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知的プロの視点を学ぶ
通勤者向け音声教材の制作ビジネス
written in 2009/7/26

 容赦ないリストラ、非正社員の増加にみられるように、サラリーマン社会に異変が起こっていることは周知の事実だが、独立起業のスタイルにも変化が訪れている。「サラリーマン」という働き方がまだ一部のエリート層にしか存在していなかった昭和前期の頃には、個人で商店や職人としての工房を営む伝統的自営業が主流であったが、昭和40年代からは新規に設立される会社(法人)が急増して、たくさんの“社長”が登場するようになった。高度成長期の優秀な経営者として評価される項目には「たくさんの社員を雇うこと」が上位に挙げられていた。

しかし時代は変わり、現在の経営者に求められるのは、できるだけ人件費を切り詰めるという逆の仕事になっている。世界と比較すると日本の賃金相場は明らかに割高で、その負担を背負いながら、成長が著しい新興国と渡り合っていくのには到底無理がある。これからは国籍に関係なく、その人の実力に応じた世界標準の賃金相場が形成されていくことになるだろう。

それが意味するところは、業界や組織の壁や垣根が崩れて、縦横無尽にビジネスの人間関係が形成されていくことだ。これは既にインターネット取引として実現されているが、やがて労働市場にも波及して、優秀な人材であれば、勤務先の会社だけに縛られることはなくなり、国境さえも意識せずに複数のビジネスパートナーやクライアントとの関係を築いていくことができるようになる。近い将来に起こるビジネス構造の変化は、組織(会社)から個人への回帰と、自分と同レベルの実力や才能、スキルを持つ人達との間で形成される、新たな集合体の台頭だと言われている。

企業は次第にスリムになっていく一方で、会社には頼らずに自立した収入を得ていける知的スペシャリストが新時代の象徴として注目されるようになるだろう。ただし今のところ、知的スペシャリストとして成功しているのは、それを目指す人達の中でも数パーセントというのが実態である。

たとえば、伝統的な知的スペシャリストとして、税理士や司法書士などの士業は自宅オフィスからでも平均的なサラリーマンよりも高年収を稼ぐことができる職業だ。しかし難関の国家試験に合格できるのは受験者数の1割未満であり、さらに合格者の中でも開業後に顧客を安定確保できるのは、同業者よりも実力が高い一部の人達に絞られてくる。資格の取得は、あくまで開業への準備が整ったということであり、成功へのパスポートではないのだ。

それでは、資格が不要な分野の開業なら容易かといえば、決してそうではなく、他の人が持ち合わせていない能力、才能、センス、努力の積み重ねなどがなければ知的スペシャリストとして自立していくことは難しい。彼らが従来の会社経営者と違うのは、どこからか仕入れてきた商材を右から左へ動かすことで差益を得たり、借金をして調達した設備や機械を強みにしているわけではなく、自分の頭の中にある知力を上手に商品化している点である。

会社勤めに慣れている人達からみれば、かなりハードルが高いと思うかもしれないが、最初から知的プロとして成り立っている人は皆無であり、地道な準備作業や試行錯誤を重ねた上で安定収入の道を築いている。幸いにして、知的スペシャリストとしての独立には、多額の資金や、決められた時間表は必要としないためサラリーマンとの兼業からスタートすることも十分に可能である。今回はそのように独立して事業を軌道に乗せている人を JNEWS会員の中から紹介しながら、彼らがどんな視点より独自の事業プランを練り上げて、収益化に成功しているのかを考察することに加えて、パートナーとして提携するための告知も行なってみたい。

通勤者向けの音声教材を制作販売するビジネス

     知識を商品化するといっても様々な方法が考えられるが、「中小企業診断士」の受験勉強をする人達に向けてユニークな音声教材をオンライン販売しているのが、KIYOラーニングの綾部 貴淑(きよし)氏(38歳)である。サラリーマン時代は大手ITベンダー企業で、経営情報システムのコンサルタント職に就いていたことから、ビジネスパーソンの個人能力を最大限に引き出す学習法について独自の研究をしていた。

