JNEWS会員配信日 1999.4.9
経営者にしてみれば有能な社員には魅力的な報酬を支払いたい。しかし一旦、固定給を上げてしまうと業績が悪化しても給料は下げにくく、これが企業体力を落とすことにつながる。年俸制による給与体系でも社員の生活を安定させる意味で金額の変動幅は決められているために大胆な給与額の操作は難しい。
そこで企業にとってリスクが少なく、従業員をやる気にさせる報酬体系の一つとして「インセンティブ・ボーナス」という手法に注目してみたい。企業が支払う人件費の総額は同じでも、社員の動機付けとしては画期的な効果をもたらす。
インセンティブ・ボーナスの仕組み
通常の給与体系は「月給×12ヶ月+賞与2回」で算出される。日本企業の賞与(ボーナス)は夏冬に当然支払われるべきものとして年収の中に組み込まれているが、本来の賞与は業績や各社員の成績に連動して変化させていくべきもの。その性質を社員の生活に影響がない程度に少しだけ利用して、優秀な社員と、そうでない社員の年収に差をつけさせるのがインセンティブ・ボーナスである。
ある企業では今年 30歳になる同期社員が 10名在職していて、彼等の年収は680 万円である。年齢が若く役職がないために年収はみな同じだ。しかしこれでは同期社員間の競争心が沸かないためにボーナスの中にインセンティブ的要素を組み込む。
従来の年収 680万円の算出法は、
○月給 -------------------> 40万円×12ヶ月 =4,800,000円
○賞与(夏・冬) ---------> 40万円×5ヶ月分=2,000,000円
------------------------------
合計 6,800,000円
※企業側の人件費負担総額は 6,800,000円×10名= 6800万円
(賞与=月給の5ヶ月分支給の場合)
となるが、この中の賞与の 60%(120万円)を安定支給額として約束し、残りの賞与 40%(80万円)を成績によって変動するインセンティブ・ボーナスの原資
とする。同期社員10名から原資を調達するためにインセンティブ・ボーナスの資金は800万円(80万円×10名)蓄積されることになる。この800万円を同期社員10名で実績に応じて争奪していくしていくのだ。すると10名の中では下記のような年収格差が生じる。
<同期社員Aの年収>
月給40万円×12ヶ月+固定賞与120万円+変動賞与200万円=800万円
<同期社員Bの年収>
月給40万円×12ヶ月+固定賞与120万円+変動賞与150万円=750万円
<同期社員Cの年収>
月給40万円×12ヶ月+固定賞与120万円+変動賞与120万円=720万円
<同期社員Dの年収>
月給40万円×12ヶ月+固定賞与120万円+変動賞与100万円=700万円
<同期社員Eの年収>
月給40万円×12ヶ月+固定賞与120万円+変動賞与 70万円=670万円
<同期社員Fの年収>
月給40万円×12ヶ月+固定賞与120万円+変動賞与 50万円=650万円
<同期社員Gの年収>
月給40万円×12ヶ月+固定賞与120万円+変動賞与 40万円=640万円
<同期社員Hの年収>
月給40万円×12ヶ月+固定賞与120万円+変動賞与 30万円=630万円
<同期社員Hの年収>
月給40万円×12ヶ月+固定賞与120万円+変動賞与 25万円=625万円
<同期社員Iの年収>
月給40万円×12ヶ月+固定賞与120万円+変動賞与 15万円=615万円
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変動賞与総額=800万円 人件費総額=6800万円
賞与全体の40%にのみインセンティブ要素を導入したのは下位の社員でも安定した生活をしてもらうための工夫。最低の成績で変動賞与額がゼロでも
600万円の年収は確保できるために生活には困らないはずだ。
その上で上位社員との間には年齢が同じでも200万円近い年収格差が生じる。
これに発憤して今まで横並び意識の高かった若手同期社員の間にも競争意識が芽生え、それが企業の業績向上に貢献するわけだ。今年の成績が悪くて年収
615万円だった社員も、来年がんばれば800万円、いやそれ以上の年収に高めることも
この制度の中なら不可能ではない。
企業経営の視点から見ても人件費総額はインセンティブ制導入の前と後共に同額の 6800万円で一定しており、新制度導入における資金面のリスクはない。
年俸制導入の失敗事例はJリーグに見られるように人件費が高騰しすぎた後の、業績悪化の際に人件費を下げられずに、企業体力を急降下させるところに原因があるが、インセンティブ・ボーナスではそれを回避できる。
「よく働いてくれる社員」と「働かない社員」が同じ年収の場合には「よく働いてくれる社員」側が、やる気を失って会社を去っていくケースが多い。その解決策として、賃金体系の中にインセンティブ・ボーナスを導入するには、経営者と社員との間でじっくりと話し合って仕組みを更に煮詰める必要があるが、実力主義でいきたいベ会社の賃金体系として、一定の効果がある。
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