JNEWSが学んだ有料メールマガジン運営の秘訣とポイント

JNEWS会員配信日 2001/7/28

「いよいよメルマガ有料化時代の到来か」とメールマガジン発行者たちの間では騒がれている。国内メルマガ発行スタンド大手の“まぐまぐ”が、有料版メールマガジン配信サービス「まぐまぐプレミアム」を2001年8月1日からスタートさせることで、メールマガジン発行者にとっては、広告収入以外の新しい収益モデルの道が整備されることになるからだ。

■まぐまぐプレミアム(運営:まぐクリック)

同サービスを利用してメールマガジンを有料化する場合には、読者に対する購読料金の決済を、まぐクリック側が代行してくれる。購読料金は月100~2,000円の間で発行者側が任意に設定できるが、まぐクリック側がマージン(手数料)として購読料の40%を徴収し、残りの60%が発行者側の収益となる仕組みだ。

現在の“まぐまぐ”から発行されているすべてのメルマガが有料化への資格を得るわけではなく、過去6ヶ月以上の発行実績を持ち、まぐクリックが定めたその他の審査基準をクリアーしたメルマガのみが有料化できることになる。

しかし、無料メルマガを有料化するにはかなりの勇気と決断が必要だ。無料であるがゆえに、気楽に発行することができたメルマガも、“有料”となれば相応の責任を発行者側が持つことになる。(月額購読料×大量読者)によって十分な安定収益が確保できればメルマガ運営をビジネスとして取り組むことができるようになるが、獲得読者数の予想がはずれれば少数読者に対する“責任”だけが重くのしかかる。

有料メールマガジンについての市場性や読者心理については、JNEWSが過去4年以上運営きてきた経験から学んできたことも多いため、重要だと思われる項目を整理しておきたい。

読者アンケートの重要性

メールマガジンの有料化は発行者側が一方的に決めるのではなく、読者との協議の上に決定するという方針を取りたい。読者側にとって“寝耳に水”の有料化であれば、反感を覚えたり、去っていく読者も多い。一方、発行者が考える有料化の意図が読者側に正論として伝われば「応援してあげよう」という連帯感が生まれる。これが、双方向性メディアであるメールマガジンの特徴。

読者側と協議するための方法としては「読者アンケート」が最もわかりやすい。現在、有料化を計画しているメルマガの多くも(アンケート告知→読者回答→結果の分析と報告→有料化 or 無料として継続の決断→購読料金の決定)という順路をとっている。

読者アンケートによって質問したい項目としては、下記のような核心に触れた部分である。

  1. 現在の掲載記事に対する読者側の評価
    (有料として妥当 or 有料の価値なし)
  2. 有料化するなら月額何円の購読料が妥当なのか
  3. 有料化した場合、自分は購読するか否か

有料化の決断で最も重要なのは 1. の読者評価だ。例えば、有効回答数の中の約90%が「有料でも妥当」という評価をすれば、おそらく有料商品として成立する。しかし「有料でも妥当=60%、有料の価値なし=40%)と評価が均衡した場合には、他の無料メルマガでも同等のものが読める、と考えている読者が多いようだ。

有料購読者数の目標設定

月あたりの購読料金を決定する前には、発行者側が有料購読者数を予め試算しておく必要がある。有料メルマガの収益は(購読料金×購読者数)で決定するために、メルマガ発行にかかる経費の総額を算出して、どれだけの収益があがれば損益分岐点をクリアーできるのかをイメージしておく必要がある。

ここで注意しておきたいのは、前の読者アンケート 3. において「有料購読する」という比率が仮に60%だとしても、無料読者数全体の60%が有料読者として移行するわけではない点だ。アンケートの有効回答数が、現在の無料読者数に対して何%なのかも、メルマガ支持率を把握する上では重要な指標だ。

JNEWSの場合には、97年6月に有料化へと移行したが、当時の無料読者数は約5,000名、その中で有料へと移行した読者数(97年7月)は約 1,000人、つまり無料読者の20%が有料読者として残ってくれたことになる。

(有料読者移行率=20%)

有料化から丸4年が経過したが、当時の読者移行率は現在のJNEWS LETTER運営においても重要な指標となっている。有料化後の顧客獲得ルートとしては(2週間無料体験読者→有料正式読者)という流れだが、2001年7月時点までに“無料体験”を登録してくれた数は40,842人。その中から有料読者へと移行したのは8,780人という状況だ。

< 読者移行率と品質管理について >

無料メルマガにはない有料メルマガの利点は、毎回発行するメルマガコンテンツの品質が、読者側からどう評価されているのかを「読者移行率」によって的確に把握できる部分にある。

月単位で(無料体験→有料登録)への読者移行率を毎月集計していくことで、その数値が横ばい、または上昇しているようなら、掲載記事の質は読者から支持されていることがわかり、逆に、下降していくようならば、記事の内容が悪化しているか、読者側が求めているものとは違う、ということが把握でき、改善のための対策を立てなければならない。

これだけ、無料メルマガが氾濫する中で、「お金を払う」ということに対して読者はかなりシビアな評価を下すため、読者支持率(=読者移行率)を同じ水準で維持するためには、発行側ではかなりの努力を強いられるが、“有料”だからこそ読者にメディア側が育てられ、品質を高めていけるのだと実感する。

(購読料金×購読者数)によって収益が得られるメールマガジンの有料化は、成功すればメルマガ発行を“仕事”として取り組めるための環境や時間を与えてくれることになるが、発行者側でも気持ちを切り替える必要がある。

