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2005年有望ビジネスへの着目点
- ネット大衆化時代に向けた戦術 -
written in 2004/12/29

 2004年の日本経済は強気と弱気が交錯した一年と振り返ることができる。実体経済の6ヶ月先を行くと言われる株式市場では、2003年4月(日経平均7800円台)から上昇軌道に乗りはじめ、2004年4月に12,000円の高値を付けた。しかしその後は11,000円付近での攻防を続けている。過去最高益を更新する好調な企業が増えた一方で、ダイエーや西武鉄道のように一時代を築いた老舗企業の牙城が脆く崩れたのも同じ年である。

ネット業界でいえば、楽天やライブドア、ソフトバンクなどがプロ野球球団経営への名乗りを上げたことで、IT企業の存在が一般大衆層にも広く知られることとなった。どんな事業を展開しているのかまでは詳しく知らなくても、「IT企業は儲かるんだなあ」とイメージする大衆層が増えたのは事実だろう。その影響を受けて、2000年頃のネットバブル期以降は下火となっていたネット企業に対する投資家からの資金調達も再び活発化しはじめている。2005年はそんな投資家からの期待に応えることがベンチャー経営者の課題になる。

上場未満のネット企業についても、2004年は総じて追い風が吹いていた。ネット利用者の層が厚くなったことにより、国内のeコマース業界はこの1年間で2〜4割ほどの売上を伸ばしているオンラインショップが目立つ。また「繁盛しているショップ」の背中をみて、ようやく重い腰を上げてネット参入を決意する小売業者も増えているため、eコマース関連のサイト制作業者やシステム開発業者も多忙な日々を過ごしている。

ただし、そんな繁盛組の中でも「忙しいことと儲かることとは違う」と冷静に現在の業況をみている経営者が多い。オンラインショップでいえば、優劣を判断するための基準として売上高だけを競う時代は既に過ぎていて、「次の目標をどこに設定するか」が話題の中心になっている。ネットの市場規模が拡大すれば、自店の売上が自然増するのは当然のこととして、それよりも競合ショップの増加や消費者の眼が肥えることで「商売が難しくなる」ことを懸念しはじめているのだ。そんな状況を踏まえながら2005年の展望について考えてみたい。

2005年はネット大衆化時代の幕開け

    1年前の2004年展望記事では「消費者が主役になる年」という予測をした。家庭からのインターネット利用が当たり前になった現在では、オンライン消費者は情報収集や買い物をすることに対して加速度的に賢くなっているし、消費者の口コミによって連鎖していく“世論”は、企業の業績や株価にも多大な影響を与えはじめている。

    数年前までならネット企業一社がオンライン上で狙える年間売上高の規模は十億円台であったが、現在では百億円超を狙える規模にまで市場が拡大していることも意識すれば、「2005年はネット大衆化時代の幕開け」と位置付けることができるだろう。ネット利用者がさらに一般層へと広がって身近なものになっていくことは、ネットを商圏としているIT企業にとって追い風であることは言うまでもない。

    ただし、大衆化したネット社会の中では、“良い消費者”ばかりでなく、悪しき風評やトラブルなども増えてくるだろう。悪質なウイルスメールや振り込め詐欺、フィッシング詐欺などの増加は、ある意味において、ネット社会が現実社会と同じ水準にまで普及してきていることの証でもあるが、良質のネットユーザーについても、悪意に満ちたネットユーザーについても共通しているのは、現実社会よりも“知能的”に成長していることである。オンライン消費者は無料で利用できる各種の便利なサービス(検索エンジンやフリーメール、ブログなど)を知的ツールとして上手に活用することが得意だ。オンラインショップの新たな戦術としては、善意のオンライン消費者を味方に付けて、高度なアフィリエイト提携による販売網を拡大していくことが望ましい。

    《オンラインショップとブログとの連携ビジネス例》

      オンラインショップとブログとの連携ビジネス例
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     JNEWS LETTER 2004.5.01
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事業規模の違いによるマーケティング戦略の棲み分け

