弁護士や会計士のように、自分の頭(知力)で稼ぐ職業は周囲から何かと相談を受けることが多いが、その時間を金(報酬)に換えことができる手段を求める声が大きい。忙しい弁護士の中では、7分相談にのったから何円というように、タイムチャージ制を導入するケースが増えている。 (JNEWSについてトップページ
知的専門家のタイムチャージ制を実現させる料金メーター

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JNEWS会員配信日 2006/6/23
記事加筆 2021/9/4

 現代のビジネスでは時間に対する感覚が次第にシビアになっている。コンビニへ商品を配送するトラックは分刻みで各店舗への入荷時間が管理されていて、それよりも数分早くても遅れてもいけない。入荷時間のデータはすべて本部側がチェックしているために、ドライバーは道路渋滞も事前に予測した上で正確な時間に荷物を配送する技術が求められている。企業のシステムに組み込まれた仕事の中では、1分1秒という厳しい時間管理の中で利益が絞り出されているのだ。

ところが、自分がいざ自営業者として独立してみると、無駄な時間ばかりを費やして全然儲からない、ということがよくある。たとえば、ホームページ制作業者が新たなクライアントから仕事を受ける場合なら、事前の打ち合わせ、制作作業、サイト完成後のフォローアップといった一連の仕事にかかる時間をトータルで考えると「見積もり金額が安すぎた」ということがよくある。しかし割高な料金の提示では、なかなかクライアントに納得してもらえないというのが実情。

このように「忙しいわりに儲からない」という症状は、経営者やスタッフの作業時間が料金体系の中に忠実に反映されていないことに起因している。クライアント側では、外注業者に依頼した仕事にどれだけの作業時間が費やされているのかを正確に確認することができないため、“時間”を基準にした料金設定に対しては否定的である。しかしこれは「時間に対する課金」が否定されているのではなく、「作業に費やされた時間が正確に測れない」ことに対しての反応だ。Webサイトやプログラムの制作者が実作業にかかった時間を自己申告したところで、その時間数には客観性がないために、時間×作業単価による料金算定の基準とすることは難しい。

電話、ガス、水道など従量制で課金されるサービスのいずれを取っても、人間がその使用量を目測で算出するのではなく、正確さが保証された機械(メーター)によって行われている。じつはそこに新たな知的スペシャリストが時間制課金(タイムチャージ)を実現させるためのヒントが隠されている。

【タクシー運転手はなぜ文句を言われないのか?】

 実際の仕事にかかった負担量に応じて料金を追加請求する方法には顧客との間でトラブルが起こりやすいものだが、それを解決している好例がタクシー業界である。タクシー運賃は「距離制運賃」と「時間制運賃」の2種類を併用して算出されているため、客を乗せたタクシーが渋滞に長時間巻き込まれたとしてもその分の時間料金が上乗せされる仕組み(時速10km以下の走行時には 100秒毎に80円が課金)になっている。

この料金計算をタクシードライバーが自分で行えば乗客から文句が出るかもしれないが、タクシーメーターによって正確に自動課金されることで不信感を解消しているのだ。ドライバーの一日の売上管理もこのメーターによって行われ、一日の最後に打ち出される日計表には、走行距離、乗車回数、運賃の総額が記録されるためにタクシー会社がドライバーを管理する上でもメーターの存在は欠かせない。さらに最近のメーターは性能が進化して、時間別の平均車速や制限速度オーバーをしている走行時間数、どの場所で何時間休憩していたか、といった詳しいデータまで記録されて各ドライバーの営業評価や安全性が一目でわかるようになっている。

このように料金を算定するためのメーターは“正確に測れること”が厳格に求められるために、計量法という法律によって定期的な検査を受けることが義務付けられている。タクシーメーターの場合には、各地域のタクシーメーター装置検査場で1年毎の定期検査に合格しなくてはいけない。その信頼性があるからこそ、タクシーの乗客はメーターを信用して表示された料金を払うのだ。

それ以外でも電気、ガス、水道、ガソリンスタンドなど“信頼できるメーターによる課金”によって成り立っている業界というのは少なくない。逆に言うと、正確な料金が計測できるメーターが存在していない分野のビジネスでは、実際にかかる作業時間の算定が曖昧になって、料金の取りこぼしが少なからず発生しているのだ。それならば、それぞれの業界や職種毎に正確な料金メーターを作れば売れるのではないかというアイデアが浮かぶ。特に知的サービスの作業量は当事者による判断が難しいため、正しい料金メーターの開発が求められている。

