医療現場の人材育成に活用されるVRシミュレーター開発
JNEWS会員配信日 2018/11/1
職業訓練向けのVRシミュレーターは、ここ数年で浮上してきたビジネステーマだが、その中でも潜在需要が高いのは、医療業界と言われている。医療の現場では、医師や看護師の人手不足が深刻化しているが、人材の育成には長い年数がかかる。実際の患者と接しながら行う臨床教育は、実習できる環境や時間数が限られるため、擬似的な訓練ができるシミュレーターが求められているのだ。
カナダの新興企業が開発した「PeriopSim(ペリオペ・シム)」は、看護師の育成を目的としたシミュレーションアプリで、iPadのタブレット上で、手術で使われる器具の扱い方をトレーニングできる。基本的な知識を動画で学んだ後は、タブレットの画面上で手術のアニメーション映像が再生されて、器械出しのシミュレーションをゲーム形式で行うことができる。その習熟度はスコアとして判定されるため、看護学生や新人看護士がセルフ訓練を繰り返すモチベーションにもなるし、チーム内でスコアを共有して、互いに競い合うこともできる。
さらに、タブレットでの教育を進化させた「PeriopSim VR」は、バーチャルリアリティのヘッドセットを利用したシミュレーションアプリで、手術室の空間を仮想的に体感することができ、執刀を担当する医師とのポジショニングや、安全でスピーディーな器械出しのトレーニングまでを行うことができる。
■PeriopSim VRのデモ映像
PeriopSimのシミュレーションアプリは、既に200以上の医療機関で採用されており、診療科目や手術の内容により、具体的なトレーニングメニューはカスタマイズして納入されている。このアプリを導入したことで、看護師は仮想トレーニングを繰り返し没頭することが実証されており、その時間数を教育コストに換算すれば、非常に大きな成果が得られている。病院側では、各看護師のゲームスコアからスキルを判定して、実際の手術を担当するメンバー編成に役立てることもできる。
また、米シリコンバレーで2013年に創業した「SimX」が開発するのは、まだプロトタイプの段階ではあるが、VRゴーグル上で多様な患者の診療場面を仮想的に再現して、研修医が具体的な治療の手順を学べるシミュレーションソフトだ。
従来の医療実習では、マネキン人形を患者に見立てて、治療のトレーニングを行う方法が古くから続いている。医療用マネキン人形の価格は、1体あたり15~100万円と高額で、大学病院ではトータルで数千万円の費用をマネキン人形本体と付属パーツの購入に充てている。それでも、幼児、子ども、成人の男性、女性、高齢者など、それぞれの体格で各症状に応じた部位が動く人形を揃えることは難しい。
一方、VRアプリであれば、多様な体格や症状の患者を仮想的に再現することが可能で、医大生や研修医は膨大なパターンの治療ケースを経験することができる。
SimXのVRアプリは病院内の実習モデルとして、最大4人までの研修医が同じ仮想画面を共有して、治療のシミュレーションができる。また、反復練習をする自宅トレーニング用としての用途も想定されている。
■SimX
■SimXによる仮想トレーニングのデモ映像
医療用シミュレーターの方向性としては、VRゴーグルの中だけでバーチャルリアリティ(仮想現実)を実現する方法の他にも、実際の医療器具や人体の感触を確かめながらトレーニングが行える、拡張現実(AR)のテクノロジーも取り入れていくことが、理想的な形になる。また、治療内容によって、トレーニングのカリキュラムは膨大になるため、大学や病院が独自の教材コンテツを安価で作成してライブラリーとして蓄積したり、他の医療機関とも無料・有料でコンテンツを共有できるプラットフォーム化も進むとみられている。
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