牛のメタンガス排出量を減らすサプリ開発と収益モデル
温暖化ガスによるCO2削減は、牛の飼育環境にも影響が及んでいる。牛には4つの胃袋があり、その中で生育する微生物が発するメタンガスがゲップやオナラとして放出されている。その量は1頭につき1日あたり160~320リットルにもなる。メタンガスは二酸化炭素と比べて20倍以上の温暖効果があることから、牛のゲップを減らすための研究は有望なビジネステーマになっている。
具体的には、牛に与える飼料を工夫することで消化管内から発生するメタンガスを抑制する方法が模索されている。スイス気候財団からの資金提供を受けて、2018年に創業したアグリテック企業の「Mootra」は、ニンニクから抽出した活性化合物と柑橘類に含まれるフラボノイドを主成分とした、天然飼料サプリメント「Mootral Ruminant」を開発している。
このサプリメントを飼料に混ぜて12週間与えると、腸内微生物の生態系が変化して、平均30%のメタンガス抑制効果があることが、複数の研究機関で行われた実験結果から示されている。サプリメントは天然成分であるため、牛に健康被害が生じることはなく、乳牛では乳量が3~5%増加した。さらに、牛を飼育する納屋で発生するハエの数も減少するという、二次的な効果も出ている。
Mootra社の見解によると、欧州で飼育されるすべての牛(15億頭)にサプリメントを与えると、3億3000万台の自動車を削減するのと同じ、温暖化抑制の効果があると算定している。しかし、畜産農家にとってはサプリメントの購入価格が、新たな経費負担となるため、普及させていくためには、農家にとってもメタン抑制を利益に繋げられる仕組みを作る必要がある。
そこで同社は、国際民間航空機関(ICAO)とのカーボンクレジット協定を結ぶことで、サプリメントを購入した農家は、CO2排出の抑制義務を超過している航空会社に対して、メタン抑制した分のクレジットを販売することで収入が得られるスキームを構築している。これは、EVメーカーのテスラが、CO2抑制義務を果たせない他の自動車メーカーに対して、カーボンクレジットを販売することで、莫大な利益を得ているのと同じ仕組みだ。家畜のメタン抑制商品を、カーボンクレジット取引の対象とするのは世界初の試みであり、農家が温暖化抑制に取り組める仕組みとして注目されている。
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