起業家になるためのノウハウ集

     
資金繰りからみたソフトハウス経営ノウハウ
wrtten in 1998.12.1

 新規独立、新規事業を実行する際には資金繰り面からみた妥当性の判断も重要な要素。つまり売掛金が多い傾向にあり現金がなかなか入りにくいような業界は、自己資金が少なく銀行融資も期待できない初めての独立起業では資金ショートを起こしやすいのだ。

 成長分野にありながら経営が難しいと言われている業界の一つにソフトウエア産業がある。銀行でもソフトウエア会社に対する融資は慎重な対応をしているが、これは資金繰りの特徴から説明することが可能だ。


2極分化するソフトハウスの特徴

 コンピュータのソフトウエアを専門に開発・販売する会社をソフトハウスと呼ぶが、SOHO企業も含めて現在は国内に6000社以上存在している。一見華やかに見えるソフトウエア業界だが、実際のところは典型的な労働集約的産業であり生産性は低いというのが銀行側の評価。確かにプログラム制作の大半は人間によっておこなわれコンピュータ化、自動化はされていない。

 受注型ソフトハウスの形態は大きく「派遣契約型」と「請負契約型」の2種類に分けられる。

<派遣契約型>
 ソフトハウスの社員をクライアント企業に派遣してソフトウエア制作を担当させる形態。この場合、派遣された社員の指揮命令権はクライアント側にある。

 ソフトハウス側にとって派遣契約のメリットはクライアント側の設備を利用してソフトウエア開発ができるために自社設備にカネをかける必要が少ないという点。しかし派遣した社員が制作したソフトウエアの技術はすべてクライアント企業が獲得してしまうために「独自技術の開発」という点では派遣契約の魅力は少ない。

<請負契約型>
 クライアント企業からソフトウエア開発を請け負い、自社内にて作業をおこない完成後にクライアントに納品する。この方式では開発過程で得られる技術やノウハウを蓄積して他の仕事に活用することも可能。また各開発工程を通して社員のスキルアップをおこなえるために人材育成面でのメリットもある。しかし開発環境をすべて社内で整備する必要があるために大きな設備投資資金が必要となるのが欠点。


ソフトハウス経営と資金繰りの関係

 低リスクで安定売上を目指すなら「派遣契約型」、売上変動によるリスクはあっても日々の業務の中で技術力・ノウハウを蓄積して次の段階の成長を目指すなら「請負契約型」ということになる。ソフトハウスのリスクとは形態別の収益構造から明らかになる。

<派遣型ソフトハウスの収益構造>
 クライアント側に社員を派遣して開発する形態では契約内容が「クライアント側指揮命令に従事する」こととなる。そのためソフトハウス対しては月単位の支払いがあり、資金繰りは比較的安定している。ただし料金設定は「工数×単価」が基本となるために労働集約的な色合いが強まり、高い利益率の商売をすることは難しい。

<請負型ソフトハウスの収益構造>
 一括請負の場合の料金設定は「1プロジェクト単位」となるため、1プロジェクトを何人で担当するのか、ではなく納期までに完成させることが可能であれば効率的な仕事分担を割り振ることも可能。その場合は利益率の高い仕事をすることができる。

 ただし重大な問題はプロジェクトが完成するまでは全く売上にならないという点。1プロジェクト完成までに6ヶ月を要すれば、その6ヶ月間の人件費を中心とした経費支払い資金は他の売上または借入により調達しなければならない。

●派遣型の売上形態

   1月   2月   3月   4月   5月   6月
 ├────┼────┼────┼────┼────┼────┤
   100万円  100万円  100万円  100万円  100万円  100万円

●請負型の売上形態

   1月   2月   3月   4月   5月   6月   7月
 ├────┼────┼────┼────┼────┼────┼───┤
  ↑ 0円    0円    0円    0円    0円    0円 ↑ 1000万円
  │                            │
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銀行がソフトハウスに融資を渋る理由

 派遣型ソフトハウスは毎月の売上額が安定しているものの、その構造は人材派遣よるために「売上の増加=社員数の増加」を意味している。最近のネットワーク構築ブームや2000年問題対応のため需要が多い段階は問題ないが、一旦需要が冷え込み派遣契約数が減少すれば社員の給料支払い負担が急激に資金繰りを悪化させる。

 派遣型ソフトハウスでは前述のように1プロジェクト完成後の料金支払いが主流になるためソフトハウス側の売掛金、立替金負担は非常に大きい。創業間もない小規模ソフトハウスが運良く大きな仕事を受注できた場合でも、大きな仕事になるほど開発期間は長引き資金繰りは厳しくなる。

 更に納期後に約束通りの期日でクライアント側がソフトウエア開発費を支払えば問題は少ないが、最近の不況下では支払期日延長や分割払いをクライアントから申し込まれることも珍しくなく、優秀な技術力も持っていても経営状態が芳しくないソフトハウスは多いという。


未払いリスクを回避するための荒技

 企業が資金繰りを悪化させる要因として「取引先から約束通りに入金がない」というパターンもよくある話。経営者なら数ヶ月先までの入金予定金額を把握しているために計画通りの資金不足なら事前に銀行と交渉して融資を受けるなど対策を施す。

 しかし取引先から約束されていた期日に入金がなければ事態が一変する。予定外の資金不足が突然訪れるために、銀行融資を受けることもできずに資金繰りが悪化していく流れだ。

 この取引先からの未入金を最大限回避するための方法が一つだけ存在する。それは売掛金になる場合には「○月○日に支払う」という口約束や紙面での確認書ではなく、支払日を期日とした取引企業の手形を受け取ることなのだ。

 現実に未払いトラブルが発生した場合に口約束や紙面での確認書では問題解決に時間がかかり、その間に自社の資金繰りは益々悪化するが、売掛金を手形で預かっておけば、その取引先が倒産しない限りは支払期日に手形が落ちて現金が入金される。企業にとって振り出した手形が決済できなければ、それは「不渡り=倒産」を意味するため、他の支払いを遅らせても手形決済だけは期日に間に合わせるのが企業経理であることを覚えておきたい。

※バブル崩壊後の金融不安の中、実際にこの方法でほとんど不良債権を抱えなかったのが街金融業者だと言われている。


これは正式会員向けJNEWS LETTER 1998年12月1日号に掲載された記事のサンプルです。 JNEWSでは、電子メールを媒体としたニューズレター(JNEWS LETTER)での有料(個人:月額500円、法人:月額1名300円)による情報提供をメインの活動としています。JNEWSが発信する情報を深く知りたい人のために2週間の無料お試し登録を用意していますので下のフォームからお申し込みください。
 
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