徒歩で移動しやすい街は、環境、健康、人間関係(人との交流のしやすさ)などの面で優れて、エリート人材が定住しやすい。それが都市別の平均所得にも反映されてきており、モータリゼーションの時代からウォーカブルシティへの回帰が進んでいる(JNEWS)
エリート人材が考えるウォーカブルシティに住むことの価値

JNEWS

 先進国では、高齢者への配慮、健康対策、エコ的な観点からも、街のウォーカビリティが重視されるようになってきている。実際に、歩きやすい街(ウォーカブル・シティ)には、他地域からの転入者や、観光客も多いという経済効果が確認されている。高齢者に限らず、若者の中には、運転免許を持たない者も増えていることから、都市のウォーカビリティを向上させることが、地域経済の発展や不動産価値の向上に繋がりはじめているのだ。


※ウォーカブルシティとしてのランキングが高い Washington, D.C

米国でも、60年代、70年代にはマイカーの普及によって、都市の中心部に住んでいた人々が、郊外の庭付き一戸建てに移り住むというムーブメントがあった。
その結果、幾つかのダウンタウンと呼ばれる中心街には、貧困層やマイノリティの人々だけが残り、都市部にあった企業も、従業員の郊外化に伴いオフィスをマイカー通勤が可能な地域へ移転する動きが広がった。

しかし、数年前から中心部に人が戻ってくるムーブメントが起こり始めている。
郊外にもメインストリートを作り、歩いて移動できるダウンタウンを形成したり、寂れていた歴史的な建物を、現代の公共施設に再生する動きが出てきている。

自動車を使わずに生活できる街(ウォーカブルシティ)には、高学歴で高年収のエリート層が集まることが複数の調査から明らかになっている。その理由は、徒歩圏のインフラが整った地域で生活をしたほうが、健康、時間、お金などの面で利点が多いという、理にかなったものである。そこで、地方都市でもウォーカビリティへの投資を推進しはじめている。

《エリート層が考えるウォーカブルシティの利点》

○マイカーにかかるコスト(燃料代、駐車料等)を節約できる。
○自動車が少ないため、周囲の空気がきれいで環境が良い。
○徒歩や自転車で生活するため健康に良い。
○長時間の通勤にかかるストレスが軽減できる。
○自動車に乗らなければ飲酒ができる、人との交流がしやすい。
○徒歩圏は人口密度が高いために、周囲の小売店が潤う。

《都市のウォーカビリティと学歴、年収の関係》
 ※ウォーカビリティはオフィスと店舗へ徒歩で行ける割合を示した数値
 ※出所:Smart growth American

こうした流れの中で重要なのが、各地域の“住みやすさ”を客観的に把握するための指標で、それが不動産の相場や賃貸物件の入居率にも影響してくるようになる。

ウォーカビリティの条件でいえば、道路幅の設定、自転車専用レーンの有無、徒歩で移動できる公共施設までの距離、等々が判断の材料になるが、街の環境は日々変化しているため、それらのデータを定期的に調査してスコア化するビジネスが登場してきている。

【歩きやすさを採点するウォークスコアの仕組み】

 米国でウォーカブル・シティの仕掛け役となっているのが、「walk score(ウォークスコア」という指標で、不動産情報サイトを運営するRedfin社のインキュベート部門として設立された事業である。

都市計画の専門家や学者などによって構成される判定委員会を設立して、“歩きやすい街”の基準を作り、各地区のスコアを算定しているが、その方法には特許が取得されている。

各地点から、食料品店、学校、公園、レストラン、公共施設などへ徒歩で行けるまでのルート数や所要時間を集計してスコア化しており、徒歩5分以内が最高得点、徒歩で30分以上がかると点数が与えられない。その他に、街の人口密度や道路の仕様なども、スコアの分析対象となっている。

《ウォークスコアによる街のランク基準(100点満点)》

ウォークスコアは、各地域の不動産情報とも連携しており、同じ都市の中でもスコアの違いによって、徒歩での生活がしやすい地域と、不便な地域を判別できるようになっている。賃貸アパートや住宅購入を検討している人にとって、不慣れな地域の利便性を点数で確認できることは便利であり、物件情報へのアクセス数を増やすことにも繋がる。

同サイトでは、米国、カナダ、オーストラリアの3,000都市と、その近郊地域(1万ヶ所)でウォークスコアを採点しており、「歩きやすい都市ランキング」を毎年発表している。このランキングは他のポータルサイトやメディアでも紹介されて、不動産の相場(地価や賃料)にも影響を与えはじめている。

walk score

 Walkscore.comでは、ウォークスコアの他にも、公共交通機関の使いやすさを点数化した「トランジットスコア」、自転車の乗りやすさを点数化した「バイクスコア」も公開している。3種類のスコアには正の相関関係があり、総合的にスコアが高い地域は、職住近接で人気の高い住宅地と重なる。

《Walkscore.comのスコアメソッド》

  • ウォークスコア
    日常生活に必要な各施設へ徒歩で移動するのにかかる時間などから算定
  • トランジットスコア
    電車、地下鉄、バスの本数、最寄り駅やバス停までのルートなどから算定
  • バイクスコア
    自転車専用道路の有無、坂道の状況、自転車通勤者の割合などから算定

Walkscore.comは、営利でこのスコアビジネスを展開しており、他のサイトにもスコアを提供することで収益化している。ウォークスコア・プロフェッショナルという商品体系の中で、提供するスコアの種類や機能によって、無料コース、プレミアム(月額50ドル)、エンタープライズ(見積もり)の3種類が用意されており、観光、自治体、大学などのサイトが同スコアを導入している。

また、メインのターゲットとなる不動産業界に向けても、大手から中小の不動産業者が立ち上げるWebサイトで、物件情報にウォークスコアを紐付けできるようにしている。

《ウォークスコアの収益モデル》

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JNEWS LETTER 2015.10.14
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