ハイテクトラクターの修理問題と中古トラクター市場の高騰
現代の農業ではハイテク化された農機具が不可欠であるが、農家にとっては設備投資の負担も大きい。米国で使われる大型トラクターの価格は、1台あたり30万~50万ドル(約3400~5700万円)と高額で、さらに年間で8000ドル前後(約92万円)のメンテナンス費用がかかる。
米国でトップのシェア率があるJohnDeere社のトラクターには、最大で125個ものセンサーが取り付けられているため、些細な修理でも農家がセルフで行うことはできず、メーカーに対して1時間あたり約150ドルの作業工賃を払って依頼するしかない。これが農業経営を圧迫する一因であることから、2021年7月にはバイデン大統領が、トラクター修理の取引ルールを見直すように、公正な取引を監督する米連邦取引委員会(FTC)に対して指示を出している、
メーカー側の言い分としては、正規ディーラーによるメンテナンスはトラクターの安全性と環境性能(排ガス量など)の面から必要であり、ユーザーに修理用ソフトウエアのロックを解除するのではなく、従来の年間保守契約料を値下げすることで着地点を見つけようとしている。
そもそも、現代のハイテク装備が満載されたトラクターは、ユーザーがDIYで整備することは難しく、所有者の修理権法を回避する目的からも、今後のトラクターメーカーは、車両を「販売する」のではなく、エンジンの稼働時間に応じて使用料を徴収するPay-Per-Use型に転換していく動きもある。それでも、農家が負担するトラクターのトータル使用コストは「上昇」のトレンドに向かっているため、根本的な解決策にはならない。
こうした修理面の問題から、米国農家の中では、整備性の悪い新型トラクターへの買い換えを止めて、ソフトウエア的なロックがかけられていない中古トラクターを長く使い続けようとする動きも出ている。そのため、40年以上前に製造されたトラクターの価値が上昇してきている。
2018年7月にミネソタ州の農機具オークションに出品された1979年製の「JohnDeere 4640」という型式のトラクターは、それまでのオークション最高値となる61,000ドルで落札された。それでも、同じ馬力クラスの最新モデルが15万ドル以上することと比べれば、割安感があると言われている。中古トラクターの評価は、エンジンの稼働時間が大きく影響するため、30~40年前に製造されたモデルでも稼働時間が少ない車両には高値が付きやすい。
■1979年製John Deere 4640のオークション映像
環境規制の問題もあり、新型モデルの価格は上昇、ハイテク装備はブラックボックス化することで、ユーザーがDIY整備することができなくなっていることで、逆に整備性の高い中古車相場が上昇している状況は、自動車業界とも共通している。旧車スポーツカーの世界では、程度の良い日本車が海外に輸出され、取引相場も高騰しているが、中古トラクターにも同様のビジネスチャンスがある。
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