【時間制課金の問題点を解決するタイムメーター】

 弁護士やコンサルタント職など、知力をウリにするスペシャリスト達の間では、仕事にかかった時間をクライアント毎にすべて記録して「時間単価×時間数」で報酬を請求するタイムチャージ制が広がっている。しかしそこにはいくつかの問題点が存在している。

クライアントにとっては、予算の見通しを立てにくい、作業が長引けば費用がどんどん膨らむ、そしてその請求が妥当であるかどうかを検証(監査、査定)できないということが問題点として浮上している(米国では実際に弁護士の水増し請求が少なくないという)。しかしスペシャリスト側は、仕事にかかった時間すべてを記録することはかなり面倒な作業になるし、能力が高くて効率的にできる人は逆に報酬が減ってしまうこともある。

そこで知的専門家の作業時間管理を行うためのタイムメーターが新たな市場を形成しはじめている。“タイムメーター”という言い方は一般的なものではなく、米国では作業にかかった時間を記録管理するソフトウエアを「タイムトラッキング(Time Tracking)」と呼び、タイムレコーダー市場を含めて会計および人事管理、従業員の勤怠管理、プロジェクト管理の各分野にまたがる市場を形成している。

タイムトラッキングの要は、クライアント(プロジェクト)毎に一日の作業内容と時間をすべて記録した「タイムシート(Time Sheet)」と呼ばれるデータベースにある。かつては作業者が作業内容と開始終了時間をいちいち手入力して作成していたが、今は入力の自動化が進められていて、モバイル環境でも入力できるようになってきている。米国では会社員から弁護士にいたるまで、タイムシートが時間管理と報酬を算出する基になるデータという認識だ。そのためタイムトラッキングサービスは、いかにして自動かつ正確にタイムシートを生成するか(作業時間の記録)が各開発メーカーの腕の見せ所となっている。

しかし今のところ、数あるタイムトラッキングサービスには機能の違いはあれど、対象とするユーザーの職種や業種を明確にターゲットとしているわけではない。
しかし、タクシー業界にはタクシー専用のメーターが必要であるように、弁護士やソフトエンジニアにもそれぞれ専用のタイムトラッキング機能が求められている。そこに着目することで、タイムトラッキング市場における新たな商機を掘り起こせる。

【弁護士業務にフォーカスしたローファームメーター】

 欧米でタイムチャージ制を導入しているスペシャリスト職としては弁護士が代表格だが、その作業時間の記録方法はというと、本人がメモや手帳などにその都度作業と時間を書き留めるという意外にアナログな方法がとられていた。しかし今では、レクシスネクシス社の「PCLaw」のような、弁護士事務所を対象にした時間管理ソフトが多数販売されていて、大半の弁護士がこれらのソフトをパソコンにインストールした上で日々の仕事を行っている。PCLaw は米国で約3万の弁護士事務所で利用されていると言われる。

PCLaw

PCLawによる作業時間の記録方法は自動タイマー機能を利用したもので、“簡単”と謳われているものの少々の注意が要る。弁護士はカレンダー機能を使って一日に行う作業(クライアントと電話/裁判所への付き添い/訴訟準備など)の予定を入力、タイムシートを作成する。作業を開始する時は、タイムシートを表示させておき、画面上のタイマー機能を起動する。作業している間はタイマーが自動的にカウントされていて、作業を終えた時にタイマーオフをすると経過時間がサーバー側に記録されるという仕組みだ。

さらに、インターネットなどを利用したリーガルサーチ(資料調査)に費やした作業時間も自動的に記録される他、アポイントをとってあった電話の呼び出しやクライアントからかかってきた電話への応答も、その通話時間が記録されるようになっている。ただし、実際の仕事ではアポイントメントが突然キャンセルされたり、飛び込みの仕事もあるし、外出先で複数のクライアントの異なる仕事をすることもある。このような突発的なスケジュールの変更に対して、時間計測のシステムをどのように対応させるのかが今後の課題だ。

ちなみに弁護士の収入について日本のケースで言うと、独立した弁護士事務所の平均売上高(年間)は約3500万円という水準にある。その中の約半分は事務所の経費としてかかるために、実質的な弁護士の所得は約1700万円というのが平均値。
専門職としてこれは高い所得水準にあるが、スタッフを雇った事務所の経営としては決して安泰とは言えない。しかし弁護士一人あたりの仕事量には限界があるため、収入をそれ以上に伸ばそうとすれば、これまで曖昧になっていた各クライアントに費やしている仕事時間を正確に計測して課金することがわかりやすい。

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