現物出資による法人設立登記の方法とその問題点
新規独立の形態は個人事業または会社を設立しての開業のいずれかである。開業のための手持ち資金が少ない場合には、個人事業としてのスタートも決して悪いことではないが(少なくとも税金面ではメリットがある)、取引相手との契約締結の段階で法人登記を迫られる事も多いようだ。手持ち資金が少ないながらも法人登記をおこなう方法として、資本金を現金ではなく設備等の現物で出資するという選択肢があるので、詳細を説明しておこう。
有限会社設立の場合300万円、株式会社設立の場合1000万円の資本金が必要になるわけだが、通常は、銀行にそれぞれの資本金額を払い込んで出資払込金保管証明書を発行してもらうことにより資本金が充実していることの証明がなされる。しかし、それ以外の方法により資本金を満たす方法がある。それが現物出資である。出資金額の全額を現金以外のたとえば、不動産、株式等で払い込むことが可能である。それでは、現在個人の持っている車やパソコンを出資金にして会社を設立することができるのだろうか。
理論的には可能である。しかし商法では資本充実の原則から現物出資には制限を加えている。
まず基本的には現物出資をする場合裁判所の任命した検査役の検査及び承認が必要である。この検査役の検査を実際に行うことは、手続きが煩雑な上、時間もかかるため、有限会社の設立程度の小規模な登記ではほとんど利用されることはない。
では検査役の検査が不要とされる場合とはどのような場合だろうか。
- 目的財産の価格が資本金の5分の1を超えずかつ500万円以下の場合
株式会社の場合普通1000万円、有限会社の場合300万円だろうから、株式会社で200万、有限会社で75万円までは検査なしで出資できることになる。
- 目的財産が取引所相場のある有価証券の場合
この場合には証券会社に手続きを依頼すれば証明書を発行してくれる。
- 目的財産が不動産である場合
不動産鑑定士の鑑定証明書および弁護士の適正価格証明書が必要となり費用がかかることになる。
上記の中で資金が乏しい個人事業からの法人成りで現実に使えるのは、1.だろうと思われる。では、1.の場合、その財産の評価はどうすればよいのだろうか。
車であれば、中古車の取引相場が形成されているから、それを適用すればよいだろう。相場がないようなものの場合は特に規定はないが、一般に取得代金の半分ぐらいで評価するのが妥当だ。
しかし、ここが重要なポイントだが、登記上は1.の方法を活用して申請が通るはずだが、会社の戸籍ともいえる定款等にも現物出資の旨を記載する必要があるために、実際に取引先の企業に「定款を見せてくれ」と言われた場合に、「資本金の内訳としてパソコン75万円を出資する」という記載があるのが取引の信用上、良しとするかの判断が必要となることを覚えておきたい。