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コピーされることを前提にした 著作権ビジネスへのシフト |
written in 2008/11/2
ルネッサンス時代に革命を起こした世界の三大発明といえば「活版印刷」「火薬」「羅針盤」が知られているが、それを21世紀に当てはめるならパソコンとインターネットは外せないが、その中でもデータのコピー機能が世の中に与えている影響は非常に大きい。誰かが制作した仕事の成果や作品は、何度も同じものを作り直す必要はなく複製することが可能だ。これは様々なソフトウエアが安価で購入できることに貢献していて、昔は10万円以上したソフトもいまでは数千円で入手することができるようになった。
しかしその一方で、不正なコピーが世の中に氾濫して制作者の利益を侵害しているのも事実である。米著作権団体の調査によれば、世界で利用されているパソコンソフトの約4割が不正なコピー品で、その被害額は 340億ドルにもなると言われている。それ以外でも、音楽や映像作品などを含めればその総額は計り知れないだろう。
しかし不正コピーがすべてすべて厄介者なのかというと、そういうことでもない。たとえば、友人から友人へとコピーされた音楽は、試供品(試聴品)としての役目を果たして、それをきっかけに曲がヒットする流れも出始めている。
一時期の音楽業界は、不正の撲滅を徹底してコピーガード機能を付けていたこともあったが、それが逆にCDの売上不振に繋がることに気付いて、いまでは緩やかな方針へと切り替えている。テレビのデジタル放送にしても、録画した番組をコピーできる制限回数を従来の1回から、10回までに増やす「ダビング10」の緩和が行われた。
これらの動きから読みとれるのは、従来の著作権管理がコピーを完全に禁止(ガード)しようとする考え方であったのに対して、それでは正規品の売上までを落としてしまいかねないことから、もう少し緩やかな方法に切り替えて、著作物の価値と収益のバランスが保たれるような“大人の解決策”を探っていきましょう、という方針へ軟化してきたことだ。
その注目すべき動きとして、日本音楽著作権協会(JASRAC)が動画投稿サイトの「ニコニコ動画」や「YouTube」との間で、サイトに投稿されている楽曲に対する著作権支払いの契約が締結される見通しが先日発表された。この契約はネット上の著作権ビジネスにおいて画期的なもので、動画以外の電子著作物でも採用されるビジネスモデルになる可能性を秘めている。
そもそも電子的に制作された著作物は無形の商品であるが故に、不法なコピーや転載などの被害を受けやすい特徴があるが、その一方で、有形商品のように「在庫を一度売ったら終わり」ということでなく、ユーザーが複製することで二次的な収入が得られるような道を作ることができる。
要は、著作物を管理する側と、著作物の再利用を希望する側との間で合意ができていれば“不正”にはならないわけで、そこに気付くと様々な著作ライセンスを商品化することが可能になる。それがどういうことなのか掘り下げながら著作権の新たなビジネスモデルについて見ていくことにしよう。
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JNEWS LETTER 2008.11.2
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