手堅く稼ぐことが魅力の日銭商売に適した飲食店経営の形
成功する商売の考え方は経営者によって様々だが「大きく稼ぐことよりも失敗した時のリスクが少ない商売を志す」という考え方には一理ある。バブルの時代にはハイリスクでハイリターンを狙おうとする商売が体勢を占めていたが、その後は銀行の貸し渋りなどもあって、まず「ローリスクであること」が評価される時代へと変化している。
昔から「日銭商売は手堅い」とよく言われているが、その理由には奥深いものがある。毎日少額ずつでも現金が着実に入ってくる商売であれば、好不況の波にも対応しやすく“大損”をすることは少ない。銀行が日銭商売を診断する際には、取引先(顧客)からは現金で代金を回収するため、商品の仕入れ先などにも現金払いができて買入債務が貯まりにくい点を評価する。また口座に日々の現金売上が入金されていれば、その推移で業績が把握できるために信用力が高まる。そのためレジの中に貯まった売上現金は週に1回のペースで銀行に入金するよりも、夜間金庫などを利用して、毎日のペースで銀行口座に入金した方が、銀行からの評価は高くなる。
「日銭商売」として代表的なものとしては飲食店経営がある。一日の売上は席数によって限界があるものの、毎日の売上が現金によって入ってくるため売掛債務を抱えるリスクは少なく、人気のある店ならば着実に稼いでいくことが可能だ。
そのため脱サラ・独立して飲食店経営をはじめようとする人も多いが、最も開業希望が多いのはラーメン・うどん・そば、など麺類の専門店といわれる。
【採算面からみる麺類店の経営】
テレビ番組でもラーメン店特集が頻繁に組まれているように、ラーメンは日本人に古くから親しまれ人気がある食材である。そのためラーメン店経営を志す脱サラ組みは多い。もちろんこれらの人すべてが成功できるわけではないが、飲食店経営の中では、麺類店が他の分野よりも素人が参戦しやすいのは事実である。
麺類を主とした店では、原価率が安くて食材のロス率が小さいのが特徴。フランス料理店のように高級感を演出する必要はないため店舗に対する投資は最小限で済み、顧客の滞留時間(飲食時間)は短い。人気店になれば限られた席数を高回転させることが可能。また調理技術についても熟練した職人が何人も必要になるわけではないので、店主の他にはアルバイトを使うことで人件費を抑えられる。
ラーメンの原価率は、麺1食分が数十円程度とかなり安い。これに熟成されたスープやチャーシューやメンマなどトッピングされる食材のコストが上乗せされていくわけだが、1食あたり600~800円程度で売り、粗利益率は60~70%になるように設定している店が多い。
近頃では「100円うどん」のチェーン店も人気を集めているが、これは“かけうどん”の価格を 100円として割安感を打ち出し、そこにセルフサービス方式で“天ぷら”や“おにぎり”などの副食を自由に選べる形にして、最終的な客単価が400円以上になるような設定をしているところに商売のツボがある。
麺類店の経営というのは、美味しい麺を出せる日々の研究を怠らずに、堅実な商売をしていけば、それほどのリスクを抱えることはない。ただし経営を悪化させる要因として大きいのは、必要以上に立派な店舗を作ってしまったり、多店舗展開を目指すことによる資金繰りの悪化だ。飲食店では“店舗”というハードに金をかけすぎてしまうと、資金不足によって“食材の質を落として原価率を下げる”といった禁じ手に手を出して常連客からの信用までも失ってしまうことがよくある。
日銭商売としての飲食店経営の利点を十分に活かすためには、店舗に金をかけなくとも顧客を呼び込めるだけの付加価値を持つことが大切になる。
【隠れ家的な完全予約店の採算性】
最近では食通達の間で「看板を出さない店」が秘かな人気となっている。グルメ雑誌に大々的に取り上げられたような人気店には週末毎に“にわかファン”が多く訪れて混雑するために、落ち着いて美味しい食事を楽しめなくなってしまったと嘆く常連客は多い。
そこで「完全予約制で一日に三組限定」といった、看板も出していないような隠れ家的な店が秘かな人気となっている。このような店は、腕利きの料理人が自宅の一部を改装して“店舗”としているようなケースが多いのだが、限定された顧客に対して、上質の素材に手間をかけた料理と丁寧な接客がされるため、従来の飲食店舗よりもランクの高い満足が得られると評判が良い。もちろん広告宣伝なども一切せずに、口コミのみで数ヶ月先まで予約が埋まっていく。
このような「完全予約性で看板を出さない店」というのは、大きく稼ぐことはできないが、大きな店舗を作るような資金調達の必要がなく、予約客のみを扱うために仕入れる食材にロスが生じないのが大きな利点。しかも顧客はほとんどが現金払いであるために日銭の入る商売である。これを経営的な視点で見ても、最もリスクが小さく採算効率の良い飲食店経営といえる。
従来の発想なら「立派な店がなければ飲食店として商売できない」という考えが体勢を占めていたが、グルメブームが成熟してきたことで、店舗は小さく粗末でも“一見さんお断り”という常連客を大切にする飲食店を評価する風潮が高まってきた。腕に自信のある料理人であれば店舗にこだわることなく、包丁一本で日銭を稼ぐのが、他の人には真似のできない醍醐味になる。
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■この記事の完全レポート
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