消費者から新製品のアイデアを投稿してもらい、メーカーが共同開発を進めていくスタイルは「ソーシャルプロダクト開発」と呼ばれて、様々なプロジェクトが立ち上げられている。「Quirky」はそのプラットフォームサイトとして成長している。 (JNEWSについてトップページ
個人のアイデアを収益化する「Quirky」のビジネスモデル

JNEWS
JNEWS会員配信日 2011/9/26

 広告宣伝の分野ではソーシャルメディアの活用が色々と研究されているが、製造業までには及んでいない。しかし、商品の企画段階からソーシャルメディアによるユーザーとの対話をしていけば、これまでとは異なる商品開発をすることができる。それが米国では、「ソーシャル・プロダクト・デベロップメント(SPD)」と呼ばれている。

SPDの利点は、商品の企画・デザイン・販売などの工程をユーザー側に委ねることが可能で、メーカー側では製造部門に集中することができる。ソーシャルなネットワークで結ばれているユーザーは、友人や仲間とも連携して、商品を普及させる力を持っているため、彼らに「開発マネージャー」などの役割を与えて、プロジェクトのメンバーに加えることは、自社でエンジニアやデザイナーを雇うことよりも、大きな影響力を持っている。

それを具現化したビジネスを展開するのが、「Quirky(クァーキー)」というサイトだ。消費者の中には、「こんな商品があれば便利なのに」「私なら、こういう商品があれば買う」というアイデアを持っている人は少なくないが、それをサイトに投稿してもらい、コミュニティ内のメンバーで評価しながら、実際に商品化するまでの事業を行っている。開発に関わったメンバーに対しては、その貢献度に応じたロイヤリティが支払われる仕組み。

Quirky

Quirkyへの参加方法は、まず無料の会員登録をしてコミュニティメンバーの資格を得る。次に、10ドルを払って自分が実現したい商品(パソコンやモバイルの周辺機器、生活用品、雑貨など)のアイデアを投稿すると、他のメンバー達からの批評や質問がされて、商品企画が磨き上げられていく。アイデアが面白くないと評価されたら、その時点で企画はボツとなり、新たなアイデアの投稿に再チャレンジする。

企画段階をクリアーした商品案は、投稿者本人またはコミュニティメンバーと共に、そのアイデアに対する類似特許が申請されていないかのリサーチ、商品のデザイン、商品名(商標)などを決めていく。それを元にして、Quirky側が具体的な設計図を起こして少量の試作品を製作した後に、同サイト上でテスト販売を行う。

その販売量が目標値をクリアーして、「この商品はヒットしそうだ」と判断できれば、Quirkyが量産への最終決定をして、中国などの提携工場へ生産を発注する。
そうして完成した製品は、オンラインやリアル店舗で発売される流れになっている。

《Quirkyによるソーシャル開発の流れ》

【ソーシャルな力で生まれるアイデア商品】

 Quirky(クァーキー)が商品化のターゲットとしているのは、パソコンやモバイルユーザーにとって役立つ便利グッズ、キッチン用品、ペット用品、子ども用品など、商品のカテゴリーは多様だが、150ドル以内で発売できることが条件で、複雑な回路やアプリケーションを含むような電子機器は対象外になっている。

高性能な電子機器は製造原価が高いわりに、技術の盛衰が早くて、競合も多いため、ライフサイクルが短いのが欠点。しかし、“アイデア”を付加価値として売れる便利グッズであれば、ヒットすればロングセラーが狙えるし、シンプルな商ほど、世界の市場で売ることができる。

【インベンター(発明者)の役割と収益分配の仕組み】

 Quirky(クァーキー)では、最初にアイデアを投稿して商品化までたどり着いた人のことを、「Inventor(インベンター=発明者)」と呼んでいる。ただし、彼らの役割は、単にアイデアを出す(発明する)ことだけでなく、その商品の素晴らしさをユーザーに解説したり、販売のためのマーケティングをすることまでが含まれている。逆に、その資質に欠けるインベンターは、商品化に至る前の段階で淘汰されるシステムになっているのだ。

商品の企画を、Quirkyのコミュニティで審査してもらう際にも、アイデアのスケッチだけでは訴求力が弱いため、その商品がどんなに魅力的で、消費者が日頃から抱いている不便を解消させられるかを、ビデオ映像で解説するようなプレゼン能力が求められる。また、プレセールス(テスト販売)の段階でも、インベンターが自身のツイッターやフェイスブックを使って、積極的なマーケティングをしていかないと、目標の販売数をクリアーすることは難しい。

こうした関門を乗り越えて、商品化に至った場合、Quirkyの直販サイトの売上に対して30%、他の間接的な販路の売上に対して10%が、開発に関わったメンバー(Quirky会員)に分配される仕組みになっている。この開発メンバーには、インベンターの他に、コミュニティで批評をした人、リサーチやデザインを担当した人などが含まれており、それぞれの貢献度に応じた報酬の分配率を「Influence(インフルエンス)」という指標によって決めている。

《Quirkyの収益分配モデル》

Quirkyブランドのヒット商品を生み出している個人ユーザー(インベンター)は、プロのデザイナーやエンジニアに加えて、本業は主婦であったり、教師であったりと、普段は物作りと関係の無い生活をしている人も多く含まれる。製造業の専門知識は無くても、生活者としてのアイデアや発想をコミュニティへ投稿することにより、自分が考案した商品を世界に売り出すことができることは、新たな個人発明の手法しても注目されている。

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JNEWS会員レポートの主な項目
・ソーシャル・プロダクト開発の発想とイメージ
・ソーシャル開発の具体的な工程と流れ
・デフレビジネスから脱却するための付加価値
・500円のTシャツを3000円で売るソーシャルデザイン
・ヒットメーカーのモノ作りとアイデアの価値
・企業が「アイデア」に着目しはじめている理由
・モノ作り立国の頭脳となる研究者の育成と資金調達ルート
・個人の売り手を味方に付けたソーシャルコマースの戦い方
・ITの巨人企業が狙う権利ビジネスモデルと特許オークション
・雇われない働き方へと移行する頭脳をウリにしたプロ人材
・設計図と模型を売ることでも成り立つモノ作り起業の方法
・知的財産立国に向けて浮上する特許技術の移転仲介ビジネス

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