食品物流チェーン破綻を防ぐテクノロジーとハロー効果
食品の原材料の調達から、加工工場、卸業者、小売店までの流通を複数の企業間で連携するサプライチェーンは、各業者が手持ちの在庫負担やリードタイムを小限に抑えられるメリットがある一方で、事故・自然災害・細菌汚染などでチェーンの一部に障害が生じると、物流の全体像を把握しにくいのが、デメリットになってしまう。
具体例として、2006年に米国各地で腸管出血性大腸菌(O157)による、大規模な食中毒のアウトブレイクが起きた。FDAの調査により、原因食材はホウレン草であることが判明したが、どこの農場で生産されたものかを特定するまでに、2週間以上を要したため、複数の州で流通していたホウレン草すべてが回収される事態に陥り、関連業界の全体が大損害を被ることになってしまった。
そのときの教訓から、異なる業者間で形成されるサプライチェーンの安全性を監視するシステムが開発されるようになっている。
IBMの「Food Trust」は、ブロックチェーン上に構築する食品流通の監視システムで、生産者、加工業者、運送業者、小売業などサプライチェーンの参加者が、商品の出荷番号と紐付けされた、収穫場所、出荷日時、賞味期限、輸送経路、輸送中の温度などのデータをアップロードすることができる。ブロックチェーンに記録するデータ項目は、任意で増やしていくことが可能だ。
食品の安全管理にブロックチェーンを利用する目的は、サプライチェーン上の特定企業がデータを改ざんすることを防ぎ、流通経路の一部で障害が起きた時にも、アクセス権限を与を持つすべての業者が、商品の現在地や出荷元、品質管理の状態など把握できるようにするためだ。
IBM Food Trustのシステムは、米国のウォルマートが既に導入して、1ヶ所の生産者や産地で、細菌感染など危険な商品が出荷されてしまった場合でも、該当の商品をサプライチェーンの中から迅速に発見して、店頭から撤去することを可能にしている。
■ブロックチェーンによる食品安全管理(Walmart)映像
また、フランスのスーパーチェーン「カルフール」では、Food Trustのブロックチェーン台帳を消費者にも開示することで、商品の信頼性を高めている。消費者は卵、牛乳、野菜、鶏肉などの商品パッケージ(約20品目)に表記されているQRコードをスマートフォンでスキャンすると、生産された農場、収穫日、梱包日、輸送経路など、どのような流通ルートを経て、店頭で販売されている商品なのかを把握することができる。
消費者は、特定地域の環境汚染などが報じられると、該当の地域で収穫、生産された食品は買わないように配慮する傾向が強い。一部の商品にトレーサビリティ機能が付くと、消費者は「その店で販売されている商品は安全」という包括的な評価をするようになり、店全体の売上が上昇する特性がある。これは、ハロー効果と呼ばれるもので、好感度の高い有名人が推奨する商品=良い商品と捉える心理と共通している。
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