    そこで思いついたのが、毎日朝夕の通勤時間帯を資格試験の受験勉強に充てられないか、ということだ。日本人が毎日の通勤に費やしている時間は平均で片道30分、東京なら1時間以上をかけている人も珍しくない。そこで通勤時間中の勉強がしやすいように、音声データによる「中小企業診断士・通勤講座」というオンライン講座を2008年から運営している。

    中小企業診断士・通勤講座

    教材は MP3形式の音声コンテンツとして販売されているため、サイトからダウンロードしたデータをiPodのような携帯プレイヤーに転送すれば、通勤途中に音源を聴きながら学習することができる。そのため、従来のように分厚いテキストを持ち歩きながら通勤する必要はなく、朝夕の空き時間を有効活用することが可能だ。

    教材コンテンツには、中小企業診断士の試験科目である、企業経営理論、財務会計、運営管理、経営情報システムなどの計7科目があり、さらに各科目が複数の単元によって細分化されている。1単元の学習時間(音声の再生時間)は40〜60分だが、さらに短時間での学習をしたい人のために2倍速版の音声データも含まれている。1単元あたりの価格はおよそ1500円の設定で、自分の勉強進度に合わせて単品からダウンロード購入できるようになっている。教材はすべて電子データ(MP3形式の音源とPDF形式のテキスト、学習マップ)のため、商品発送などの手間はかからない。

    中小企業診断士・通勤講座の無料サンプル音源

    《通勤講座による学習の流れ》
      通勤講座による学習の流れ

オリジナル教材を完成させるまでの準備と過程

     オンライン教材を販売しようとする試みは他にもあるが、そのやり方には二つの方向性がある。一つは他メーカーが開発した教材を仕入れて販売をするという方法。近頃ではアフィリエイトで販売できるオンライン教材も多数揃っているため、副業としても参加しやすい。しかし肝心な教材の内容についてはメーカー側にすべてお任せで、販売者が開発に関わっていないため、事業としての満足度はそれほど高くない。

    そこで自社(自分)で教材を開発するのがもう一つの方法だが、これには多額の制作費がかかるため、損益分岐点は高くなり、赤字のまま撤退する業者が少なくない。綾部氏の通勤講座も自社開発型の教材で、サンプル版の音源を聴いてもわかるようにクオリティが非常に高いのが特徴。しかし驚くことに、これらの教材は外部の業者へは発注せずに、綾部氏自身が企画〜制作の大部分を担当しているのだ。

    彼が起業を決意した段階では、まだ中小企業診断士の資格を持っていなかったため、まず試験勉強をして合格することを最初の目標にした。見事ストレートで合格した後は自身の勉強ノウハウに加えて、脳科学、心理学の書籍なども取り寄せて、学習法や学習ツールの研究もしていった。それを基にして講座の試作品を作り、知人をモニター役として第三者の意見も取り入れて、教材としての質を高めていった。

    講座のアウトラインができた段階で事業の展開方法を詳細化し、顧客の獲得方法や教材の価格設定、講座をブランド化していく流れなどを決めて「通勤講座」のWebサイトをオープンさせた。また、ブログ(講座のダイジェスト版)や、無料セミナー、過去問を解説するメルマガを開始し、試験勉強をしている人達にとって有意義な情報も発信している。

    中小企業診断士 通勤講座 ブログ版

    商品としている音声教材については、原稿の制作から、自分がナレーター講師役となった音声の収録、編集作業までを、基本的にすべて綾部氏が一人で担当している。Webサイト制作とロゴデザインは外注したものの、普段のサイト更新はすべて綾部氏が担当しているため、月々のサイト運用コストなどはほとんどかかっていない。

    このようなローコスト経営に徹しているのには、サービス開始(2008年10月〜)の初年度は売上や損益がどの程度になるのかが、実際にやってみないとわからないことや、教材作成の手順やノウハウを、自分の手で確立したいという目的がある。2009年に入ってからは順調に受講者も増えて、現在では会員数が 500名超、教材の売上も月商で100万円を超えるところにまで成長している。

    今後は中小企業診断士の1次試験ばかりでなく、2次試験対策用のコンテンツもリリースしていく予定。それが一段落すれば、中小企業診断士以外の資格に向けた教材開発へと対象を広げていくことも検討している。もちろん教材コンテンツを増やしていく過程では、自分一人での仕事量には限界があり、現在の個人事業から法人化することは検討しているものの、当面の社員は自分一人のままで、必要な労働力はアウトソーシング、外部のプロフェッショナル、在宅ワーカー、アルバイトなどを活用していく計画だ。

