新たな雇用と労働環境を創出するスマート製造業への挑戦

JNEWS会員配信日 2017/10/29

 日本の製造業では、「かんばん方式」をルーツとするサプライチェーンが構築されているが、第4次産業革命では、世界の工場で作業をするロボット同士がIoTで繋がることにより、超効率的な生産体制を築くことができるようになる。

従来の工場は、製品の受注動向と、部品や原材料の在庫量、設備機械の稼働データを担当者(人)がチェックして生産量の調整を行っているが、近未来のスマート工場では、機械同士がデータの共有と分析をして、常にベストな稼働率を決めることができる。これらのデータは、同じ工場内だけでなく、外部の工場と共有することが可能だ。

このようにスマート化された工場では、高度な生産管理ができるために、オーダーメイドの製品を、大量生産と同等の安いコストで製造できるようになる。また、系列以外の工場とも容易に情報共有ができるため、下請け構造から離脱して、中小の工場同士が協業して、大手メーカーに負けない新製品を開発することも可能になる。スマート工場への変革は「インダストリー4.0」と呼ばれており、産業用ロボットや工場間をネット回線で接続するためのプラットフォーム整備が進められている。

自動車産業で世界をリードするドイツでは、国の研究機関と企業が連携する形で「インダストリー4.0」のプロジェクトを、2014年から進めている。もともと、ドイツの製造業は職人気質であり、社員数が数百人規模の同族企業が多い。そのため、以前の産業革命では、新たな技術に対応できない製造業者が淘汰されて、大量の失業者を出した苦い経験がある。そこで今回の第4次産業革命では、他国に先駆けた変革を行うことで、グローバルな競争に勝ち、かつ、労働者の仕事がどのように変わっていくのかを見定めることで、自国の雇用を守ろうとしている。

ドイツ貿易・投資振興機関(GTAI)が公開している以下の動画では、4.0化されたスマート工場の輪郭を見ることができる。

■Industry 4.0 - Germany's 4th industrial revolution(映像)

【4.0化で起きる労働環境の変化と対応策】

 インダストリー4.0によるテクノロジーの進化は、製造業の採算構造を向上させる利点がある一方で、労働者に与える影響も大きい。そのため、ドイツの連邦労働社会省では、これからの労働市場が4.0化していく上で課題となるテーマを「Arbeiten 4.0(英語:Work4.0)」として、2016年に200ページを超える白書を公開している。

Arbeiten 4.0ホワイトペーパー(ドイツ語)

Work4.0の中では、デジタル化される製造業の現場でも、良質な労働環境を維持するためのポイントが指摘されている。まず前提となるのは、労働者は職務内容の大幅な変化に対応していくための「生涯学習」が重要になることである。これは、「社内研修」の枠組みだけでは対応できないため、社員の自発的な学習意欲を高められる教育プログラムや、トレーニング方法の開発が求められる。

4.0化された工場では、ロボットやITシステムが24時間体制で稼働するため、その中で働く人間の役割は、アルゴリズムでは判断できない事象への意思決定や、クリエイティブな設計やデザイン、クライアントとのコミュニケーション業務などが主体になる。

ワークスタイルでは、工場内に常時勤務している必要性は薄れて、製造業の分野でも「在宅勤務」のような柔軟性の高い働き方も選択できるようになる。ただし、会社を離れてもメールやチャットでの連絡が容易となり、デジタルストレスを抱える懸念があるため、「勤務時間外の業務連絡は禁止」とするようなルールの整備も検討課題になっている。健全なワークライフバランスを維持するための対策は、これ以上にも増して、企業が取り組むべき課題として重視される。

また、IoT化された製造現場では、他社との情報共有も加速するため、期間を限定したプロジェクト単位の仕事も増える。それに伴い、エンジニアの世界でも“社員”の立場から離れたフリーランス化が進むとみられている。彼らにとっても、不利にならない労働法規の改正や、社会保障の整備は、国が主導して行うべき課題といえる。そして最後は、新しい技術に追いつけずに職を失う人に向けて、保険制度を充実させることも、必要な政策として指摘されている。

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JNEWS会員レポートの主な項目
・肉体労働を知的労働に変える自動運転技術
・人とロボットが共存するスマート製造業
・ドイツが行うインダストリー4.0の変革と目的
・4.0化で起きる労働環境の変化と対応策
・自動ロボットに奪われる職種の特徴
・AIロボット時代に対応した新たな職業
・ロボット社会で注目される新たな労働者層とは
・Work4.0で生き残る人材の条件について
・人工知能と消費者の関係を築くAIブランディング
・人工知能と共存したリモートワークとスキルの磨き方
・AI時代に進化する著作権の価値とデータマイニング
・産業用途で手掛けるVRビジネスと職能トレーニング

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