     年商百億円超のネット企業が、今後もさらに業績を伸ばしていくためには、絶対的な人口が多い一般大衆層の消費者に対して、わかりやすいマーケティングを展開していくことが必要になってくる。その具体的な策として、楽天やソフトバンクのプロ野球参入をみれば納得がいく。他の大手ポータルサイトでも今後の獲得に力を入れていくのは、一般大衆層の消費者である。

    しかし年商十億円未満のIT企業やオンラインショップが、大手サイトの動向に影響されて同じ方向へ走ろうとすれば、自社(自店)に最も適した顧客層を見失ってしまうこともある。ネット草創期の状況とは異なり、現在のネット市場では「ネットユーザー」を一括りにすることができない。派手な広告メッセージやプレゼントキャンペーンになびきやすいユーザーもいれば、そんな大衆向けの宣伝をするショップからは離れようとするユーザーも存在している。

    年商数億円台の売上規模で業界シェア一位を狙えるのはニッチ市場ということになるが、そこに食いついてくるユーザー層に対しては宣伝広告よりも専門的な情報提供のほうが反応が良い。マス層を狙うか、ニッチ層を狙うのかによってネット販促の手法やコストは大きく異なってくるため、自社が目標とする事業規模に適した戦術を考えていくことが大切だ。しかし失敗事例として、ニッチ層を狙うべきオンラインショップが、大手サイトの間で流行するマス層に向けた広告手法を真似することで、過去に築いてきたショップのブランド価値を落としているケースもみられる。

    《●消費者の市場全体における階層パターン》

      消費者の市場全体における階層パターン
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     JNEWS LETTER 2004.11.28
    ターゲットユーザー層を選別して考える中小ショップの運営法
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売上高でなく営業利益でみるネットビジネスの優劣

    「儲かるネットビジネス」という視点では、ネットオークション事業の収益率が群を抜いて高い。米国ではeBay、日本ならばYahoo!オークションが圧倒的なシェアを獲得しているが、オークション運営会社は電子的な取引機能を提供するのみで、実際の商品取引は“売り手”と“買い手”の個人間が直接行なう方式であるため、在庫管理や物流のリアルな設備投資が必要なく、年間取引額×落札手数料(約3%)の収益に対して約75%の営業利益を稼いでいる。これは、膨大な商品在庫を抱えている大型eコマースサイトが売上高に対して約3〜5%の営業利益しかないことと比較すると、非常に優れた収益構造であるといえるだろう。

    企業間の取引を仲介するB2B型のマーケットプレイスが苦戦する一方で、個人間マーケットプレイスの役割を果たすネットオークションの市場は、前年よりも30%以上の伸びを示している。中小のオンラインショップを含めたeコマースサイトでも市場規模の成長ペースではオークション市場と同様の伸びを示しているが、売上高の上昇に伴って営業費用のウエイトも高くなり、営業利益率が目減りしているのが悩み所である。

    《eコマースサイトとオークションサイトとの比較(例)》

      eコマースサイトとオークションサイトとの比較
    ※eコマースサイトの営業費用には、人件費の他に在庫管理用の倉庫家賃、荷造梱包費や広告宣伝費が大きなウエイトを占めている。ネットオークションの営業費用では、人件費の他にオークション取引システムの開発と維持にかかるコストのウエイトが高い。

    ※ネットオークション事業は取扱高が増えるほど営業利益率は上昇する傾向にある。一方、eコマースサイトでは売上高が増えるほど営業利益率は下落する傾向が顕著に表れている。

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     JNEWS LETTER 2004.6.05
    目減りするeコマースの利益率と勝ち組ネット事業の対比
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新たな収益源を作ることが課題のeコマース業界

     そこでeコマースサイトとしては、商品販売から得られる売上の他にも新たな収益源を作ることが今後の経営課題となる。その具体例としてアマゾンコムでは「サードパーティ・セラー方式」の導入に力を入れている。これは自社サイト内の一部エリアを他の小売業者にも“売り場”として提供することで家賃収入を得るという発想だ。