「無料だから読む」「有料でも読む」という2種類の読者層では、メルマガに対して求めるもの、期待するものの内容や質は異なるようだ。

有料化による読者心理の変化

当然の話ではあるが、有料メールマガジンの読者は「顧客」としての扱いになる。無料時代には聞こえてこなかった読者からの要望やクレームなどもダイレクトに届くようになる。読者側としては無料から有料へと移行することにより“何が変わるのか”を期待している傾向は強く、有料化後も無料時代と同等の記事が繰り返し配信されるのであれば「期待はずれ」という気持ちを抱かせてしまう。

身近なライバルとしては同分野の無料メルマガがあるわけだが、次々と登場してくる無料メルマガよりも常に品質が上回っていないと「有料」としてのポジションが保てなくなってしまうことを発行側は意識しておくべきだろう。

JNEWSが97年6月の有料化後に取り組んだのは、個人発行のスタイルから編集部体制へと記事制作のスタイルを徐々に組織化していくという作業だ。記事制作の流れは、雑誌など紙媒体とほとんど同じ流れで進む。

記事テーマの選定→取材活動→取材結果の分析→執筆→校正という順路を経て記事が完成するが、1本の記事に投入できる制作コストを計算した上で、それぞれの工程にどれだけのコスト(取材費や人件費)を割り振ればよいのかを設定していく。最も手間のかかる作業は“記事テーマの選定”で、最近の時流を考慮した上で、他誌(無料メルマガや雑誌など)が扱っているネタとは重複しないテーマを見つけなければならない。この記事テーマ選びに失敗すると、残りの工程をいくら完璧におこなっても読者側は「買いたい」という欲求を抱かないようだ。

個人発行の体制のままでは、どうしても記事テーマが偏るため、たとえ良いコンテンツであっても読者は飽きてしまうのだ。有料メルマガ運営を継続的に維持することは、無料メルマガを維持すること以上に難しいことを実感する。

ネット普及による読者心理の変化

現在の国内インターネット人口は約2200万人(PC利用者)と推定できる。この数だけ見れば有料読者を囲い込むためには十分な市場規模のように思える。もちろん97年頃よりは広く一般世帯にもインターネットは普及していることになるが、メルマガ有料化については96~98年頃のほうが適していたかもしれない。

当時のネットユーザーは「情報に対する価値」を比較的理解している人たちが多く、また競合となるメルマガ他誌の存在もそんなに多くはなかった。また最も重要なことは「メルマガを熱心に読む習慣」が当時は強かった。

現在は迷惑メール増加の影響もあり、各ユーザーがメルマガ1誌を読むために費やす時間は4年前よりも遙かに減少している。また初心者ユーザーの中では「メルマガは無料」という常識が出来上がりつつあることを考慮すると、「無料メルマガと有料メルマガの違いは何なのか」を発行者側が明確にして、囲い込むべき有料読者層にアピールできることが大切なのだろう。

なお、ネット普及率とユーザー層の変化の特徴は下記の記事を参考にしてもらいたい。

■JNEWS LETTER関連情報
 2000.10.11 ネット市場拡大に連動した客層変化の法則と絞り込み方

メルマガ購読料を支払う財布の種類

「たかだか数百円の購読料だから気軽にメルマガ購読してくれるだろう」という考え方は危険だ。JNEWS が多くの読者達とメール交換する中で気付いた傾向としては下記の2種類がある。

< パソコン関連は一つの財布 >

メルマガ読者の大半を占める一般ユーザーの場合、メルマガ購読料は“パソコン関連”という一括りで費用を捻出している傾向が強い。ネットユーザーになるまでには、10万~20万円するパソコンを購入する他にも、TAやルーター、ISDNや最近ならADSL回線の導入費用、月々の通信料などがかかる。その上で有料メルマガへの購読料を支払う余裕があるかどうか、という検討をしているようだ。

また、携帯電話にかかる費用は、「パソコン関連」ではなく「電話代」という別の財布から捻出される。iモードなどの有料情報サービス料も「電話代の一部」という扱いになるが、通話料金自体かなり高いことが、月々数百円程度の有料情報を割安だと感じさせる不思議な現象が起きている。

< 会社の財布から支払う >

有料情報の中でも、ビジネス系に関しては会社の経費で購入するビジネスマンも多い。特にJNEWSではその傾向が顕著で、全購読者の中で少なくとも 30%程度は会社経理部からの支払いによるものだ。その場合には、企業が支払いやすい決済手段を用意しておくことが大切になる。

収益の多様化が必要になるメルマガ運営

メールマガジンを有料化するにあたっては「趣味の延長として小遣い程度が稼げればよい」という場合と、「本業として本格的なビジネス展開をしていきたい」という2種類の考え方があるが、後者を目指すのであれば一般読者からの購読料のみによる事業展開ではかなり心細い。自分たちが作り上げたコンテンツが幅広いチャンネルで収益を生み出す仕組みを作らないと“メルマガ企業”としては存続できないだろう。

JNEWSでは有料化から4年間で複数の収益源を開拓してきた。読者購読料の他には「メルマガの書籍化」「新聞・雑誌社への記事供給」「ビジネス系他サイトへの記事供給」「企業イントラネットへのバックナンバーの供給」などが、二次的な収益源として徐々に育ってきている段階だ。

デジタル、アナログという枠に関係なくコンテンツビジネスを事業として成功させるための秘訣は、自分たちが作り上げたコンテンツに対する「版権」や「ライセンス」をいかに幅広いチャンネルで収益化するか、にかかっているような気がする。おそらくこの辺りのキモは、映画でも音楽でも小説でもメルマガでも本質は同じであるはずだ。

メールマガジンという新しいコンテンツビジネスに定着した成功ノウハウは未だない。それをゼロから作り上げることは厳しいことではあるが、ハードを作ることとはまた違った“物作り”の楽しさがある。顧客側の支持を受けながら“オリジナル”を作り続けることができれば、その時代のインフラに適応した収益モデルの道が自然と見つかるものなのかもしれない。

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