いざ独立をしてみたものの、元勤務先から仕事をもらおうとする弱気から抜け出せない人は意外と多い。独立すれば一人の事業主として、元勤務先とは従属的でなく対等な立場で付き合う心構えが大切になる。 (JNEWSについてトップページ
前勤務先に依存する独立起業者の弱気から抜け出す発想

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JNEWS会員配信日 2004/12/6

 ここ数年で大企業は大幅なリストラをして余剰人員を整理した。退社した人の中には新たな転職先を見つけてサラリーマンを続けている人も多いが、割り増しで受け取った退職金を元手として起業の道を選んだ人も少なくない。起業というと派手なイメージが先行して、誰もが大会社の社長を目指しているように捉えがちだが、実際には個人事業、法人の形態を問わず、自分一人または家族と協力した小規模所帯で営んでいる人が全体の7割以上を占めている。

サラリーマン時代にホワイトカラー職であった人が起業テーマとして選ぶ人気の仕事は、やはりデスクワーク主体のものが多い。最近流行のオンラインショップ経営については商品仕入に関する壁が高いようで、家業が小売業をしていてそれを引き継げるケースを除いて、ゼロからチャレンジしようとする人は意外と少ない。また飲食店の経営に興味を示す人もいるが、店舗の開店費用として少なくとも1千万円程度はかかることから、親が開業資金を貸してくれるなど、何らかの後ろ盾がないと実行することが難しい。

そこで脱サラ組の起業者が具体的にどんな事業テーマを選んでいるのかと、やはり前勤務先で関わっていた業務と類似した仕事を独立して行うケースが圧倒的に多い。職種としてはIT分野のシステム開発から営業代理店業務まで幅広い。

脱サラ起業者の大半は「前勤務先との関係を良好に保ちながら起業したい」という希望を持っている。その意図として、良好な関係を維持していれば前勤務先が開業後のクライアントとして契約してくれたり、取引先を紹介してくれるのではという期待がある。しかし、この関係ばかりに依存していると、いつまでも前勤務先の“子飼い”のままで、基本給のかからない外注社員として都合良く使われてしまう。そんな状況のままでは真の起業とはいえないだろう。

【クライアント数が1社しかないシステム開発会社】

 いま独立しやすい職種として「IT業界のシステム開発エンジニア」は筆頭にあげられる。彼らは時流に乗った専門技術を持っているために、独立をして自分で仕事を請けるようになれば開業当初からサラリーマン時代の倍以上の収入を得ることも難しくない。しかもソフトウエアの開発ならば、自宅のパソコン環境でもできるし、大規模なものになればクライアント先へ常駐する形で開発するために、開業資金はほとんどかけずに起業することが可能だ。

ただし、自分一人で経営しているシステム開発業者では「クライアント数は1社のみ」というケースが約半数近くを占めている。システム開発の仕事は一つのプロジェクトに関わると、並行して複数の仕事がやりにくいために、開発者が自分一人しかいない場合には、自ずとクライアント数は限定されてしまうことになる。

その「クライアント」というのは、多くの場合には元勤務先か、その取引先である。システム開発の業界では経営者とエンジニアの意見が衝突しやすいために、エンジニアを独立させて、そこに仕事を外注するという流れをとることも多い。
それでも優秀なエンジニアになると数年先までの仕事量を抱えているが、はやりクライアントが1社のみというのは自営業者として不安だ。

日常の開発業務と並行しながら、新たなクライアントを獲得するための営業活動をしていく必要性は感じているものの、今すぐに新たな仕事を請けられる時間的な余裕もない。かといって、前勤務先からの仕事を断ち切ってまで新たなクライアント獲得に乗り出すのは勇気がいる、というジレンマを抱えている。

【社員の起業を支援する“のれん分け制度”の問題点】

 社員が会社で習得した知識や技術、ノウハウを活用して独立起業することは、企業側にとっては「優秀な人材の流失」だけでなく、元社員が新たな競合相手となってしまうという大きなリスクがある。そこで優秀な元社員との関係をつなぎ止めながら、会社側も潤う仕組みとして「のれん分け制度」を創設している企業もある。

飲食業界などでよくある「のれん分け」は、優秀な社員が独立起業する際には本社が新たな店舗を出店して、その経営を委託するという形だ。新経営者は店舗を運営していく中で月々あがる利益の一部をロイヤリティとして支払う条件で、自ら資金調達をすることなく“自分の店”を持つことができる。また飲食業以外でも、社員が独立する際に開業資金の一部を元勤務先の会社が出資するという形の“のれん分け”もある。

《飲食業界におけるのれん分け制度(例)》

自分一人で起業するのならば、店や新会社の知名度をゼロから築いていかなくてはならないが、“のれん分け”ならば前勤務先企業の知名度や信用力の上に自分の事業を積み上げていけるために、失敗する確率はゼロからのスタートよりも小さい。しかし、のれん分け制度にも問題点が全くないわけではない。

のれん分けによる起業では、やはり前勤務先との関係が強いために、自分の意志や方針で店の方向性を決めていくことが難しい。特に店名の商標を貸与されたFC店舗の場合には“雇われ店長”の域から脱することが難しい。もともと自分の力で会社(店)を経営したいという目的で独立の道を選んだのであれば、独立後も前勤務先企業の支配下にあるというのはストレスが溜まるものだ。

【前勤務先と対等な立場で取引するための発想転換】

 上記のようなケースで共通している問題は「前勤務先に仕事を紹介してもらおう」「前勤務先に助けてもらいたい」という気持ちが起業者の心の中に潜んでいる点である。そんな弱い気持ちがあると、前勤務先と対等の立場で取引することができずに、サラリーマン時代の感覚を引きずって下請的な役割に甘んじてしまう。

しかし独立を決断して自分が経営者の立場になれば、会社の規模の差はあっても前勤務先とは(経営者と経営者)の対等な関係で付き合っていくことが望ましい。そのためには前勤務先が手掛けている業務と全く同じ内容の仕事で独立するという“模倣”は止めにして、社員の時代に会社内で不自由を感じていた分野の新サービスを手掛けるという発想が大切になる。前勤務先の業務と競合しない関連の新事業を立ち上げるという方法ならば、前勤務先の下請け的な存在でなく、対等な立場で取引をしていくことができる。

その一例として、銀行から独立して不動産鑑定士の資格を取得して開業した人がいる。銀行員時代にも不動産関連の仕事を手掛ける機会があったため、当時のスキルを更に高めて国家資格を取得、プロの不動産鑑定士となったわけだ。銀行では不動産の評価額を算定する案件も多いが、不動産鑑定士の仕事とは直接的に競合はしないため、彼は元勤務先の銀行を主要なクライアントとして良好で対等な取引関係を続けている。

彼はいま元勤務先の同僚や上司からも「先生」と呼ばれているが、そこまで自分の立場を高められたのは、銀行から仕事を発注してもらうばかりでなく、自分が銀行に対して儲かる案件や優良な顧客を次々と紹介しているためだ。銀行と不動産鑑定士のような取引関係は直接的に競合しないために、Win-Win の関係が築きやすい。

前勤務先の会社と独立後も対等な立場で付き合うということは、会社から仕事をもらおうとするばかりでなく、自分も会社に対しても新しい案件や顧客を紹介するなどして、両者が共に儲かる関係を作ることである。この発想が乏しく、古巣の会社から一方的に仕事を回してもらおうとする考えのままでは、下請け業者の立場からいつまでも抜けられずに苦汁を飲み続けることになるだろう。

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