    そのため、会計や法律関係などの資格保有者で、通勤講座としてのコンテンツ開発等を行ないたい人をパートナーとして募集している。(会社員の副業でも可)

    ※募集の詳細は記事の後半にて。

在庫を持たない知的プロの特徴

     ネット起業の具体的な方法としては、ネット草創期から「モノを売る」ことを目的としたeコマースの仕組みが色々と開発されてきたが、近年新たに登場してきた知的プロの場合には、自分の知識や経験自体を商品化して、それをできるだけ無在庫の形態で販売、収益化していくのが特徴である。しかも、できるだけ小規模な組織として回していくことが望ましい。

    有形の商品を持つことになれば、どうしても在庫の調達や管理をするための資金や人員が必要になる。その上、流行や時間経過によって商品が陳腐化したり飽きられてしまえば、在庫の価値が目減りして損が生じてしまう。しかし無形の知的商品なら、電子データを随時改編していくことで、在庫のロスを抱えることなく、タイムリーな最新版をリリースしていくことができるし、経費とのバランスからみた売上の損益分岐点も低い水準での黒字化が可能。そのためニッチな市場や顧客層にも対応することができる。

    資格取得支援業界にも再編の波は押し寄せており、2009年7月には業界大手の早稲田セミナーが、同業のTAC(タック)へ事業譲渡することを発表した。従来の資格取得支援事業は「教室と講師」という固定費の負担が重い在庫を抱えながら成長してきたため、事業規模が大きくなるほど、たくさんの新規生徒を獲得しなくてはならないという宿命を背負っている。在庫が経営の重荷になっているのは小売業ばかりではなくて、施設や設備、人員を抱えている企業すべてに共通している問題だ。

      ビジネスに必要な在庫

    しかし、資格取得の受験勉強も近頃ではリアルな学校に通わなくても、ネットから様々な情報や攻略法を入手することができるし、教材についても携帯端末へダウンロード可能な電子データのほうが、忙しい現代のビジネスマンにとっては好都合である。すると資格取得の教育事業を行ないたい者は、わざわざ企業として在庫を抱える必要はなく、個の知的スペシャリストとして自分が生み出した勉強法や教材を世に広めていった方が効率的であるし、ITを駆使すれば一人のオンライン講師が数千人という規模の生徒を遠隔指導することも、理屈の上では可能である。

知的プロに求められる資質とは

     コストが高い在庫を抱えずに、しかも自宅オフィスで開業できるのであれば、誰でも知的プロになりたいと考えるだろう。しかしその希望が叶うのは、数パーセントという一握りの人達だが、彼らは普通に会社勤めをしているサラリーマンとどこが違うのだろうか。

    その特徴は幾つもあるが、わかりやすいのは、当然ながら自分の商品となる「知財を生み出せる力」を持っているという点だ。この“生み出す力”というのがポイントで、ビジネスの教科書に書いてあることを暗記して、その通りに実行するだけでは“新しい知財を生み出した”ことにはならない。教科書の他にも、先生や上司、先輩や友達から教えてもらった伝統的な知識を、自分の頭で様々な形に応用する形で、オリジナルの新知識へと昇華できることが知的プロの条件だ。

    これはトラブル解決能力とも関係していて、従来の方法や常識では解決できないと思われる問題に直面した場合に、そこで諦めてしまうのではなく、新たな解決法のアイデアを考案して試してみようとする人には、知的プロの資質があると言える。

    通勤講座、綾部氏のケースでは、自分が最初に事業のアイデアを思いついた時には、中小企業診断士の資格が無かったことに加えて、ネットで教材を売るノウハウや人脈など、ほとんどの資源が無い状態からのスタートであった。しかし、自分に足らないものが明らかになれば、それを色々な方法やルート(資格取得の勉強をしたり、本やセミナーから知識を得たり、知人にスキルを持った人を紹介してもらう)から、不足している資源を調達することが可能になる。

