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企業取引で失敗しない代金回収の鉄則
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written in 1999.1.8
世の中全体が不景気になると自分の会社の売上が順調でも取引先の巻き添えを食って経営を悪化させていくケースが目立ち始める。特にこれは企業間取引を主体としている業界に当てはまる症状だ。
原因は売上代金の回収システムにあることは明白。企業間取引は個人を対象とした商売に比べて売上金額が大きいが、代金回収方法が「現金」でなく「掛け売り」になることが多いため、すぐに販売代金を回収することができずに販売元の資金繰りを悪化させていくのだ。不景気がまん延すれば、取引先の支払いサイトは徐々に長期化していくため同一業界全体の企業が同じように経営を悪化させていく。この様な状況を防ぐためには「掛け売り」ではなく「現金回収」のできる商売、業界を手掛けることが一番だ。
掛け売りと現金決済の差
同じ売上高があっても掛け売りと現金決済とでは経営面で大きな差が生じる。現金回収の場合には入ってきた資金をすぐに新たな仕入資金として回転させることができるため、自己資金の範囲で新たな利益を生み出すことが可能。
しかし掛け売りならば商品を販売した直後の手持ち現金が無いため、新たな商品を仕入れるための資金は借入で調達しなければならない。長い年月かけてこれが積み重なると現金決済企業と掛け売り企業とでは経営体質に大きな差が生じることになるのだ。
また掛け売りには「貸し倒れリスク」が常に存在する。入金されて当たり前の資金が回収できなければ、入金予定をアテにしていた借入金返済も焦げ付いてしまう。仮に今月入金予定の売掛金100万円が支払われずに来月入金へとずれ込んだ場合、粗利益25%の商売をしているなら、新たに400万円の売上を確保しなければ未入金分をカバーすることができない。(400万円×25%=100万円)
これは現金決済ならしなくても済む苦労である。
掛け売りの種類と押さえどころ
「現金決済が一番」とはいうものの、企業間で大口現金決済がおこなわれているのは非常に希なケースである。ソフトハウスがクライアントから発注された顧客管理プログラム作成し、納品しても、実際にクライアントから代金の入金があるのは数ヶ月先になる。この場合、「納品→入金」までの期間が「掛け売り」になるわけだが、その際の決済手段としては「売掛金」と「手形」の2種類がある。
<売掛金について>
「○月○日までに代金を指定口座にお支払いします」というクライアントからの約束をもらって入金日到来を待つのが「売掛金」である。この支払い期日の約束は口頭の場合もあるし文書で交付される場合もある。
しかし約束が守られずに期日を過ぎても入金がない場合には大変厄介な問題になる。どうしても早く支払ってもらいたければ、法的な手続きをとる必要があるが、現実問題として「法的手続きにはかなりの時間と費用ががかかること」「クライアント側とのその後の信頼関係」の点から難しい。どうしても掛け売りした側が不利な立場になる。
<手形について>
「○月○日に○○万円をお支払いします」という約束を、極めて信頼性の高い有価証券という形で受け取るのが「手形」だ。つまり手形は有価証券として通用している。
手形振り出し企業が支払期日に指定金額を決済しなければ、それは「倒産」を意味する。よってクライアントから手形を受け取れば、先方が倒産しない限り入金は保証されたことになる。
また手形は有価証券であるために他人への譲渡が認められている。例えばA社がB社から販売代金として100万円の手形を受け取った後、A社がC社から100万円の商品仕入をおこない、その仕入代金としてC社に対して100万円をB社の手形で支払うことも法的には可能だ。
[A社]←─────[B社] [C社]
│ 手形決済 ↑│
│ ││
│ ││
└──────────────────┘│
B社の手形で決済 │
│
↓
[手形期日に銀行で現金化]
※ただしA社からC社への決済手段としてB社の手形を使うことは平常時には少なく、緊急時の特別手段として考えておきたい。
受け取った手形の最も一般的な融通方法は、金融機関で割り引いてもらう「手形割引」である。手形は支払期日にならなければ現金化できないが、銀行で手形割引を申し込めば支払期日前でも「額面の98%、95%」と額面よりも割り引かれた金額で現金化してもらえるのだ。98%なのか、95%なのか、93%なのか、という割引率は手形振出企業の信用力により変動し、大企業の手形ほど好条件で現金化してもらえる。その他、手形を担保にして銀行から借入を起こすことも可能だ。
同じ「掛け売り」でも売掛金と手形ではこれだけの差がある。企業間取引間での代金受取方法の優先順位は「現金回収→手形→売掛金」という鉄則を覚えておきたい。
注意事項
上記の説明は取引先から代金を支払ってもらうケースについての話だが、自分(自社)が代金を支払う場合に自社の手形を振り出すのにはリスクが付きまとう。前述のように手形は法的には有価証券であるため、一旦、自分の手から放れてしまえば、知らないところで第3者に譲渡され、流通していくことも考えられる。万が一、悪徳業者の手に渡って不正取引に利用されれば手形振出人である自分の会社の信用はガタ落ちしてしまう。できることなら「手形による支払い」には手を出さないほうが無難だ。
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これは正式会員向けJNEWS LETTER 1999年1月8日号に掲載された記事のサンプルです。 JNEWSでは、電子メールを媒体としたニューズレター(JNEWS LETTER)での有料(個人:月額500円、法人:月額1名300円)による情報提供をメインの活動としています。JNEWSが発信する情報を深く知りたい人のために2週間の無料お試し登録を用意していますので下のフォームからお申し込みください。
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