだ。欧米では一台のミニカーに 200万円の価値が付くことさえあるが、これを支えるのがコレクターを対象とした専門オークション市場である。以下の条件に当てはまるものであれば、分野を問わず資産としての価値は上昇していく法則が成り立つ。

    《コレクションの価値が上昇していく法則》

      ●条件1:供給量がこれ以上増えない製品や作品であること
      ●条件2:コレクター人口(需要者)が多数いる分野であること
      ●条件3:正当な取引市場が整備されている分野であること

    マネタイズが可能な趣味(遊び)の領域は、リアルな物の収集だけに留まらず、オンラインゲームなどの仮想空間でも成り立つ。バーチャルなゲーム上で獲得したポイント(ゲーム通貨)や成長させたキャラクターを現金売買できる市場は「リアルマネートレード(RMT)」と呼ばれ、これもブレイクの兆しをみせている。オンラインゲーム上では、リアル社会とは違った人との出会いやコミュニケーションがあるため、そこでの生活(活動)を望む人の数が増えてくれば、仮想社会の中で生み出される仮想資産の価値も上昇していくというわけだ。

    今回の2007年展望レポートで紹介した「ライフスタイル」「ソーシャル」「金融 2.0」という3つのキーワードには、相互に深い関連性がある。ITやネットを活用することで、人はたった一つの常識的な生き方に縛られるのではなく、多様なライフスタイルを選択することが可能になる。そして同じ価値観を持つ人と人がP2Pで繋がり、コミュニケーションを始めることで、従来のような会社や団体のような組織とは異なる、新しい人間関係が生まれるのだ。そこでの価値観は、これまでの常識に囚われない斬新なもので「大切にしたいもの」「こだわりたいもの」「必要なもの」の対象も従来とは違ってくる。その流れに伴い、資金の流れや資産の価値も変化していくというのが、現在のような格差社会に釈然としないまま生きている人達が、次に描こうとする生き方のシナリオだろう。

    もちろんそれが1年の間に実現するわけではないが、人が心の中で幸せと思う価値観が変化していくことに伴い、人(消費者)を相手にする企業やビジネスの在り方も変わってくるはずである。その具体的な動向やモデルについては、来年の各号で詳しく掘り下げていくこととしたい。

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    2006/12/3 趣味と実益を兼ねたコレクションへの投資による資産の築き方
    2006/12/17 モノを売ることから転換する脱物質化ビジネスモデルの胎動
    2006/11/1 個人間の金貸しを仲介するオンライン個人金融のビジネスモデル
    2006/10/1 仮想空間の好立地を取引するプロダクトプレースメントの仕組み
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