    ここで特徴的なのは、知的プロの独立開業にとって必要な資源の中で「資金(お金)」というのは、必ずしも優先順位が高いわけではなく、資金不足を知識力やアイデアでカーバーできるのが、知的プロの力量と言える。通勤講座の音源制作についても、プロのアナウンサーやナレーターを使えばとても採算が合わないが、教材録音用のために借りているワンルームマンションで、綾部氏が講師役として自分の声で収録すれば、それは受講者にとって「先生の声」であり、逆にプロのナレーターが代行するよりも価値が高いものになるのだ。

    《知的プロが持ち合わせている資質例》
    • 新たな知識を発見、発明できる力
    • 物事の問題点を発見して解決法を考案できる力
    • 有意義な人と人とを仲介できる力
    • 漠然としたアイデアを理論や法則に結びつける力
    • 資金力に依存せずに知力で自分のビジネスを展開できる力

知的プロが形成する新たな水平ネットワーク

     JNEWSの知的プロ育成プロジェクトを通してわかってきたことは、知的分野のスペシャリスト達は、上司や監督者というような上下関係によって組織を作ろうとするのではなくて、同じ分野や他分野で活躍している知的プロと水平的なネットワークを築いて仕事の幅を広げていくことを望んでいる点である。

    たとえば、弁護士が大きな裁判を担当する場合、自分一人で対応できる仕事量には限界があるため、複数の弁護士がチーム(弁護団)を形成して事件の解明や証拠収集を分担するケースが多いが、これと同様の仕組みが、他の知的プロにも求められている。このようなチームは「仕事の元請けと下請け」といった上下の関係ではなく、一つのプロジェクトで各者がどの部分を担当するのかにより、報酬の分配方法を公平に決めていることが多い。

    またチームの人間関係はプロジェクト単位のものであり、知的プロは複数のプロジェクトに参加することで、仕事仲間や収入源を分散化することができる。知的プロ達がこのようなチーム構成を望む背景には、仕事の内容に応じて必要とするパートナーの種類は異なり、旧知の組織や人間関係に束縛されることなく、次々と新しい知財を生み出していくことが自身の生き残り策となるためだ。その意味では、“お仕事をください”的な求人応募による仕事の探し方は、知的プロ未満の非正社員や在宅ワーカーという段階で、その発想から抜け出すことが知的プロとしての独立開業には必要だろう。

    《従来型在宅ワークの求人求職》

    従来型在宅ワークの求人求職


    《知的プロによる事業プロジェクト》

    知的プロによる事業プロジェクト

知的プロの出会い方とマーケットプレイスの問題点

     欧米でも、在宅ワーカーが仕事を獲得する上で活用しているのが、投稿されているビジネス案件に対して応募をする形態のマーケットプレイスで、これはこれで便利なサービスだが、いくつかの問題点も生じている。特に開業初心者の場合には、就職情報サービスと同じイメージで応募することが多いのだが、労働法で守られている社員の募集とは異なり、在宅ワーカーは原則として自営業者であるため、応募先の信用確認や報酬の交渉などについては、すべて自分で行なう必要があるし、その仕事で損が生じてもすべて自己責任だ。さらに重大なミスやトラブルで相手方に損失を与えれば賠償責任を負うこともあるため、パートナーや仕事選びは慎重にしなくてはいけない。

    ビジネスマッチングの難しいところは、パートナーを募集する側が「このビジネスは絶対に上手くいく」という強い思い込みを抱いていることが多いため、事業の問題点やリスクを冷静に対処しないままパートナーを巻き込んでしまう懸念がある点だ。これを回避するには、中立的な立場で案件の仲介をするコーディネーター役の存在は必要だろう。

    そこでJNEWSの知的プロ育成プロジェクトでは、機械的なマーケットプレイスや求人求職情報のような方法よりも、記事中でユニークな事業を展開する知的プロの活動を掘り下げながら、パートナー募集の告知をしていくようなスタイルから試していきたいと思う。パートナーの信頼性ということに関しても、幸いに有料会員制での情報発信を1996年から続けてきたことの産物で、無料のビジネスサイトよりも優秀な会員層になっているため、知的プロがパートナーを見つけるための媒体としても活用できるのではないかと考えている。

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