written in 2011/8/3
いま世界に影響を与えているアパレル企業がスペインに集中していることは、偶然ではなくて必然的な理由がある。
イタリア、イギリス、フランスなど、欧州の主要国は、第2次世界大戦後から国際的なファッション業界が栄えて、高級ブランド志向のビジネスも旺盛になっていった。しかし、同じ欧州の中でもスペインは、フランコ首相が亡くなる1975年まで独裁政権が続き、ほぼ鎖国状態で貧しい国でもあった。
日本では1980年代から、欧州から輸入される高級ブランドの他、コム・デ・ギャルソン、ヨージ・ヤマモト、三宅一生などのDCブランドが大流行して、女子大生が十数万円するような高級服を着て通学するような時代であった。
しかし同じ頃のスペインは、まだ独裁体制に終止符が打たれて間もない時期で、異名を成していた映画監督ペドロ・アルモドバルらを筆頭に、若者たちによる改革解放の運動が起こり、前衛的なロック、パンク、映画が流行ったが、日本の若者たちのようにプラダやアルマーニ、ビトンやイブ・サン・ローランなどのブランド品を買うお金を持つ人々はごく少数だった。
しかし本来のスペイン人は、アートセンスに優れ、独特の文化を持ち、体型や美貌にも優れていることから、彼らがファッションに注ぐ情熱には、並々ならぬものがあり、社会が自由な気風を帯びはじめた1980年代の中頃からは、最新の流行を採り入れながらも、価格を安く抑えた服(ユニクロと同程度)を製造販売するアパレル企業が複数登場してきたのである。この背景については、2011.6.19号で紹介した、スペインのキッチン用品メーカー「ルクエ」の成功とも共通している。
【ZARAを経営するINDITEXグループの実像】
スペインを代表するファッション・メーカーである「INDITEX(インディテックス)」は1975年に、スペイン北部のガリシア州にあるコルーニャという都市で創業した。現在では、ZARAの他にも複数のブランドを展開して、世界70ヶ国以上で5000店舗以上を経営、2010年の販売実績は120億ユーロ(約1兆2000億円)という巨大企業に成長している。
■INDITEXグループ
http://www.inditex.es/en/
《INDITEXグループが展開しているアパレル・ブランドの一例》
■ZARA(78ヶ国、1540店舗)
http://www.zara.com/
■Pull & Bear(47ヶ国、693店舗)
http://www.pullbear.com/
■Massimo Dutti(50ヶ国、542店舗)
http://www.massimodutti.com/
■Bershka(51ヶ国、734店舗)
http://www.bershka.com/
■Stradivarius(46ヶ国、619店舗)
http://www.e-stradivarius.com/
■Oysho(27ヶ国、443店舗)
http://www.oysho.com/
VIDEO
これらのブランドは、ターゲットとする顧客の属性によって、商品の企画や種類に違いがあるものの、同グループの服作りに関するノウハウはすべて一致している。
服のデザインについては、流行性を重視しているが、完全なオリジナルではなくて、プラダなどの有名ブランドが、いま流行させているトレンドを参考にして新商品の企画をする。生地はオーソドックスな素材を調達して、製造は専属の下請け工場に任せるという方式。
同グループは、生産、流通、在庫管理の面において、世界のアパレル業界で最も効率的な「ジャスト・イン・タイム」の体制を整えており、客のニーズを把握してから、新商品を迅速に投入できるノウハウを持っている。
そのため、新商品の生産も最小限しか行わず、店頭の売れ行きを見ながら追加のオーダーをする仕組み。商品のデザインから生産にかかる期間は約2週間、生産された商品が各ショップの店頭に並ぶまでにかかる時間は、48時間以下というのが標準である。
また同グループは、いずれのブランドにおいても「広告には投資しない」という方針を貫いている代わりに、各都市で最良の立地に出店することにより、店舗を事実上の広告塔にしている。好立地の店舗には、流行に敏感な顧客が訪れるため、彼らのニーズや買い物の動向を掴むことで、売れ筋の人気商品を作ることに長けているのだ。
(儲かる商売の裏側一覧へ )
●ファッション業界に影響を与えるスペインの理由
●ZARAを経営するINDITEXグループの実像
●INDITEX社の集客戦略について
●日本未上陸ファッションブランドへの着目
●ネットが縮めるファッションの国境格差
●欧州から日本へのバイヤー代行ビジネス
●海外バイヤーと日本消費者を結ぶオンラインモール
●在庫負担の無いバイヤービジネス仲介サイト
●海外在住の日本人が手掛けるバイヤービジネス
●ソーシャル時代における新たな流行法則とビジネスモデル
●アンチ大量生産の消費者に支持されて急成長する手芸サイト
●眠れるモノ資産の価値を再生する新卸売りビジネスの役割
●市場から抹殺される返品商品を専門に取り扱う裏の流通業者
●女性起業家がリードする"スペシャリスト"としての新テーマ
JNEWS LETTER 2011.8.3
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