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企業の商売敵として浮上する
“無欲な労働力”のインパクト
written in 2008/5/26

 新緑の季節となり、そろそろ自宅の庭も手入れしなくてはと思った時に依頼するのは庭師や植木業者というのが定番だが、近頃ではもっと手軽な依頼先として「シルバー人材センター」が人気になっている。これは60歳以上の人が各市町村のセンターに登録をして、役所や企業、一般家庭から発注された軽作業を個人的に請け負う人材サービスとして知られている。その歴史は30年以上になるが、最近では登録者が70万人を超えるまでになっている。

それに伴い、シルバー人材センターが対応できる仕事の内容や質も向上して、草刈りや清掃作業の他にも、企業がパソコン入力や経理事務などの仕事を依頼することもできるようになっている。企業側では、自社の費用を使って求人広告を出さなくても、必要な仕事に応じて人員を調達できる便利な人材バンクということに気付きはじめているようだ。全国シルバー人材センター事業協会が運営する「シルバーしごとネット」というサイトからは、全国で登録しているシニア人材に対して、簡単に仕事を発注することができる。

ところが、それに憤りを感じ始めているのが、同じ職種のサービスを手掛ける民間の業者達だ。もともとシルバー人材センターは非営利の団体で、公的な補助金も受けているために、そのサービスから利益を得なくてはいけないという考えが薄く、各作業の料金は民間業者の二分の一から、場合によっては三分の一程度の安さに設定されている。作業者がアマチュアかプロかの違いはあるものの、「簡単な作業なら料金が安いほうを選ぶ」という利用者が多いのも事実で、同じ地域で「この仕事ならシルバー人材センターに頼んだほうが安いよ」という口コミが立ちはじめると、民間業者の死活問題に関わってくる。

これはシルバー人材センターだけに限った話ではなくて、現役を引退したシニア層の安い(または無償の)労働力が、民間ビジネスの商圏を脅かしはじめているのだ。高齢者の労働力がなぜ脅威なのかというと、彼らは既に子育てを終えて生活費の負担が少なくなっていることに加えて、退職金や年金によって経済的には現役世代よりも余裕がある人達だ。そのため、まだ元気だから働けるといっても、月に何十万以上は絶対に稼がなくてはいけないという切迫感がなく、それよりも生き甲斐や健康維持、または社会貢献のために自分のペースで仕事がしたいという、ある意味“無欲な労働力”であるためだ。

これからのシルバー労働力には団塊の世代も含まれてくるため、その人口は1千万人を超えると言われている。そのため、彼らが現役世代よりも安価な報酬で労働力を提供すると、従来の労働市場が崩れてしまう懸念さえある。現実に欧米ではシニアのボランティア活動が活発になっているが、これが民間業者のビジネスと競合したり、若者の雇用機会を減らすという新たな社会問題を引き起こしている。

一方、シニアの労働力を“魅力的な戦力”として捉える企業も出始めている。体力勝負の仕事では若手にかなわないとしても、仕事についての専門的な知識、経験、人脈などは年長者のほうが優っている部分が多い。米国ではシニア専門のヘッドハンティング会社も登場していきていて、優秀な高齢者の能力活用が新たな人材ビジネスとしても注目されてきている。
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この記事の核となる項目
 ●シニア労働力のインパクトと市場規模
 ●シルバー人材センターが労働市場に与える影響力
 ●優秀なシルバー人材を非常勤で獲得するシニア顧問の仕組み
 ●優れたシニア人材の新しい働き方
 ●顧問契約による高度シニア人材の収益モデル
 ●定年退職後にシニア顧問としてデビューするための方法
 ●米国NPOの事業化に習う、社会貢献と実益を兼ねた働き方
 ●非営利団体へ流れるシニア労働力の影響
 ●次第に変化する労働力の種類と価値について
 ●最大の退職者団体AARPに学ぶ団体運営ビジネスの急所
 ●若年の起業とは異なるシニア起業の事業モデルと収益プラン
 ●世の中に貢献する社会起業家の使命と、それぞれの収益構造


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JNEWS LETTER 2008.5.26
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