新発明を生み出すイノセンティブと研究開発の仲介業
企業が内部の人材のみで行う研究開発は「クローズド・イノベーション」と呼ばれているが、これからは、外部の研究者とも協業することで、低予算でも技術革新のスピードに対応できる「オープン・イノベーション」の研究方法が模索されている。
国の財政難により研究資金を捻出できなくなっている、公共性が高い研究テーマについても、オープン・イノベーションの手法は有効だ。
たとえば、地震、津波、火山の噴火予測など防災関連の研究は、国が先導して行っていく必要があるが、2011年の東日本大震災が起きて以降は、被災地の復旧が優先されているため、先進的な防災技術の研究開発にまで資金が回っていない。
しかし、国内外の研究者がクラウドに結集して研究開発を進めれば、切り詰められた予算の中でも、優れた防災技術を生み出すことができる。自然科学に限らず、他分野の研究者も参加することで、これまでには無かったアイデアの新技術も生まれやすい。
【InnoCentive(イノセンティブ)の研究開発仲介】
世界で最初にオープン・イノベーションの仕組みを構築したのは、医薬品メーカー、イーライリリー社の社内ベンチャー事業として2001年に立ち上げられたクラウドサイトの「InnoCentive(イノセンティブ)」と言われている。
このサイトでは、各種の研究開発テーマを、世界の科学者や技術者にクラウドソーシングできる仲介サービスを行っており、米防総省、米航空宇宙局(NASA)、ボーイング、P&G、デュポン、その他の大手企業も、研究開発の外注先として活用している。
イノセンティブの仕組みは、「Solver(ソルバー)=解決者」と呼ばれる世界の研究者達が35万人以上登録されており、企業や公的機関などが委託元となり、難解な研究テーマに報奨金をかけて、解決策を公募できるようになっている。この委託元は「Seeker(シーカー)」と呼ばれている。
イノセンティブの起源は、世界で次々と起こる困難な課題(難病、災害、環境汚染、食糧不足など)を、緊急的に解決できる科学技術のアイデアを、世界の研究者から募集するクラウドプラットフォームとして開発されたものである。
研究者の知恵を広く集めるために、一つの課題テーマに対して 5000ドル~100万ドルの報奨金を設定しているのが特徴で、イノセンティブはシーカーとなる企業や団体からの登録料を収入源にしている。
■InnoCentive
■InnoCentiveの仕組みを解説した映像
イノセンティブの中では、非営利の財団などが、途上国や貧困者の救済に役立つ研究テーマのスポンサー(シーカー)となり、ソルバー達から新技術のアイデアを募集して、それが実用化されている例も多数ある。
《途上国の生活を改善するための開発例》
・発展途上国の家庭が安価に導入できる雨水貯水システム
・微生物で汚染された飲料水を太陽光で消毒するシステム
・マラリアの原因となる蚊を太陽光で駆除するシステム
・途上国の子供向けeラーニングシステム
過去最大級の報償金が支払われた研究事例としては、2006年に、「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の治療を支援する非営利団体、「Prize4Life」がスポンサーとなり、ALS の症状がどれだけ進行しているのかを短時間で診断できる検査方法の開発が、100万ドルの賞金で公募された。
その結果、筋肉に通じる電気の流れを利用した検査方法を考案した、ボストンの医師が賞金を獲得している。この発明により、ALSの疑いがある患者の診断にかかるまでの、時間と医療費を大幅に削減することができる。
メーカー企業でも、新製品の開発に必要な研究の一部を外注しはじめている。イノセンティブでは、発注者が誰なのか、同業者から悟られないように、匿名で研究の委託をすることもでき、ソルバーが発明した技術の権利についても、報奨金の支給と引き換えに、発注側が知的所有権を取得できるようになっている。
報奨金の相場は、1つの研究テーマにつき約1万ドルが平均値で、シーカー(研究委託元)となる企業や団体は、イノセンティブへの登録料と報奨金を合わせて約2万ドルの費用がかかるが、研究者を雇う人件費と比べれば、非常に安いコストといえる。
ソルバーの条件に、学歴や学位などは設定されておらず、誰でも自由に登録することが可能だが、登録者の65%は博士号を取得している高学歴者で、欧米人が5割、他の5割はロシア、中国、インドなどの研究者である。
彼らが、研究課題に応募する目的には、報奨金を狙うことの他に、自分が関心の高いテーマをリストの中から見つけて、好きな研究に打ち込めること、テーマによっては、他の研究者との協業ができることのほうが、勤務先の仕事とは異なる動機付けになっている。
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・JNEWS LETTER 2014.10.31
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