過去の常識を捨てる勇気が必要になるWeb2.0的ビジネスの発想転換
  
Top > 注目の新規事業テーマ
   
JNEWS LETTER
2週間無料体験購読
配信先メールアドレス

Counter
過去の常識を捨てる勇気が必要になる
Web2.0的ビジネスの発想転換
written in 2006/4/10

インターネットがビジネスの現場に登場してから十年を経て、ネットによる集客や販売のノウハウがようやく定着してきた感があるが、ここへきて新たな動きとして「Web2.0」というキーワードが浮上してきた。2006/3/23号でも触れたが、Web2.0型サービスの特徴は個々のコンテンツが連携と共有をすることにある。既に人気化しているブログやソーシャルネットワークはその一例と言えるが、それがWeb2.0の全貌ではなく、極端な言い方をすると「自分(自社)のホームページ」という概念が消滅してしまう可能性を秘めている。

ネット公開用のhtmlファイルを作り、Webサイトへアップしてアクセス数を稼ぐ努力をする従来のサイト運営法はやがて過去のものとなり、Web2.0の時代にはワープロソフトで文書を作るだけで、それをネット用のコンテンツとして公開することができ、その後は他のユーザーが公開している類似コンテンツと自動的に連携しながら情報の価値が高まっていく。それを実現させるための技術が「Ajax:エイジャックス(Asynchronous JavaScript + XMLの略称)」と呼ばれているもので、ITエンジニア達の間では最もホットな話題となっているが、経営者の立場では技術の詳細を理解することよりも、「Web2.0によって何がどう変わるのか?」を全体的にイメージできることのほうが大切だろう。

米国でもWeb2.0のコンセプトはまだ草創期にあるため、専門家の間でも人によってそれぞれ解釈が異なり、それをどんなビジネスに落とし込むことがベストなのかの明確な回答を導き出すまでは至っていない。これはネットビジネスの第一世代(Web1.0)が生まれた1995年頃の状況とよく似ている。ということは、Web1.0→Web2.0の変革期を迎えている今のインターネット市場には未知なる商機がたくさん潜んでいるはずである。そこでJNEWSが考える Web2.0的ビジネスの発想と着目点を整理してみたい。

コミュニティに参加することが古くなる、Web2.0的な発想

    「Web2.0の時代にはコミュニティが活発化する」という意見はよく聞かれるが、これが正しいか間違っているかの判断は微妙だ。コミュニティ自体は旧世代からメーリングリストや掲示板、ひいてはパソコン通信時代のフォーラムなどあり、いずれもその時代には活発なコミュニティとして動いていた。

    しかし従来のコミュニティには、ある種の「村社会としての掟」があり、コミュニティ仲間とのお付き合いには気を遣う必要があった。コミュニティを盛り上げるには発言者の投稿に対して必ずレスを付けたり、相手を傷つけないような発言の仕方を工夫したりと、何かと面倒な“作法”が存在していた。またコミュニティ上での活動は、ボランティア的な奉仕の精神で行うのが前提のため、あまり熱心にコミュニティに関わりすぎると、本業の仕事が疎かにになってしまうという欠点もある。そのため勤務時間中に社内のパソコンからコミュニティに参加することを禁止している企業は多い。

    一方、Web2.0の世界ではコンテンツの自発的な連携と共有によってネット全体が一つのコミュニティとして機能するために、「特定のコミュニティに参加する」という発想自体が古いものとなる。旧式の考え方でいえば、「自分はジャズが好きだから、ジャズのコミュニティに入会して仲間を増やそう」ということになるが、Web2.0ならば自分がジャズのレコードを収集(オンラインショップやオークションで購入)しているだけで、勝手に同じ嗜好を持つ他のユーザーとの連携関係が作られていく。これはネットの各所に散らばっているコンテンツを多次元的に自動で分類する「フォークソノミー(forksonomy)」という連携スタイルによるものだ。

    そんな感覚を日本語で体験したいのならば、「はてな」が提供するオンラインブックマークサービスの中にある「コレクション」という機能を利用してみるとわかりやすい。使い方は至って簡単だ。はてなのユーザー登録をした後、アマゾンコムの中で興味があるCDやDVDのページを表示させて、自分の“はてなブックマーク”に登録するだけでよい。するとコレクションのコーナーに該当の商品が入り、同じ商品をブックマーク登録している人が何人いるのかがわかり、彼らのブックマークの詳細まで覗き見ることができる。さらに、その商品の話題を掲載しているブログの一覧も自動的に表示されるため、自分がこれから買おうとしているCDやDVDの世評を、わざわざコミュニティサイトにアクセスしなくても把握することができる。

