3Dプリンターで機械式高級時計を作る新興ブランド
スマートフォンが普及した現代でも、機械式腕時計の人気は高く、スイス製のパテック・フィリップやオーデマ・ピゲなどは200~300万円のモデルが売れ筋になっている。非常に高価であるにも関わらず、富裕層の顧客から支持されている理由は、精巧な部品を熟練工が組み立てることによる機能美が、工芸品として評価されているためだ。
これを3Dプリンターによる付加製造でも実現させようとしているのが、オランダを拠点にする「Holthinrichs Watches(ホルセンリックス・ウォッチ)」という新興の腕時計メーカーである。同社の創業者、ミシェル・ホルセンリックス氏は、建築学の名門であるオランダのデルフト工科大学の出身で、最新のテクノロジーと職人技術を融合させることで、伝統的な機械式時計の業界に一石を投じている。
同社が3Dプリンティングの技術を導入しているのは、腕時計のムーブメントを組み込んだ本体になるケース部分だ、従来の腕時計を製造する工程では、クロムとニッケルを含むステンレス鋼やプラチナのインゴットから型抜きをした後、旋盤や手作業で削りながらケースの形状を仕上げていく。それに対して、3Dプリンティングでは、金属粉末をレーザーで溶かして設計データ通りのケース形状に造形するため、精度面の誤差や加工ミスによる材料ロスが無い。また、従来の方法では実現が難しかった、独創的なデザインや細かな装飾をケース上に施すことも可能になる。
また、18Kゴールドの部品についても、貴金属専用の3Dプリンターによる立体造形が行われている。英国のCooksongold社が開発した「PRECIOUS M 080」は、18Kの金属粉末の原料をレーザーで溶解して、3Dデータな基づいた多様なデザインのゴールドパーツを出力することができる。
■18Kゴールド用3Dプリンターの紹介映像(Cooksongold社)
Holthinrichs Watchesでは、これらの3Dプリンター設備を自社で導入するのではなく、専門の3Dプリント工場に製造委託している。また、時計の動作部となるムーブメント、時刻を示す文字盤、革製のベルトなども、欧州各国の信頼できる業者からパーツを調達している。本社のあるオランダの工場では、それらのパーツを職人が手作業で組み立てることで、最終的な製品に仕上げている。
Holthinrichs Watchesは、3Dプリントをコストダウンの手法と捉えるのではなく、3Dテクノロジーを駆使した機械式腕時計としてのブランドに育てようとしている。
時計の価格は、標準的なモデルが3,749ユーロ(約48万円)と4,479ユーロ(約58万円)の2種類で、細部にこだわった、高級機械式腕時計としてはリーズナブルな設定だ。また、主要パーツのケースと貴金属の装飾を3Dプリンターで行えるということは、顧客毎に異なるデザインの時計を製作することが可能となり、オーダーメイドにも対応している。(この内容はJNEWS会員レポートの一部です。正式会員の登録をすることで詳細レポートにアクセスすることができます → 記事一覧 / JNEWSについて)
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