在庫管理からみたユニセックス商品の開発と採算性
男女の区別をしないジェンダーレスの価値観は10~20代からの支持が厚く、アパレルメーカーや小売業界にとっても、従来の常識を転換していく必要に迫られている。背景にあるのが「いじめ」の問題で、LGBTQ+の子どもは7割近くが、学校でいじめを受けているという調査結果もあり、男児用・女児用、メンズ・レディースの枠組みを取り払った、中性的なファッション形態に変化させていくことは、アパレル業界にとっての課題となっている。
英国の老舗百貨店「Selfridges(セルフリッジ)」では、メンズ、レディースという別々の売り場を見直して、ジェンダーニュートラルな売り場へ統合する変革を2015年から行っている。その中では、40以上のブランドから厳選されたユセックスファッションの新作が販売されている。Selfridgesでは、この売り場コンセプトを「Agender(アジェンダー)」と名付けて、性別に関係なく、好きな服を自由に選んだり、試着できるショッピング体験を提案している。
従来の百貨店では、レディースの売り場で男性が服を見ていたり、女性がメンズ売り場で服を見ていると、周囲から冷たい視線を感じることがあるが、これは百貨店にとって販売機会の損失でもあった。しかし、Selfridgesでは男女の区別を無くして、ジェンダーニュートラルな売り場にすることで、カップルの来店客数が増え、同じデザインの服をサイズ違いで購入するような、プラス効果が生じている。
■Selfridges Loves:the new unisex
男女の区別をしないユニセックスデザインの商品は、在庫管理の点からも好都合で、在庫保有の最小単位(Stock keeping Unit:SKU)を減らせるメリットがある。たとえば、4種類のカラーがあるシャツをS・M・L・LLの4サイズで、メンズとレディースそれぞれ揃えると、在庫の最小保有単位は32種類になる。しかし、ユニセックスデザインのシャツは、男女別に在庫を保有する必要が無いため、単純計算では在庫アイテムを半分の16種類に減らすことが可能だ。
実際のアパレル業界における在庫負担は更に複雑で、従来のレディース商品は「ブランド」「サイズ」「スタイル」「色」によって構成されている。たとえば、百貨店が女性用スラックスを在庫として置く場合、「4ブランド」「5サイズ」「3スタイル」「4色」の在庫を揃えると、在庫の最小保有数は240種類になってしまう。
これだけの商品を揃えても、すべての在庫が完売できるわけではないため、種類が多いレディース服は、売れ残ることを想定した価格設定がされている。これが、百貨店の服が高い理由であり、消費者は、売れ残り在庫の償却費までを負担した商品代金を払っている。
しかし、消費者側からユニセック支持の流行が起きると、メーカーや小売店は男女別の商品を揃えなくても済むため、商品の品質を高めたり、価格設定を下げられるようになる。
ユニセックスのブランドを好むか否かは、消費者の嗜好によっても判断が分かれるところだが、高品質でリーズナブルな服を長く着たい人達を中心として、ユニセック化の波は起きている。つまり、ジェンダーレスの風潮は、LGBTQ+の特定層に限った話ではなく、合理的で賢いライフスタイルの価値観としても広がり始めている。
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