    はてなブックマーク

    フォークソノミーの仕組みによる他サイトとの自動的な連携は、従来の手作業で設定したリンク機能に変わる革命的なもので、例えば、自分が書いたジャズ評をネットに公開して「音楽」「ジャズ」「ピアノ」「大人の趣味」といった複数のタグ付けをしておくだけで、それぞれのキーワードに関連した他人のコンテンツと多次元的に連携させることができる。これまでのように、自分と趣味嗜好が似た人のサイトを探して、メールでリンク依頼をするようなローテクな他サイトとの関係作りをする必要はなくなるのだ。

    《従来のリンクによる他サイトとの連携(Web1.0型) 》
      従来のリンクによる他サイトとの連携

ソーシャルブックマークがもたらす情報伝播の高速化

    「はてなブックマーク」のような仕組みは、米国では「ソーシャルブックマーク」と呼ばれて、先進的なユーザー達の間でネットに点在する情報を上手に整理するためのツールとしてブレイクしている。従来のブックマークは自分のパソコンにあるブラウザの中で管理するのが常識であったが、ソーシャルネットワークはネット上に自分のブックマークを保存しておき、その内容を他のユーザーと共有することによってブックマーク情報を自動的に成長させることができる。

    ソーシャルブックマークのサービス事例としては「デリシャス(del.icio.us)」が有名で、2003年にサービスがスタートしたが、その成長性に着目した米ヤフーが昨年買収している。

    del.icio.us

    ブックマークの共有は、今までにない連携をユーザー間にもたらそうとしている。例えば、ある新製品情報をブックマークすれば、同じ情報をブックマークしているユーザーがいま何人いるのかを知ることができる。これによってブックマーク登録者の多い情報(商品)ほど人気や信頼性が高いことがわかる。さらに、同じ情報を共有する他のユーザーが、別にどんな情報をブックマーク登録しているのかを見ることで、その新製品に関連した新たな情報をリアルタイムで追いかけることができる。そのため、専門分野で一目置かれた存在のカリスマユーザーがピックアップした情報は、ソーシャルブックを通して瞬く間に他のユーザーにも広く伝播していく流れが生まれる。

    この新しい情報伝達経路を把握すると、ネット上の情報発信者は「アクセスを自分のサイトに集めるための方法」としてもソーシャルブックマークの存在を意識しておく必要があることに気づく。すでに米国のニュースサイトでは、ソーシャルブックマークで記事タイトルが人気化することで大量のユーザーが記事本文を読みに訪れる流れが発生している。

    《ソーシャルブックマークによるアクセス発生の流れ》

    ●あるユーザーが気に入った記事を見つけて自分のブックマークに
    │登録する。

    ●カリスマ的ユーザーのブックマークリストを習って、他のユーザーも
    │同じ記事を自分のブックマークに登録する流れが生まれる。

    ●同じ記事のURLをブックマーク登録するユーザーの数が増えると、
    │ソーシャルブックマークサイトのトップページ上位に“注目記事”
    │としてタイトルが表示されるようになる。

    ●注目記事は数多くのブログでも引用されて加速度的な連携を
    │広げていく。

    ●注目記事の発信元であるニュースサイトに本文を読むために
     アクセスが集中。

他人のためでなく“自分のため”が基本のWeb2.0的な情報センス

     Web2.0型のサービスとして米国で人気化している機能は、ブログやブックマークサービスの他に、自分のスケジュールを他人と共有できる“ソーシャルカレンダー”や、自分が書いた文書を数多くの人で共有できる“ソーシャルテキスト”などがあるが、これらの新しいネットコンテンツに共通しているのは、他人に見せることを第一の目的としているのではなく、自分のために制作、収集、整理した情報(コンテンツ)を、他人にも一部公開することで連鎖を繰り広げているという点だ。これこそが、当初から他人に見せることを前提とした従来のコンテンツとは異なる点であり、Web2.0的な情報センスが問われる部分でもある。

    例えば、ブログで日記を書く習慣は日本でも広く普及したが、そもそも日記を書く本来の目的は「自分のために日々の記録を綴ること」であるはずだ。文具店で日記帳を購入する代わりに、ネット上のブログサービスを利用して日記を綴るというのがオンライン日記の原点にある。自分のための日記だからこそ、他人に読んでもらう必要は全くないのだが、「他人の日記を盗み見る」という行為は他人の心理として実におもしろい。だからこそ“日記”はネットコンテンツはブレイクした。これが最初から他人に読んでもらうことを前提とした文章であれば、単なる自己PRメッセージになってしまってつまらない。

