補聴器は高性能なものになると20万円近くする。最新のIT機器でも数万円で買える時代に、いくらなんでも20万円は高すぎないか?補聴器業界の構造を探っていくと、高齢者用福祉器具に関する流通の攻略点がみえてくる。 (JNEWSについて
補聴器はなぜ高いのか?業界構造に潜んだ矛盾と参入商機

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JNEWS会員配信日 2007/8/1


 いまでは2万円どころか9千円でもメガネが買えるようになった。そんなに安くしても店は大丈夫なの?という心配はご無用。それでもメガネ店の粗利益は8割前後に設定されていて、フレームやレンズの仕入原価というのは、ディスカウント提示された値札価格のじつは2割程度に過ぎない。メガネ店がもっと経営努力をすれば、メガネの価格をさらに下げることが可能だが、消費者は必ずしもそればかりを望んでいるというわけではない。というのも、メガネ本来の役目は視力の補助器具だが、顧客はその機能だけでメガネを選んでいるわけではなく、デザインやファッション性が重視されているためだ。だから安物を敬遠して5万円~10万円するメガネをわざわざ購入するという消費の特性がある。特にこの傾向は、おしゃれに気遣う高齢婦人の層に多くみられるものだ。

歳を重ねるほどに身体が言うことを聞かなくなり、いろいろな補助器具のお世話になっていくことは仕方がないが、できることなら“オシャレなもの”を身に付けたいと思うのが現代の高齢者心理のようである。メガネ以外の身体機能を補う器具としては、ステッキ、補聴器、車いすなどがある。ステッキに関しても、高級志向が高まっていて、柄の部分に凝った細工が施された10万円以上するような高級品が好調に売れている。ネット通販においてもステッキは隠れた売れ筋商品である。

一方、補聴器はあまり人気が高くない。これは「補聴器=障害者や高齢者」というイメージが根強いためだが、国内で“耳がよく聞こえない症状に悩んでいる人(難聴者)”の数は6百万人と言われるが、実際に補聴器を使っている人の数はその1割にも達していない。しかし若者の中ではヘッドフォンを付けながら街を歩くことが流行っているのだから、高機能でおしゃれアイテムとして通用する補聴器があれば、もっと売れてもおかしくないはずだ。

では現状で補聴器がどのくらいの値段がするかというと、安いもので約10万円、高いものになると30万~40万円もする。補聴器の性能はアナログ式からデジタル式へと進化しているものの、一般の人が購入するのにはあまりに高い設定。もちろん価格が高いのにはそれなりの理由があるのだが、最新機能がてんこ盛りの携帯電話よりも十倍近く高いというのにはどうも納得がいかない。その辺りの業界事情を掘り下げながら、補聴器に限らず身体の補助器具市場へ参入するための商機を探ってみよう。じつはこの業界には、中小のベンチャー企業が参入できる余地が数多く潜んでいる。

【補聴器はなぜ高いのか?補助器具市場の裏側】

 日本ではどの位の補聴器が売れているのかというと、2006年の出荷台数で45.8万台。市場規模でいうと約260億円という水準で、これは高齢者向けメガネ市場(老眼鏡など)の約十分の一にすぎない。補聴器の中にも様々なタイプがあるが、販売数の半分以上を占めているのが耳穴の大きさにピタリと合わせて目立ちにくくしたオーダーメイドタイプのものである。

補聴器の性能には「アナログ式」と「デジタル式」の2種類があり、以前からあるアナログ式は耳に入ってくる音をそのまま増幅するために雑音まで拡大してしまい、会話を聞き取りにくいという欠点があった。しかし最近になって普及しはじめたデジタル式では人の音声だけを電子制御して拡大するため、会話が聞き取りやすくなっている。人によってそれぞれ難聴の症状は異なるために、その聞こえ方によって補聴器の性能を調節して、耳のサイズに合わせたものがオーダーメイド型の補聴器ということになる。補聴器は小型になるほど高価になり、超小型のもので30万~40万円。両耳に装着するのであれば、その2倍の購入価格になる。

では補聴器はどこで購入するのかというと、専門の知識をもった補聴器技術者がいる補聴器専門店に行くというのが一般的だ。全国補聴器専門店認定協会という業界団体が設立されているため、自分の近隣でその認定店を探すということになる。これらの店では“認定補聴器技能者”という資格を持つスタッフに補聴器に関するカウンセリングから機種の選択、調節、修理などをしてもらえる。この資格は厚生労働省の指定法人である(財)テクノエイド協会が認定するもので、補聴器の販売に5年以上従事している者が受験対象者となっている。ただし合格率は80%以上と難易度はそれほど高くない。

認定技術者のいる補聴器販売店は全国に約9百店ほどあるが、その多くは個人経営か零細企業の規模で、メガネ業界のような大幅な値引きをウリにした量販店というのはまだ存在していない。これまでの補聴器業界は基本的に値引きをしない定価販売の商売をしてきたが、その背景には補聴器業界の顧客獲得ルートとして、耳鼻科医との提携が大きなウエイトを占めていたという状況がある。難聴(耳が遠い症状)に悩む人は、まず耳鼻咽喉科での診察を受けた後に、補聴器の利用を勧められるという流れが一般的で、補聴器の選択やフィッティングまでを医師が行なって、機器の販売やメンテナンスは販売店が行なうという役割分担ができている。このような医師からの紹介ルートの場合、患者は医師から指定された補聴器を購入することになるため、値引き販売をするという必要性が薄かった。

そして、もう一つの顧客獲得ルートに「補装具交付制度」というものがある。これは重度の聴覚障害と認められた患者に対しては、補聴器購入の補助金(購入価格の9割)が国から支給されるというもので、その場合にも補聴器の基準価格が決められていて、販売店では特に値引きをすることなく基準価格(定価)で販売することができる。

このような業界構造からすると、長年にわたって補聴器の販売をしてきた業者は市場規模がそれほど大きくないにも関わらず、安定した商売をすることができていた。しかしこれから高齢者の増加によって潜在的な市場規模が大きくなると、異業種からの新規参入組が増えて、業界の勢力地図は変化していくことになるかもしれない。その兆候としてメガネ量販店でもいよいよ補聴器の販売を手掛けはじめているし、最近ではネット通販で補聴器を購入するという利用者が増えている。それに対して既存の補聴器販売業界では、認定された販売店でしか補聴器が売れないような規制強化を国に訴えかけるといった動きもある。高度な技術を持たない新興の店では、補聴器のフィッティングやメンテナンスができないというのがその理由だが、これは眼科医からの処方箋に依存していた数十年前のメガネ業界と同じ構図だ。

■関連記事:3Dプリンターで製作するカスタム補聴器の潜在市場

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