    百貨店や大型ショッピングモールなどリアルな小売業界では、売り場の増床や新店舗建設などで多額の設備投資をする際には、自社の商品販売益だけで投下資金を回収しようとするのではなく、近隣の小売業者からテナントを募り、出店保証料や月々の家賃、売上に連動したロイヤリティ収入などを徴収することで総合的な収益構造を築いているが、ネット上でも集客力や知名度の高いeコマースサイトならば同様の仕組みを作ることが可能だろう。またそれ以外の策として、サイトやメルマガ内に広告掲載枠を設定したり、自社のeコマースサイト運営の中で作り上げたシステムを、他社に対して販売または貸与する形でライセンス収入を稼ぐことも新たな収益源としては魅力がある。

    《化粧品販売サイトにおけるサードパーティ・セラー方式の導入例》

      化粧品販売サイトにおけるサードパーティ・セラー方式の導入例

    ※○=お洒落に関心の高い女性ユーザー
    ※サイト運営企業は本業の化粧品販売から得る収益の他に、サードパーティ・セラーからの出店料と売上に連動したロイヤリティを月々の二次的収入として得ることができる。


    《eコマースサイトの理想的な収益構造(例)》

      eコマースサイトの理想的な収益構造

    ※業況によって変動する商品販売益に会社経営すべてを依存するのではなく毎月の固定経費に相当する額は安定した固定収入(他店からの家賃等)によって確保できる財務体質になることが理想。

消費者の購買意欲を駆り立てるための流通テクニック

     2005年のビジネスを成功させるためには“売り手”ががんばるだけでなく、商品やサービスの“買い手”となる肝心の顧客が旺盛な消費意欲を示さなければ始まらない。しかしながら、国内消費者の財布の紐は増税の影響もあって、簡単には緩みそうにない。

    いま過去最高益を更新している好調な自動車業界の動向をみても、大幅に売上を伸ばしているのは、北米、欧州、アジア向けの海外市場が主体で、国内市場における売れ行きは各メーカー共に伸び悩んでいるのが実態だ。

    国内で自動車が売れにくくなった理由には、自動車の品質が向上して壊れにくくなったことによる買い換えサイクルの長期化や、新たに自動車を購入する20代の若者人口が減少している点などが指摘されている。新車市場が低迷しはじめると、数年先の中古車市場にも影響を与えるのが必至で、その波が現在の中古車業界を襲っている。

    加えて、ネットでの情報収集によって消費者が賢くなってきたために、中古車業者は以前ほど1台あたりの利幅が取れなくなったという悩みも抱えている。中古車は1台売ることで25万〜30万円の粗利益を得るのが一般的だが、ネットで情報収集してきた消費者は相場を詳しく把握しているため、粗利益は1台あたり15万〜20万円に落ち込んでしまうのだ。自動車業界に限らず、賢くなった国内の消費者を相手に商売をして稼ぐことは年々難しくなっている。

    《現代の消費者の特徴》
    • 生活に必要なものは、既にほとんど所有している。
    • 売り手側の“言い値”ではなく、適正価格をリサーチしてから購入。
    • 新品のみに拘らず、型落ちの新古品や中古品も購入対象として比較検討。
    • 新製品が登場しても飽きるまでのスピードが速い。

    そんな手強い消費者の購買意欲を駆り立てるためのテクニックとして意識しておきたいのが「渇望感」というキーワードである。現代の賢い消費者は「いつでも買える商品」「誰でも買える商品」にはすぐに飛びつかずに、値下がりしていく動向をじっくりと見守っている傾向が強い。そこで売り手側としては何らかの方法で「買いたくても、なかなか買えない状況」を演出して、消費者の渇望感を駆り立てる巧みな戦略を展開することが重要だ。

    その一例として、2004年にはアップル社の携帯音楽プレーヤー「iPod」が近年には希なほどの大ヒット商品になっているが、9月に iPod miniが発売されて以降は慢性的な品薄状態が続いている。「品薄でなかなか購入できない」という噂が広がると消費者の渇望感は急速に高まり、値引率もあまり気にせずに先を争うように購入予約に走る流れが生まれる。