    そのため、ブログの投稿欄には「一般に公開する、しない」の設定機能が備わっていて、他人にも読んでもらいたい日記の内容に関してのみ「公開する」を選択できるようになっている。米国の著名なITベンチャー経営者の中では、大半の日記を“非公開”の設定で書き続けている人が少なくない。しかしそんな人たちの日記は、一般ユーザーに「何とかして読みたい」という色気を漂わせている。この“色気”こそが、加速度的な口コミの連鎖を生み出す原動力となるものだ。

    ブログ日記に限らず、他のWeb2.0サービスについても、「自分のための情報整理ルーツ」として活用するための Webアプリケーションに、他ユーザーとの連携や共有機能が付加されていることが多い。これを上手に使って連携の輪を広げていくためには、色気のある情報整理と公開のセンスが求められる。

ポータルサイトが狙うWebアプリケーションの将来性

    「アプリケーション」といえば、これまでは自分のパソコンの中にインストールして使うのが基本であったが、Web2.0の時代にはネット上にあるアプリケーションをブラウザを通して利用することが主流になる。無意識のうちに Webアプリケーションが広く普及しているのがメールソフトの分野で、近頃では個人ユーザーの多くがYahoo!メールやGmailなどのWebメールを活用している。場所や端末を問わず、どこからでも同じ環境で利用できる Webメールの使い勝手に慣れてしまうと自分のパソコンの中でアプリケーションやデータを管理する従来の方法が煩わしくなってしまう。

    これと同様に、日頃よく利用するワープロ、表計算、住所録、スケジュール管理ソフトなども Webアプリケーションとして利用できればとても便利だが、それを実現させるための技術や回線環境のインフラは既に整っている。各種の Webアプリケーションを提供するポータルサイトとして多くのユーザーを獲得することができれば、これまでマイクロソフトのワードやエクセルが独占してきた市場を奪取することも可能になる。ヤフーやグーグルがWeb2.0時代の戦略として狙っているのも、まさにこの部分だ。

    《オンラインワープロによって変わる情報発信術》
      先頃、グーグルが買収した「ライトリィ(Writely)」といオンラインワープロツールは、Webブラウザ上でワープロ文書を作成、編集してワード形式のファイルとして保存したりHTMLファイルとしてもアウトプットすることができる。このサービスは昨年の夏ごろに登場するや、瞬く間に数万人に及ぶ利用者を獲得した。同機能のベースになっているのが、ソーシャルテキストという Web2.0に属するWebアプリケーションで、インターネット最大の百科事典といわれる「ウィキペディア(Wikipedia)」もソーシャルテキストの具体的なコンテンツ例といえるものだ。

    Writely

    ソーシャルテキストが狙うのは、単にワードと同等のワープロソフトをネットで無料提供しようというものでなく、文書作成から情報発信の流れを根底から変えようとするものだ。これまでワープロで作成した文書はパソコンの中に保存してプリントアウトするかファイルを手渡しする形で人に伝達されていた。しかしオンラインワープロを使って文書を作成、ネット上のスペースに保存しておけば、そのままファイルを、特定の仲間や不特定多数のネットユーザーに閲覧させたり共同で編集作業が行えるようになる。しかも、作成した文書にタグ付けをしておけば、オンラインブックマークと同様に、他の関連コンテンツと多次元的に情報を連鎖させることもできる。活用次第では、企業内の文書管理の方法や、ネットユーザーに対する情報発信のスタイルにも革命的な変化を与えることになる。

    《オンラインワープロによる情報伝達のイメージ》
      オンラインワープロによる情報伝達のイメージ

    《表計算データの連携による新たな会計システム》
       ワープロに限らず表計算ソフトでもweb2.0型オンラインアプリケーションの普及が会計データに多次元的な繋がりを生み出すことになる。そのわかりやすい事例として、「NetWorthIQ」というサイトでは自分の貯蓄や借金の額などを入力して資産状況を管理することができるオンライン機能を提供しているが、他のユーザーとの資産状況を比較して、自分がいまどのポジションにいるのかを探ることができる。年齢や学歴、職業などの条件によって比較検討ができるため、自分と同じ年齢、同じ職業のグループの中で、自分の現在の資産額が多いのか少ないのかをリアルタイムに把握することができる。

