本屋にはどうして文具コーナーがあるのか?書店の意外な事情
空いた時間にふらりと立ち寄れる店として最も人気が高いのは書店だ。本屋での“立ち読み”はお金がかからない知的な娯楽の一つとして欠かせない。最近ではアマゾンなどオンライン書店の台頭によって書店業界は厳しさを増しているものの、たくさんの本を手に取って読める地域の本屋が消費者からまったく必要とされなくなってしまうことはない。
我々が気軽に本屋で立ち読みができるのは、「再販制」の商慣習によって業界が守られていることが関係している。このルールによって書店では本を定価で売ることが義務付けられている一方で、陳列しても売れなかった本は出版社に返品することができる。そのため書店の経営者は“必ず売れる本”だけでなく、各ジャンルの有意義な本を幅広く取り揃えることができる。本は出版社からの委託によって置かれているために、多少の立ち読みで本が痛んだとしても、経営者は寛容な気持ちで見ていることができるわけだ。
消費者は「本を定価で買う」という対価を払っている見返りとして、冷房が効いた快適な店内で気兼ねなく立ち読みができるという恩恵を与えられている点を考慮すべきだろう。
一方、賢い経営者は「本の再販制」を上手に活用して商売の幅を広げることに成功している。近頃では書店の看板を掲げながらも、文房具や雑貨、ゲームソフトの販売、ビデオレンタルなども兼業する大型店が増えている。これらの大型複合店では、本屋に立ち読みに来る消費者が集まりやすいという特性を活用して、書籍の販売よりも粗利が高い商売へと顧客を誘導しているのだ。
【書店の採算性と潰れる店に共通している特徴】
書店が仕入れた本が売れることで得られる粗利は平均で21~22%という水準。
これは他の小売業と比べると低い水準であるにも関わらず、書店の経営が成り立っているのは再販制(それに付随した返本制度)に守られていることが理由だ。
もしも買取り仕入れが原則となってしまえば、全国で数多くの本屋が廃業するか、古本屋に転業してしまうだろう。
逆にいえば、現在の再販制度に乗っていれば書店は潰れるリスクが少ない商売ともいえる。現実にはそれでも潰れてゆく書店はたくさんあるわけだが、それらの店に共通しているのは、万引き被害が多いという点である。売れ残った本は出版社に返品することができるが、万引きされた本の仕入代金は店側の負担となるため、本を1冊万引きされると、同じ本を4冊売らなければ被害額を回収することができない。 そのため小さな本屋が万引きの標的になってしまうと、被害額を売上で回収することができずに経営が次第に悪化してしまう。
【書店には必ず文房具コーナーがある理由】
本を売ることで得られる粗利益から店舗家賃や人件費、光熱費などを差し引いた書店の営業利益率は1%程度にしかならない。それでも書店の経営が成り立っているのは、本屋は店舗への集客力が高いところに理由がある。消費者が空き時間にふらりと立ち寄れる場所として“本屋”は最も人気が高い。その集客力を活かすところにこそ書店経営の魅力があるのだが、それを特徴的に反映しているのが、どこの書店にも必ずある文房具コーナーの存在だ。
ふらりと立ち寄った本屋でついでにノートやボールペンを買うということはよくあるが、文房具の粗利益は約40%と書籍販売よりも高いのだ。そのため経営者としては、本よりも文房具を売りたいというのが本音だ。しかし文房具だけを売ろうとしても顧客はわざわざ店に立ち寄ってくれない。あくまで書店に文具コーナーが併設しているからこその商売である。
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・JNEWS LETTER 2006.7.24
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