    現代では、メーカーがヒット商品を生み出すためには、むやみに大量生産をするのではなく、人気(需要)の動向を見ながら生産・出荷量の計画を立てていくことが肝心なノウハウになる。iPodのケースでいえば、アップル製品の流通ルートは他の国産家電製品とは異なるため、ユーザー側で人気に火がついた状態でもすべての家電量販店がiPodを揃って販売できるわけではない。その特殊な流通ルートが幸いして、長期的な品薄状態が続いたまま、値崩れを起こすことなく売れ続けている。この状況は決して“偶然”ではなく、戦略的に生み出されたものとして見るべきだろう。

    《広げすぎた製品流通ルート》

      広げすぎた製品流通ルート
      ※流通ルートを広げすぎると製品在庫が各店にダブつくのと同時に、安売り乱売をする不良店の影響によって、消費者の購入意欲が冷めてしまう。ヒット商品が生まれても、すぐに市場内では供給過多の状態に達するため消費者側の渇望感は生まれにくい。


    《絞り込むことで渇望感を生み出す製品流通ルート》

      絞り込むことで渇望感を生み出す製品流通ルート
      ※安売り乱売しようとする不良店を排除し、信用力のある正規加盟店のみに製品を流通させることで、市場内における適正な供給量をコントロールすることが可能。この流通方式でヒット商品が生まれると、消費者は順番待ちの状態となって渇望感が生まれる。ただしメーカー側が意図的に販路を制限をすることは独禁法違反の恐れがあるため、その辺りを配慮した形での加盟店の審査や教育指導の方法が大切になる。

小売業者が生き残るための仕入ルート開拓と正規契約

    一方、小売ショップ側としては「どんな店でも仕入れられる商品」ばかりを扱っていても安売り競争の中に巻き込まれるだけで、たとえ売上は伸びたとしても経営は次第に苦しくなっていく。その打開策としては、消費者からの支持率が高いメーカーの製品が優先的に扱える「正規加盟店(販売代理店)」の座を獲得することが生き残り策となる。

    その実例として、地酒や高級ワインを販売するショップ各店の品揃えと販売価格を比較してみるとわかりやすい。銘酒というのは大量生産ができないため毎年の生産量には低い限界値がある。そのため高いブランド力を持つ老舗の酒メーカーでは独自の正規流通網を構築して、毎年決められた取引先にしか商品を卸さないのが普通だ。その正規流通網に属しているショップでは、シーズン毎に銘酒を正規価格で顧客に販売することができるが、正規流通網に属していないショップでは、並行輸入などの二次的な仕入ルートによって商品を調達することになるため、品揃えにはバラツキがあり、人気のある銘酒の価格は正規ルートより高い価格でしか販売できない。

    短期的にみれば、並行仕入によるゲリラ的な販売で売上を伸ばすことは可能でも、その方法では売上が伸びてくるほど商品の安定仕入が難しくなって、消費者からの信頼を失うことになる。十数年前のバブル期には“カテゴリーキラー”と呼ばれたディスカウントショップが全国に数多く登場したが、その多くは一時的に業績を伸ばしたものの、商品の安定調達ルートを築けずに廃業へと追いやられてしまった。ちょうどそれと同じことが、現代のオンラインショップにも起こる可能性がある。個人からスタートして急速に売上を伸ばしてきたショップでは、仕入ノウハウに弱点が潜んでいることが多いが、彼らにいま必要なのは人気商品を優先的に安定して仕入れるためのメーカーとの“正規契約”である。

    商材によってはオンライン上での乱売合戦が既に激化しているが、メーカー側では渇望マーケティングとして流通ルートを絞っていく流れに向かっている。メーカーがICタグによる商品の流通管理を本格稼働させることになれば、二次流通ルートからの仕入に依存した並行ショップは消滅の危機に陥る懸念があることも意識しておきたい。

    2005年のビジネス手法は、ITツールの進化も手伝って、より高度になっていくことは間違いない。各分野において一番手の企業のみが生き残り、二番手以降はすべて淘汰されてしまう厳しい世界だが、その中で勝ち残っていくためには、他社の動きに追随することなく、自社の強みを生かしたオリジナルの戦術やビジネスモデルを生み出していくことが肝要だろう。その具体的な仕組みや収益構造については、今後のJNEWS LETTERの中で継続的に追いかけていく予定だ。
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