大手飲食チェーンの経営は、材料費+人件費にかかるコストと、従業員一人あたりの売上高のバランスによって採算状況が把握されている。しかし、食材と人件費の高騰により、従来の経営スタイルでは飲食ビジネスの限界があり、新たな経営モデルの開発が求められている。 (JNEWSについてトップページ
FLと人時売上高を基準に組み立てる飲食ビジネスの限界点

JNEWS
JNEWS会員配信日 2014/9/22

 日本の接客サービスは世界最高水準といって過言ではない。どんな店に行っても、店員の対応で不快になることは少なく、気持ちの良い接客をしてもらえるが、それらの労働現場は、平均時給が800~900円前後のアルバイト、パート人材によって支えられている。

国内の就労状況をみると、企業に雇われている従業員の内訳は、正社員が6割、非正社員が4割という構成だが、接客サービスを担当する職種ほど非正社員率は高くなり、飲食業では8割以上の従業員がアルバイト、パート人材である。それを一部の正社員が管理する役割(店長など)として、店舗が運営されている。

《主な産業別にみた非正社員の割合》

飲食業では、売上高に対して、食材の原価と人件費の合計が60%を超すと利益が出しにくくなると言われている。そのため、料理にコストをかければ、人件費はできるだけ抑える必要があり、パートタイムの人材を主な労力として活用していかないと、店を回していくことができない事情がある。

《飲食店の平均的な経営指標》

国内の外食市場は、1998年頃をピークにジリジリと客数を減らしている状況にあり、それを補うには、できるだけ安いメニューを揃える一方で、営業時間は長くすることで、売上の減少を抑えなくてはいけない。そのしわ寄せは、従業員が被ることとなり、“ブラック”と呼ばれる企業の多くは、飲食サービス業に集中している。アルバイトに限らず、飲食企業に勤めた大学新卒者の中でも、3年以内の離職率は「51%」と、全業界の中で最も高い。

この問題は、特定企業の労働環境を是正するだけで解決できるものではなく、業界が抱えている根本的な悩みを把握した上で、改善策を打ち出していく必要がある。

これからの飲食業を取り巻く環境には、「食材の高騰」と「人材の採用難」という二重の問題があり、それを乗り越えた上でも、利益を出していけるビジネスモデルへと進化させていかなくてはいけない。

では、現在の飲食ビジネスがどんな採算構造の上に成り立っているのかを理解した上で、どんな新業態を開発することが有望なのかを考えてみたい。

【人時売上高を基準にした飲食店経営の限界】

 飲食店の良し悪しは、料理の内容と接客サービスによって決まるため、売上高に対して、食材原価(Food)と人件費(Labor)の割合を示す「FLコスト」という指標が使われて、FとLの合計を60%前後に収めることが、健全経営の条件と言われている。その点を踏まえて、大手飲食チェーンのFLコストを集計したものが以下の表である。

FLコスト=食材原価率+人件費率

《大手飲食チェーンのFLコストと営業利益》

飲食店の中でも、客単価やサービスの形態によって採算状況は違ってくるが、苛酷な労働状況から、アルバイト人材の大量離脱に陥っているゼンショー(すき家)では、低い客単価と24時間営業の中、人件費率を切り下げることによって、ギリギリの利益を出してきた。

同社が、売上高と人件費のバランスとして重視してきたものに「労時売上」という指標がある。これは、各店舗の時間あたり売上高から逆算して、赤字にならない従業員数を時間帯別に配置する考え方で、店員一人あたりの労時売上は5千円以上に設定されている。

たとえば、1時間あたりの売上が2万円の時間帯は4人のスタッフで店を回すが、売上1万円の時間帯にはスタッフを2人に減らす。さらに、売上が減る深夜の時間帯になれば、アルバイト1人で店を運営する「ワンオペ」も行われていた。しかし、その通りの人員で、実際に店を運営していくことは難しく、休憩時間のカットやサービス残業や習慣化していたことが、「すき家・労働環境改善のための調査報告書」の中でも指摘されている。

すき家・労働環境改善のための調査報告書

労時売上は、「人時(にんじ)売上高」とも言われて、すき家に限らず、他の飲食チェーンでも重視されている指標であり、「人時4~5千円」をクリアーしていかないと黒字経営をしていくことが難しい。

しかし、客単価が低い店ほど接客数は多くなるため、人時管理による店舗経営では、店員一人あたりの負担が重くなり、それが労働問題へと発展してしまうのだ。

人時売上高=1日の売上高÷(当日勤務した従業員の総労働時間)

料理の品質、価格の安さを追求しながら、接客サービスも充実させて、かつ高利益を上げようとすることには、どうしても矛盾がある。そのいずれかを、良い意味で“放棄”しても、消費者の満足度は下がらない店舗運営のスタイルを開発していくことが、今後の飲食ビジネスの課題といえるだろう。

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・オンライン化する面接方法とゲームによる若手人材の獲得法
・食材調達のカントリーリスクについて
・タコの原価率に依存したタコ焼きチェーンの採算構造
・回転寿司からみたオートメーション店舗の採算
・スモール飲食店向けスマートシステムの開発商機
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