多系列化して広がるEV充電ステーションの業界構造
エンジン車の給油を行うガソリンスタンド(給油所)は全国に3万箇所あるが、EVは1台あたりの充電時間が長いため、給油所よりも多くの充電施設が必要になるとみられている。パブリック充電では、ドライバーが移動中に最寄りの充電設備をカーナビやスマホアプリから探すことになるため、同じ会員カードで全国の充電設備を利用できるようにする「系列化」が進んでいる。
日本では、自動車メーカー4社(トヨタ、日産、ホンダ、三菱)と東京電力、中部電力、日本政策投資銀行が共同で設立した「日本充電サービス(NCS)」が、国内のディーラー店舗、高速道路、コンビニなどにある充電設備の9割(約2万基)を系列化している。
そのため、トヨタ、日産、ホンダ、三菱が発行する会員カードまたは、NCSカードを保有しているユーザーであれば、全国のNCS加盟ステーションでEV充電することができる。会員カードを持たなくてもビジターとして利用できるが、充電料金は割高な設定のため、利用者の9割は系列カードの会員になっている。
一方、充電設備の運営者は、NCSのネットワークに加盟することで、EVユーザーを集客しやすくなるのが利点だが、NCSから支払われる提携収入は、急速充電が9.8円/分、普通充電が1.5円/分と、利用状況(充電時間)に応じた報酬額が決まっている。急速充電を1回につき30分としても、充電1回あたりの収入は294円に過ぎず、充電事業を黒字化することが難しい。
しかし、EVの充電施設は複数のネットワークと接続できるのも特徴で、同じ充電ステーションが複数系列の利用体系を作れることが、ガソリンスタンドには無い特徴になっている。
たとえば、セブン&アイ・ホールディングスの系列店舗に設置されているEVスタンドは、NCSのネットワークに加盟していることに加えて、セブン&アイの電子マネー「nanaco(ナナコ)」でも利用することができる。nanacoカードの保有者は、月額会費が不要で、急速充電が15分225円、30分450円。普通充電が1時間120円、2時間240円となっており、NCS系列よりも割安な設定になっている。
また、イオンのショッピングセンターでも「WAONカード」の保有者に対して、EVスタンドを急速充電を30分300円、普通充電を1時間120円で提供している。ショッピングセンターにとっては、充電料金を安価に提供しても、店舗内の滞留時間が長くなり、EVユーザーの買い物金額が伸びればトータルでの採算が合うという読みだ。
EV充電中の購買特性については、集客マーケティングの新たな研究テーマになっており、米国のスーパーチェーンでは、コストが安い普通充電を無料で提供することにより、EVユーザーの買い物時間を長くさせる取り組みも、実験的に行われている。※2019.12.11号で解説。
ちなみに、日産リーフで急速充電を30分行うと約20kWhの蓄電ができ、120~140kmの走行が可能になる。自宅マンションに充電設備が無いEVユーザーでも、週に数回イオンで買い物をしながらEV充電を行うことで、日常の移動に使う充電量を賄うこともできる。
これからのマイカー利用者は、同じ充電スタンドを利用する場合でも、どの系列会員になるのかで、トータルの充電費用では大きな差が生じてくる。言い換えると、EVの普及は単に自動車販売のビジネスだけではなく、小売業やサービス業、電子マネーの業界も巻き込んだ「EV充電商圏」を形成することになるだろう。
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