ベンチャー企業に最適な「やる気を創出させる報酬体系」を考える(1)
現在、我が国では次世代の経済の強力な牽引車となるベンチャ−企業の出現が待ち望まれている。しかし、ベンチャ−企業を我が国で軌道に乗せるためには、とにかく資金を必要とする。
不動産関連のコストは高く、人件費は世界一、公共料金も高く、法人税率も高い。このため、不思議なことに爆発的に成長している企業ほど資金に余裕がなくなってしまう。市場の変化が激しければ、設備の更新が必要で、機能がより高度になることが求められれば、それに見合う人材の配置が求められ、オフィスのスペ−スも必要になる。また、売上が増加すれば、売掛金が増加し運転資金がつらくなってしまう。このように業績が好調なベンチャ−企業であっても利益と資金状態に著しいずれが生じてしまう。
この中でも人件費圧力がもっとも厳しいものだろう。人件費は売上に必ずしも連動することなく発生するものだし、しかし一方強引な人件費圧縮は従業員の業務に対する意欲を損なうことになりかねない。
では、人件費の支出によるキャッシュの流出を防ぎ、かつ従業員の業務に対する意欲を高める方法はないのであろうか。
ここでは、従業員に賃金という形ではなく会社の株式を何らかの形で付与することにより従業員の意欲を高める2つの方法について検討してみたい。
【1.従業員持株会の設立】
この方法は、従業員持株会という民法上の組合を設立しその組合が、従業員から資金を預かりその資金により会社の株式を購入するものである。
この場合、会社がいったん従業員に給与を支払い、従業員はその給与の一部を持株会に預けその資金で会社の株を購入することになる。購入する株式は、オ−ナ−(社長)から買い取ってもよいし、会社が増資してその増資分を買い取る形にしてもよい。いずれにしても結果的に会社の資金を減らすことなく従業員に利益を与えることができるわけである。
従業員としては、株主になることにより配当を受ける権利が生じ、また株価が上昇した場合には、取得価格と株価(時価)との差額がキャピタルゲインとなる。
【2.ストックオプション制度の導入】
ストックオプションとは従業員が会社の株式を一定の価格で買い取る権利のことをいい、初めから株式を保有するのではなく、株式を買い取る権利を従業員が保有する制度をいう。将来の一定時点で株価が上昇していればオプションを行使して会社から株式を購入する。株式取得後は、その株を市場で売却することにより、キャピタルゲインを得ることになる。
この場合、会社は株式購入の権利を従業員に与えるだけであって、この時点での資金の流出はない。また、従業員が権利を行使した場合であっても従業員が株式をお金を出して購入してくれるだけのことであるからここでの資金流出もない。
従業員としては、株価が上昇していれば権利を行使して安い価格で株式を購入できるし、上昇していなければ株式を購入しなければよいだけの話であるから、リスクの少ない魅力的な権利である。
1.の方法は古くから行われている手法で、2.の方法は最近のトレンドであるが法整備等がまだ不完全なため現実に実施している会社は日本では少ない。次回は、これらの方法のメリット・デメリットを考察し、中小企業にはどちらが向いているのか、また別の方法がないのか等について検討してみることにする。