起業家になるためのノウハウ集

     
数字が教えてくれる不況に対する企業の抵抗力
wrtten in 1998.11.28

 不況の時代でも銀行は融資を実行しなければならない。5、10年先の各業界動向を予測して各融資案件が有望であるかどうかを基準に審査することが理想ではあるが、銀行員は各業界の専門家ではないために融資依頼企業が展開しようとする事業の将来性などは予測することができない。

 それでは何を基準に融資審査の合否を決定しているのかといえば「潰れやすい会社か」「潰れにくい会社か」という視点だ(所有不動産による担保能力は除いて)。売上も順調に拡大して成功しているように見えても、何故か銀行融資を受けにくい企業というのはたくさん存在している。これは銀行が「潰れやすい会社である」と判断しているためで、この体質を抱えたままいくら売上を伸ばしても銀行には認めてもらえない。

 銀行員は融資申込時に提出してもらう決算書または事業計画書から「潰れやすい、潰れにくい」を判断する。決して先進的な事業の有望度からではない。ここにベンチャー企業は注意してもらいたい。


数値で表す企業の抵抗力

 一言で潰れやすい会社の特徴を説明するならば、「利益率の低い会社」ということになる。素人目では売上額が大きければ企業体力があるように考えがちだが、売上高と仕入れ等の資金需要は連動しているために、売上が大きくなるほど資金繰りは厳しくなるのが一般的。特に人件費、家賃等の固定費は規模が大きくなった企業にとっては重い足かせとなる。

 売上が順調に上向いている時は良いが、世の中が不況で売上が下降傾向になれば利益率の低い会社は数ヶ月分の固定費を捻出していくだけの体力がないためにアッという間に経営悪化→倒産への道をたどることになるのだ。

 この利益率の高低による企業の抵抗力を銀行員達は損益分岐点による分析で数値化して優劣の判断をしていることが多い。この指標を損益分岐点比率という。


損益分岐点比率による分析法

 JNEWS LETTER 98.11.21にて解説した損益分岐点の算出法さえ理解していれば損益分岐点比率は下記の公式で簡単に求めることができる。

  ┌─────────────────────────┐
  │             損益分岐点       │
  │ 損益分岐点比率(%)=───────×100  │
  │              売上高        │
  └─────────────────────────┘

<試算1(A社95年度)>
 ◎月間売上高=1000万円、損益分岐点=750万円の場合

              7,500,000.
  損益分岐点比率(%)=───────×100=75%
              10,000,000.

<試算2(A社97年度)>
 ◎月間売上高=3000万円、損益分岐点=2500万円の場合

              25,000,000.
  損益分岐点比率(%)=───────×100=83%
              30,000,000.

 A社の売上は95年度に月商1000万円であったが、その後、業績を伸ばして月商3000万円にまで成長した。一見してこの推移は成功軌跡のように思えるが損益分岐点比率から分析すると75%→83%へと悪化している。つまりA社は95年度よりも97年度の方が売上変動(不況)に対する抵抗力が弱く「潰れやすい企業体質」になっているわけだ。

<損益分岐点比率が示す企業の安全度>
  ○損益分岐点比率が60%未満 ----------->とても安全
  ○損益分岐点比率が60〜70%未満 ----->安全
  ○損益分岐点比率が70〜80%未満 ----->やや安全
  ○損益分岐点比率が80〜90%未満 ----->要注意
  ○損益分岐点比率が90%以上 ----------->危険

 損益分岐点比率が低いほど企業体質が健全であることを示すが、急成長しているベンチャー企業の中には売上の急拡大によって短期間で大量の人材を新規採用したり無理な設備投資を迫られるために、創業当時に小規模な商売をしていた頃と比較すると損益分岐点比率が高まり不健全経営に陥る傾向がある。そのため短期間で急成長した企業に対しては銀行側も新規融資には慎重にならざるを得ない。

 市場シェア競争から売上拡大戦略も経営者としては大切な要素だが利益率を落としてまで売上高に執着するのはリスクが大きい。売上規模の拡大に比例して損益分岐点比率が低下していく(安全度が高まっていく)商売の仕組みを作り上げることが最高の経営ノウハウなのだ。


■JNEWS LETTER関連情報
                JNEWS LETTER 98.11.21
<起業家必修ノウハウ・損益分岐点の考え方と算出法>
https://www.jnews.com/mem/back/1998/199811/j981121.html
                JNEWS LETTER 98.11.25
<損益分岐点から導くオンラインショップの採算性分析法>
https://www.jnews.com/mem/back/1998/199811/j981125.html
※バックナンバー用ID、PASSWORDを入力してご覧ください。


これは正式会員向けJNEWS LETTER 1988年11月28日号に掲載された記事のサンプルです。 JNEWSでは、電子メールを媒体としたニューズレター(JNEWS LETTER)での有料(個人:月額500円、法人:月額1名300円)による情報提供をメインの活動としています。JNEWSが発信する情報を深く知りたい人のために2週間の無料お試し登録を用意していますので下のフォームからお申し込みください。
 
JNEWS LETTER 2週間無料体験購読
   配信先メールアドレス



Copyright(c) Japan Business News