介護用品レンタル市場における価格差のカラクリと業界構造
介護業界で話題になっているのが「福祉用具(介護用品)レンタル料の価格差」についての問題である。介護が必要な高齢者が使用する福祉用具(車イスや電動ベッドなど)は、購入よりもレンタルで利用されるケースが多いが、そのレンタル料金が業者によって十倍以上の差が生じている。例えば、車イスのレンタル料が月3千円の業者もあれば、月2万円を超える料金設定をしている業者もある。通常の商売ならば業者間の競争によって価格差は僅かであるのが普通だが、福祉用具は介護保険制度の適用を受けているため、健全な市場競争が行われていない。裏を返せば、介護用品レンタル業には特別な儲けのカラクリが潜んでいることになる。
介護ビジネスの中には様々な分野があるが、その多くは「人(介護スタッフ)に依存したサービス内容」になっているため、売上高に対する人件費の割合が高く、なかなか儲けることが難しい仕事だ。しかし福祉用具レンタル業は「モノを貸すこと」が本業のため、人的な負担が少ないビジネスである。しかも介護保険によってストックされた資金が市場に環流してくるため、上手に業界に入り込むことができた業者の懐は潤う。
そこに着目して、福祉用具レンタル業をはじめたいと考える人も多い。高齢社会の到来を本番にして、介護用品に対する需要が拡大していくことは確実だが、業界内でどこのポジションを狙うのかによって将来の採算性には大きなブレが生じてくる可能性がある。
【介護用品レンタル業を取り巻く環境】
介護が必要な高齢者が利用する車イスや電動ベッド、歩行器などの福祉用具は“購入”ではなく“レンタル品”として利用されているのが一般的である。福祉用具は介護保険の適用を受けるため、価格の9割は保険から支払われ、利用者が実際に負担する金額は1割になる。用具の購入を公的な保険が支援することは、利用者の資産を増やすことの手助けになってしまうために、「業者からの貸与(レンタル)」という形にして、そのレンタル料の9割を保険が負担するという仕組みが成り立っている。
介護保険の認定を受けている高齢者であれば、福祉用具レンタル業者から車イスや電動ベッドを1割の負担でレンタルすることができる。仮に、月2万円のレンタル料でも利用者側の実際の負担額は2千円に過ぎないため、レンタル業者は料金設定ではあまり苦労せずに顧客を獲得できるのが実態。しかもレンタル料金の決め方に介護保険による上限の設定はなく、業者側が自由な価格を決められることになっているのが現状だ。(2006年時点)
上図によるレンタルの流れで重要な役割を担っているのが、ケアマネージャーが作成するケアプランで、レンタル業者はその内容に沿った福祉用具を貸与している。そのためレンタル業者が売上を伸ばすためには、利用者本人(高齢者)よりもケアマネージャーに対する営業活動が急所になってくる。ここでケアマネージャーと堅い信頼関係を築いてしまえば、割高なレンタル料金を設定しても利用者側から文句を言われるようなことは少ない。そのため、業者によってレンタル料金に十倍以上もの価格差が生じている。
【福祉用具レンタルビジネスにおける卸業者の存在】
レンタル業者が利用者に貸与する車イスやベッドの償却期間(使用期間)は3~4年であるが、その期間のレンタル単価を高く設定するほど収益性も高くなる。レンタル用に調達される車イスは平均で3年間は使用されているが、通常のレンタル業者は1年程度で仕入原価を回収している。しかし高額のレンタル料を設定することにより、3ヶ月~半年程度で仕入資金を回収できるようになり、それ以降のレンタル料金は利益となるわけだ。
しかしこのビジネスモデルにも死角が存在している。福祉用具レンタル事業は介護保険制度に依存した収益構造になっているため、将来的に福祉用具に対する介護報酬の見直しや上限値が設定されるようになれば、レンタル業者の業績に深刻な影響を与えることになる。そのリスクを考えて、この業界への参入を躊躇する経営者も少なくない。
そこで新たな業態として注目されているのが、福祉用具レンタル卸サービスの存在だ。従来のレンタル業者は車イスや電動ベッドを自前で仕入れて貸与するためレンタル用の資産を持つために相応の資金力が必要になる。しかしレンタル卸業者を利用すると、レンタル業者が卸業者から用具の貸与を受けて、エンドユーザーに貸与する形になるため、まとまった仕入れ資金をかけずにレンタルサービスを行うことが可能になる。
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