医療機器メーカーのMedtronic社は、コロナ禍で人工呼吸器の設計データをオープンソースとして無償公開したが、このライセンス体系からは、次世代型のオープン技術戦略を読み取ることができる(JNEWSについてトップページ
オープンソース人工呼吸器のライセンスモデル

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JNEWS会員配信日 2020/7/31

 コロナ禍の医療現場では、マスク、個人防護具、人工呼吸器などが不足していることから、異業種の工場が協力し合って製造しようとするプロジェクトが各所で立ち上がっている。その中では、製品の設計データを自由にダウンロードして使えるようにする、オープンソース・ハードウエアの構想が広がっている。

その動きに対して、既存の医療用具メーカーが技術協力をしていくことは、専門メーカーとしての評価を高めること、ブランド力の向上に役立つが、製造工程に関わるノウハウを教えることになるため、どの範囲までを無償提供するのかの、さじ加減が難しい。

世界で最大級の医療機器メーカーである、Medtronic社(メドトロニック)は、自社が開発した人工呼吸器「PB560」の設定データを無償で公開している。その内容は、プリント回路基板と機械部品の図面と構造が200ページ以上のマニュアルで詳しく解説されている。さらに、ソフトウエアのソースコードとCADファイルも添付されており、必要な部品の一部は3Dプリンターで出力して、PB560と同型の人工呼吸器を第三者でも製造できるようにしている。

このデータは、同社のサイトから個人情報(名前・メールアドレス・所属先)を登録すれば、自由にダウンロードすることが可能で、2020年3月末の公開から3ヶ月で9万件超の個人や団体に取得されている。

人工呼吸器「PB560」の公開ページ

Medtronic社は、人工呼吸器の知的財産を放棄したわけではなく、複製物の再配布を認めた「パーミッシブ・ライセンス」として提供しているのが特徴だ。ライセンスの主な内容は、設計データに基づき製造した人工呼吸器は、配布・販売することが可能であること、ハードウエアの構造を変更したり、ソフトウエアを修正したりすることも可能。ただし、ライセンスの有効期限は、WHOがパンデミックの終息を宣言した日、または最長で2024年10月1日までに限定している。

《PB560設計データ活用のライセンス内容》
 ○設計データの無償利用ができるのは、最長で2024年10月1日まで。
 ○製作した人工呼吸器は、配布や販売することが可能。
 ○ハードウエアとソフトウエアの変更、修正することも可能。
 ○Medtronic社の商標やロゴを使用することは禁止。
 ○設計資料、データの内容についての保証は無し。
 ○複製した人工呼吸器で事故が起きた時の責任を、Medtronic社は負わない。
 ○製作についての技術的なサポートは行わない。

設計データが無償提供された「PB560」という人工呼吸器は、Medtronic社が10年前に開発したものだ。人工呼吸器の市場は、新型コロナのパンデミック以降は、需要が5倍以上に伸びているが、価格の値上げがされることはなく、1台あたり平均8,600ドル(約92万円)で医療機関に納入されている。Medtronic社の生産能力だけでは、供給量が追いつかないことから、旧型モデル「PB560」の設計データを無償公開することに踏み切っている。

しかし、第三者が設計データに基づいて人工呼吸器を製作するには、必要な部品の調達や、技術力の問題などで高いハードルがある。正式に販売するには各国の法律に基づく認可も取得する必要があることから、無償利用ができるライセンスの有効期限内(2014年10月まで)に、営利の事業として軌道に乗せることは難しい。その点も考えられた上でのライセンス体系といえる。

しかし、オープン化された設計図は、これから医療機器分野への参入を検討する中小業者にとっては、良い研究材料になることから、医療器材のイノベーションを起こす転機となることが予想されている。(この内容はJNEWS会員レポートの一部です。正式会員の登録をすることで詳細レポートにアクセスすることができます記事一覧 / JNEWSについて

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