先進国から大量の失業者が生まれる世界不況のメカニズム

いま先進国で起こっている不況の特徴は、物価が上昇するインフレではなく、大量の失業者が生まれるという点で共通している。昔とは異なる、新たな不況モデルがどのような仕組みで、その打開策はそこにあるのかを解説。

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先進国から大量の失業者が生まれる
世界不況のメカニズム

written in 2012/5/20

　2010年頃から緊迫している欧州危機は、主に金融の問題として取り沙汰されているが、その根底にある原因は、さらに根深いところにある。ギリシャやスペインが多額の財政赤字を抱えるようになったのは、リーマンショック以降に不動産バブルが崩壊したことが発端だが、そもそも不動産への投資が加熱したことの背景には、「観光事業」へ力を入れることにより、大量の雇用を生み出そうとしたことがある。

ギリシャの場合には、2004年のアテネオリンピックに国運を賭けて、競技施設の他にも、道路や鉄道などの交通網、宿泊施設などの整備をしてきたが、その投資額が回収できないまま世界不況が訪れて、財政の破綻危機にまで陥っている。

スペインについても同様で、観光立国を目指して世界から旅行者を呼び集めることを旗頭として、国内の旧跡や歴史的な建造物の改修を大規模に行ってきたことで、一時期は不動産や建築業界が活況となったが、やがてバブルは崩壊して、関連の仕事に携わっていた労働者の中から、大量の失業者を生み出すことになってしまった。

スペインは、もともと失業率が高い国であったが、欧州がＥＵ圏として統合されてからは、安い物資が他国から流入しやすくなったこともあり、製造業の分野では大量の労働者を支えられなくなり、新たな雇用の受け皿となる産業を創出する必要があったのだ。

《スペイン・ギリシャの失業率推移》

　　

ＥＵ圏全体の平均失業率は「10.8％」という水準で、日本の失業率（４％台）よりも大幅に高いが、逆に言うと、欧州の失業支援策は日本よりも厚くて、失業者としての登録をして失業手当を受け取っている人が多いことを示している。その負担は、国の財政をさらに悪化させるため、「不況→失業者の増加→財政破綻」という負の連鎖が進行していく。さらに怖いのは、政府が不況からの脱却を目指して、一か八かのバクチ的な事業に手を出してしまうことである。

これは、日本にとっても他人事ではなく、生活するのに充分な仕事に就けずに困窮している人達の数は、表面上の失業率よりも遥かに高いし、政府としても彼らに「支援する姿勢」を見せないわけないはいかない。国家予算の中でも、雇用創出や再就職支援の項目は、最も削りにくい分野である。

しかし、そうした公的支援策が功を奏しているのかといえば、“否”であろう。小手先の就職支援をしたところで、世界を取り巻く産業構造は、昔とはガラリと変わっているため、従来の経済を支えていた業界に人材を送り込もうとしても、企業が衰弱してしまうだけである。こうした状況は、欧州、米国、日本を含めたすべての先進国に当てはまる。

《先進国に起こる不況～金融危機の発生モデル》

　　

これから先進国で進行する不況は、物価が高騰してハイパーインフレを引き起こす旧式のものではなく、失業者の大量発生と、それを支援する国家の財政破綻という新タイプのものになりそうだ。その先行例として参考になるのは、労働者の４人に１人が失業しているスペインの状況だ。彼らは、想像するほど生活に困窮しているわけでなく、娯楽も楽しんでいるし、投資に熱心な富裕層も少なくない。それでも、国家の財政は急速に悪化して、失業者の数は増えている。

それがどんなメカニズムのか、スペインの失業事情を深く掘り下げる中で、先進国に忍び寄る新タイプの不況モデルがどんなものかを考えてみることにしよう。

（起業家のための成功法則一覧へ）

　●不況下で暮らすスペイン労働者の実態
　●貧富の格差が拡大する不況モデルの解説
　●スペインの失業保険制度と勤労意欲
　●高金利商品を探すスペイン富裕層の投資行動
　●不況下でも躍進するオンライン・ポーカーサイト
　●カジノで不況を立て直そうとするスペイン政府の思惑
　●生き残りを賭けたカジノビジネスと世界不況の接点
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JNEWS LETTER 2012.5.20
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