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損益分岐点から導く オンラインショップの採算性分析法
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wrtten in 1998.11.25
JNEWS LETTER 98.11.21にて解説した損益分岐点の算出法はあらゆるビジネスでの活用が可能だ。有能な経営者は新規事業や新製品を見つける度に損益分岐点をはじき出し、どれだけの売上を獲得すれば黒字化できるのかを的確に把握している。「数字に裏付けされた決断」が習慣化しているのだ。
この損益分岐点による売上分析をわかりやすい事例としてインターネット上のオンラインショップ(Webショップ)運営ににあてはめながら解説してみよう。
損益分岐点の算出法(前回の復習)
○売上額=利益+固定費+変動費
┌─損益分岐点の算出公式《重要》─────┐
│ │
│ 固定費 │
│ [損益分岐点]= ───────── │
│ 変動費 │
│ 1− ───── │
│ 売上高 │
└────────────────────┘
※固定費・・・売上高の変動に関係なく毎月支払う費用(人件費、家賃等)
※変動費・・・売上高の増減に比例して変動する費用(仕入原価、送料等)
大切な変動費率の把握
損益分岐点を簡単かつ即座に把握するためには自分の商売の変動費率を常に頭に入れていることである。変動費率とは売上高に占める変動費の割合で損益分岐点公式の中では下記の部分に該当する。
変動費
───── <------変動費率
売上高
変動費は売上高の増減に比例しているために、変動費率は売上が少額の時点でも高額になった時点でも一定比率を保つと考えるとわかりやすい。あるオンラインショップの変動費率を求めてみよう。
┌─・月間売上額 -------->100万円
│
│ <主な変動費>
│┌・仕入原価 ------------>55万円
├┤・送料+料金受取手数料+梱包料---->1注文あたり約500円
│└ (平均客単価5000円なら月間200件×500円=10万円)
│ │
│ ↓
│ 月額変動費の合計(概算)=65万円
│
│ 650,000.
└─→◎変動費率= ────── = 0.65
1,000,000.
変動費を決定する大きな要素は仕入原価だ。同じ販売単価、売上高でも仕入値が高いのと安いのとでは商売の収益性が大きく異なる。変動費率が低いほど儲かり、高くなるほど利幅が小さくなることを理解しておきたい。
オンラインショップの固定費とは
インターネット通販事業の魅力は「店舗を持たなくてよい」「少人数で運営できる」といった点にあるが、これらはすべて固定費削減メリットである。一般的なオンラインショップ運営に必要な月額固定費としては1名分の人件費以外では数万円程度。
・人件費(1名分) -------->35万円
・電話通信費 -------->1万円
・プロバイダー、サーバーレンタル費用-------->1万円
│
↓
月額固定費の合計(概算)=37万円
※人件費として1名分を計上したがこれはWebマスター自身の人件費である。
オンラインショップの損益分岐点
上記のように変動費率、固定費が決定すれば公式から簡単に損益分岐点を求めることができる。
<変動費率 0.65 の場合(平均粗利益45%程度)>
370,000.
損益分岐点= ────── = 1,057,142.
1 − 0.65
この計算からオンラインショップが1名の運営体制で黒字化させるためには月額 1,057,142円の売上を達成しなければらならないことがわかる。この数字は100万円の売上に対して仕入原価55万円、つまり粗利益率を45%に設定して算出してあるが、価格競争が激化している商品なら粗利益率が30%未満となることも珍しくなく、その場合の変動費率は上昇し損益分岐点も高くなる。
<変動費率 0.8 の場合(平均粗利益率30〜35%程度)>
370,000.
損益分岐点= ────── = 1,850,000.
1 − 0.8
オンラインショップ運営に必要な固定費に変化ががなくても仕入原価を中心とした変動費が 0.65 から 0.8 へ上昇することで損益分岐点は約105万円から185万円へと跳ね上がる。それだけ粗利益率設定は商売にとって重要な要素であることを肝に銘じておきたい。
そのため最初に販売商品を選定する際には、なるべく粗利益が高い商品にしなければならない。既に火が付いている、この時点での人気商品に手を出しても好条件での仕入は難しいために粗利益は低くなる。未だ人気に火が付いていないが有望性が高い商品を早い段階で確保することが粗利益率の高い物販をするためには不可欠だ。
また販売当初は好条件で仕入れられたとしても為替相場の変動や競合者の出現によって、次第に利益率が下がっていくことも商売の世界では珍しくない。その際には粗利益率が低下することで損益分岐点が何円上昇するのかを的確に数字で把握しておくことがオンラインショップ運営には大切なノウハウとなる。
損益分岐点と目標アクセス数の関係
黒字化を達成するためには損益分岐点を上回るだけの売上を確保しなければならないが、そのためのオンラインショップの具体的な努力項目となるのが「注文率」と「アクセス数」である。損益分岐点さえ決定すればこれらの数値も簡単に算出することが可能。
月間の損益分岐点を、商品設定から予測できる平均客単価でわり算することで月間注文件数の目標値が定まる。
●目標注文件数=損益分岐点÷平均客単価
<試算1>
1,057,142(損益分岐点) ÷ 5,000(平均客単価) = 211.4件(月間注文件数)
<試算2>
1,057,142(損益分岐点) ÷ 15,000(平均客単価) = 70.5件(月間注文件数)
1注文あたりの平均客単価が 5,000円なら月あたり約211注文が必要だが客単価15,000円なら約70注文で損益分岐点をクリアーする。注文件数はアクセス数と深い相関関係があるため、無謀な注文件数の目標を立てても達成されることはない。
最終的な目標アクセス数は「目標注文件数÷注文率」の公式で算出される。注文率とはアクセ数(トップページ)に対する注文件数の比率だが、毎日コンスタントに注文が入るレベルのWebショップで約1%が平均値、「注文率が高い」といわれているショップでも3%未満であることが多い。そのため試算では「注文率=1%」を利用すれば信頼性が高い。
●目標アクセス数=目標注文件数÷注文率
<試算1>
211件÷0.01=21,100アクセス(月間)---->1日平均 約 703アクセス
<試算2>
70件÷0.01=7,000アクセス(月間)---->1日平均 約 233アクセス
現在のところ1日に700アクセスを超えるオンラインショップというのはとても希な存在。人気の高いショップでも1日300アクセスといったところだろう。それを考えれば「平均客単価=5,000円」「注文率=1%」の設定で損益分岐点をクリアーするのは難しい。客単価が高くなるような商品設定をしたほうがショップとしては利益を出しやすいことがわかるはずだ。
しかし売りたい商品の性質上、客単価を上げるのが難しい場合には注文率が上昇するように努力する以外に解決の道はない。1%の注文率を2.5%に高めれば1日約281アクセスが目標設定ラインとなり現実的に達成可能な数字に近づく。注文率を高めるための具体策としては、顧客とのメール対応の質を充実させるなどして双方向性を高めることが効果が大きい。
◎211件÷0.025=8,440アクセス(月間)---->1日平均 約 281アクセス
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LETTER 1998年11月25日号に掲載された記事のサンプルです。 JNEWSでは、電子メールを媒体としたニューズレター(JNEWS
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