起業家になるためのノウハウ集

     
資金繰りは企業にとって血液循環の役割を果たす。そのため売上の上昇ペースが速い成長企業ほど資金繰りは悪化して「金詰まり」の状態を引き起こす。そのメカニズムについて解説。
成長企業ほど悪化する資金繰りのメカニズム
wrtten in 1998.12.1

 企業経営を成功させる要素は「ヒト・モノ・カネ」にあると言われている。経営者を中心として優秀な人材がいなければ会社は育たないし、他社にない優れた商品(モノ)がなければ売上を上昇させることができないのは明らかだ。もちろんカネについても創業資金運転資金設備投資がなければ始まらない。

 この3要素の中でベンチャー起業家の多くはヒトとモノに関しての知識や先見性については優れている。しかしカネ(資金繰り)については「先を読む」というよりは「成り行きに任せている」傾向が強い。起業家の多くは技術、アイディア、夢から事業をスタートさせるために、これらを潤滑に流すための資金調達に関しては「問題が生じてから対処する」という事後処理的なケースが多いのだ。

 そのため資金繰りは銀行の言われるままに行動するが、銀行側が貸し渋りを始めれば、その対抗策を独力で見つけることができずに倒産まで追い込まれている事例も最近では少なくない。

 経営者が資金繰りを悪化させる前段階に陥るのが「売上が伸びれば資金繰りは楽になるだろう」という判断ミス。現実はその逆で、ほとんどの企業は売上が上昇するほどに資金繰りを悪化させていく。このメカニズムを理解しておくことは起業家にとって重要だ。


資金繰りのメカニズム

 個人の金銭感覚として考えるなら「今は財布の中に現金がないが、2週間後の給料日を見込んで、その前にクレジットカードで買い物をする」というのが企業の資金循環に似ている。「収入はすべて現金でもらい、支払いもすべて現金で済ます」ことが出来ていれば手元にある現金残高さえ見ていれば何も難しい資金繰りはないが、現実の商売ではそう簡単にはいかない。

<事例研究・小売業(衣料品)の場合>
 冬物の商品を販売するためには冬になる前の9月頃から仕入に取りかからなければならない。他店よりも良い商品を揃えるためにはなるべく早い時期からの仕入が重要だ。しかし実際に仕入れた商品が店頭でほとんど売れて現金収入になるのは年を越した1月末か2月あたりになる。

98/9 ┬ <-------冬物衣料の仕入
   │
   │
   │
   │
98/12┼ <-------仕入商品の支払い期限     ┐
   │                    │
   │                    │←[資金循環のズレ]
   │                    │
   │                    │
99/3 ┴ <-------商品販売代金からの現金回収完了┘

 健全な資金循環を保つためにはメーカー・問屋へ支払う仕入代金を商品が売れた後の販売代金で支払う必要があるが、現実的にそれは難しい。そこで商品の仕入代金に関しては販売代金以外の資金を使わなければならない。

 開業当初で1回の仕入額が小さな段階は自己資金のみで仕入代金を支払うことが可能だが、売上が上昇することで仕入数量も大きくなるために1回の仕入金額も数百万円から数千万円単位へと上昇する。さすがにこの規模になると自己資金での現金支払いは難しいために銀行からの借入による資金調達をすることになる。これが一般的に言う「運転資金」というものだ。

 この様な資金循環のズレは小売業に限らずあらゆる業界で存在している。メーカーや問屋では小売店に対して商品を卸すが、その代金回収は商品発送から3ヶ月後、6ヶ月後になり、その間は売上として数字は計上されるが実際には現金入金のない「売掛金」の状態が続く。これが「売上は伸びているけれど現金が常に不足している」原因だ。


資金繰り悪化の原因

 資金繰りを悪化させないためには自己資金の範囲で現金仕入をおこない、顧客からも現金で代金を回収することだが、現実の商売ではこれがなかなかスムーズに流れない。資金繰りの階段を一段踏み外すだけでも、その後の資金循環は大きく流れが変わることも年商1億円以上の企業になると珍しくない。その原因としては以下のような項目が定番だ。

<資金繰りを悪化させる原因>
◎売上上昇軌道から売上下落へと変化した。
◎商品在庫が過大になった。(大量返品等)
◎売掛金が増加した。
◎新たな設備投資をした。
◎取引先が倒産、経営不振に陥った。
◎取引先の支払サイトが長期化した。
◎納税金額が過大になった。(税金は現金払いが原則)
◎人件費が高すぎる。

 資金繰りの問題を考える場合にポイントとなるのが売掛金の管理である。売掛金とは商品の納品は済んだがまだ支払われていない売上金のこと、つまり営業上の未収金を意味する。

 特に企業相手の商売では現金決済ではなく1ヶ月分の請求書を送って、その翌月の支払日に指定口座に代金が振り込まれるというのが一般的。この場合、商品納入から実際の入金日までが売掛期間となる。

<事例:A社がB社へ商品販売した場合>

  10/10           10/30           11/30
   ├────────────┼────────────┤
  商品納入        請求書確認        指定口座入金
  (A社)        (B社)        (B社→A社)

    <--------------------売掛期間---------------------->

※10月分の請求額は翌月の末日に支払われる約束の場合

 10/10〜11/30までの期間はA社がB社に対する売掛金を抱えることになるが、この場合に支払いサイトは40日間ということになる。支払いサイトは同一の取引先であれば同間隔であるはずだが、最近の不況下では少しずつ長期化していく傾向にある。40日だった支払いサイトが60日に延びればA社の資金繰りは20日分悪化してしまうのだ。

 取引規模が小さく数万円〜数十万円の売掛金ならA社にとっても20日の支払いサイト延長はそれほどのダメージを受けないが、取引が成長して月額数千万円規模にまで拡大すればそうはいかない。これだけの取引をA社が遂行するためには従業員の増員や設備投資もおこなっており、それらに対する支払いは毎月定期的に訪れる。サイト延長された20日分のA社側の支払い資金は新たな借入によって調達する必要が生じるわけだ。

 そこに追い打ちをかけるように銀行の貸し渋りがある。これでは数ヶ月前まで順調に資金が回っていた企業でもアッという間に資金繰りが悪化して倒産の危機に追い込まれてしまうのも理解できる。企業経営にとって資金とは人間の血液循環に等しく、資金の流れに不整脈が起こったり循環が止まってしまえば、それは重大な危機を意味する。 (起業家の成功法則へ


これは正式会員向けJNEWS LETTER 1998年12月1日号に掲載された記事のサンプルです。 JNEWSでは、電子メールを媒体としたニューズレター(JNEWS LETTER)での有料(個人:月額500円、法人:月額1名300円)による情報提供をメインの活動としています。JNEWSが発信する情報を深く知りたい人のために2週間の無料お試し登録を用意していますので下のフォームからお申し込みください。
 
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