    NetWorthIQ

    これは「資産形成」をテーマにしたweb2.0型のコミュニティと言えるものだが、同様の機能を本格的な会計業務の中に組み込めば、自分の家計簿データを税理士と共有してリアルタイムで税金対策の指導を受けることができたり、中小企業が銀行の融資担当者と会計データを共有させることにより、スピーディな資金調達の体制を作ることも可能だ。

    また“お金”にまつわる個人データというのは、はやり他人が覗きたくなる対象としてとても色気があるもので、その気持ちを上手に操ることができれば、「社長の日記」に次いで「社長の資産内容公開」をテーマとした新たな人気コンテンツを生み出すこともできる。そこにはもちろん、お遊びとしての要素も含まれているが、上場企業では株主に対する情報開示のツールとして活用してみることも有意義だろう。

     欧米におけるWeb2.0の波は、今のところ先進的なベンチャー企業が「こんなことができる、あんなこともできる」と新たなアイデアやワザを次々と出し合っているような状況だが、それらに共通しているのはネットユーザーに対して何らかの Webアプリケーションを提供し、彼らが自分のために制作したデータを、自分と似た嗜好や価値観を持つ他ユーザーのデータと連携させて、緩やかな“友だちの輪”を形成させている部分である。

    現在は個々の Webアプリケーションがそれぞれ人気化して登録会員を集めているが、将来的には下図のようなイメージで大手ポータルサイトの中で、複数の Webアプリケーションが利用できるようになるだろう。これらの Webアプリケーションはユーザー間の連携を得意としていることから、「ソーシャルソフトウエア」とも呼ばれる。

    《Web2.0時代のポータルサイト例》
      Web2.0時代のポータルサイト例

    いまWeb2.0型のサービスを上手に使いこなしているのは、企業ではなく個人ユーザーの側で、しかもネット草創期からの長いキャリアを持つベテランユーザーよりも、htmlは知らないというブログ以降にデビューしたような若いユーザーである。彼らの琴線を動かすためには、これまでの十年に築いてきたサイト運営のノウハウや常識を捨て去るくらいの発想転換も必要になってくることを、十年選手のIT経営者は意識しておくべきだろう。例えば、自分のサイトへアクセスを集めるためのノウハウも「Web1.0」と「Web2.0」とでは大きく異なる。

顧客の流れを変えるソーシャルサーチの影響力

     上手くいけば爆発的な連鎖が期待できるWeb2.0系サイトからのアクセスを集めるには、各ユーザーのオンラインブックマークにできるだけ多く登録してらえるような工夫(オンラインブックマーク対策)をしたり、そこから発展した「ソーシャルサーチ」と呼ばれるコミュニティベースの新たなサーチエンジンの検索結果にも気を配る必要がある。

    ソーシャルサーチの仕組みは、あるユーザーがグーグルなどで自分が探し出したわかりやすい検索結果を、同じキーワードを探している他のユーザーのためにオンラインブックマークに保存して解説のコメントまで付けておくというもの。そのデータが蓄積されていくと、ロボット検索よりも信頼できるサイトを別の検索者に提示する二次的なサーチエンジンの役割を果たすことになる。既に米国では、旅行、就職、健康など特定の分野に検索範囲を絞った個人的なソーシャルサーチサイトが多数登場している。

    従来のサーチエンジン対策では、サイトの作成者が検索ロボットの盲点を突くことで検索結果を上位に持ってくることができたが、ソーシャルサーチの時代に入ってくると、小手先の機械的なテクニックでユーザーを集客することが難しくなってくる。例えば、レストランのサイトならば、いくらサイト上で掲載するメニューの写真を美しくしたり、誇張表現でアピールしたところで、実際に店を訪れてその料理が美味しくなければ、ソーシャルサーチの検索上位は狙えない。

    しかしこれを難しく考える必要はなく、サイト運営のスタイルが原点に戻ることを意識しておけばよい。レストラン経営者が本業の料理研究をそっちのけで、アクセス稼ぎのための方法ばかりを考えているような店には、誰も行きたいとは思わないだろう。一方、本当に味の良い店であれば、地味で素朴なサイトであっても、検索結果で上位を獲得するのにふさわしい。

    もっと極端な話をすれば、レストランの店主がネットに全く興味が無く自前のサイトを作っていなくても、その店に行ったことのある顧客達のブログ記事や口コミ評をタグによって集約させることだけで、その店のサイトができてしまうのだ。本当に美味しい店を探している未知の来店客としては、このようなサイトのほうが信頼できておもしろい。

設備よりもコンテンツに対する投資の重要性

     繰り返すが、次世代のネットビジネスは他サイトとの連携と共有が重要な鍵を握ることになるため、独自ドメインサイトの中ですべての展開を考えることには無理がある。例えば、旅行会社ならば自前で旅行コミュニティサイトをゼロから立ち上げようとするのではなく、一般ユーザーが自発的に旅行記を投稿する“トラベログ”と呼ばれる分野のコミュニティサイトと連携させることのほうが賢い。

    ただし、Web2.0時代の“企業と個人の連携”は契約や広告出稿によって意図的に築けるものでなく、良質のコンテンツ(情報)を個人ユーザーに対して提供することで自然発生的な連携の動きを待つしかない。旅行会社ならば、トラベログの投稿者がどんな引用情報やリンク先を探しているかを先読みして、そこに向けて有意義な情報を発信し続けることが大切。つまり「良質なコンテンツ(情報)」こそが、他サイトとの連携を促す接着剤の役割を果たすことになるのだ。

    不動産会社のネット戦略でいえば、これまでは自社サイトの中に独自のデータベースを構築して、物件情報を登録していくことが定番となっていた。しかし高価なデータベースはあっても、その中に登録されている物件情報は他社と代わり映えがしないというケースは少なくなかった。

    しかし「連携と共有の時代」になると、むしろ自社開発した独自のデータベースにこだわっていることが足かせとなる懸念もある。共同で使える不動産ポータルサイトを上手に活用し、その中で他社よりも充実した内容の物件情報を提供していくことのほうが、物件に対する問い合せを誘導する流れは作りやすい。ネットで顧客を獲得する目的では「自社専用のサイト」や「自社専用のデータベース」にこだわる必要はまったくないのだ。

    不動産業者が物件情報を発信する場としては、不動産ポータルサイトの他にも、Google Maps の登場によって急増している「地図」をテーマにしたコミュニティサイトも重要拠点となる。その事例として米国でスタートした「Platial(プレイシャル)」というサイトは、自分用の地図をカスタマイズして、想い出の場所や行ってみたい場所、住んでみたい土地の位置などをマーキングして、タグやコメントを付けて他のユーザーとも共有できるサービスを提供しているが、不動産業者がこのようなオンライン地図の中で、手持の物件情報をユーザーと共有するスタイルを築けば、自社の専用サイトで自前のデータベースを構築するよりも遥かに効果的な集客ができるはずだ。

    Platioal

    Web2.0の動向を追いかけて気付くことは、変化の本質は“技術”よりもむしろ“ユーザー側の使い方”にあるということだ。XML によってホームページはどう変わるのか、という議論については、日本でも2000年頃から先進的なITベンチャー達の間で行われてきたものだが、従来のホームページ運営スタイルが染みついている頭の中で柔軟なアイデアを生み出すことは難しかった。しかし“昔のこと”を知らない新しいネット世代が登場してきたことにより、ネットにおける他人との関わり方や情報発信のスタイルに大きな変化が訪れている。

    ネットに公開された情報と情報とが相互に連携し、それが新たなコンテンツとしての価値を持ち、また別の情報と連携していくという伝播を繰り返していく流れの中では、大手ポータルサイトの企みが必ず思い通りになるというわけでもないし、営利な権利を独占できるわけでもない。Web2.0の波は、企業や個人の区別をあまり意識しない連携と共有を繰り返しながら、思わぬ方向に進んでいくこともあるが、「本当に良いサービスやコンテンツを発掘して流行させる力」は確かであるため、消費者を欺いたり媚びを売る商売よりも、本物のこだわりや、社会のためにやるべきことを貫いているサービスが、自然の光を浴びやすくなることを示唆しているのかもしれない。

■JNEWS LETTER関連情報
2006/3/23 Web2.0のサービスモデルにみる、連携と共有の次世代ビジネス
2006/2/1 オンライン旅行予約サイトに変わる新たな旅行ビジネスの台頭
2005/9/19 比較検討サービスの普及で変わるオンライン消費者の購買行動
2005/1/16 ブログの普及が向上させるアフィリエイト販売機能とその影響力
2004/6/23 他サイトとの高度な連携が鍵となるeコマース業界の将来像
 ※バックナンバー用ID、PASSWORDを入力してご覧ください。