量り売り」は古い時代にあった小売りの手法だが、消費者のニーズにカスタマイズした販売手法として再び注目されている。食品を無駄にしないフードロスや、容器リサイクルの観点からも、量り売りの販売手法が見直されている(JNEWSについてトップページ
量り売りへ回帰する小売ビジネスと新オーナー制度

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JNEWS会員配信日 2009/8/17
記事加筆 2021/9/4

 容器を使い捨てにしないということでは、量り売りを希望する消費者も増えている。商品の購入代金として、高価な容器代を何度も支払うよりも、持参した容器に必要な分量だけを、その都度量り売りしてもらったほうがリーズナブルでエコロジーだという発想へと回帰しているのだ。量り売りは小売店の手間がかかるため、新サービスとして導入することには抵抗感があるが、考え方によっては店の経営を立て直すキッカケにすることもできる。

もともと商品の容器には、ブランドや品質の高さを表示する役割があるが、アイテム数が増えてくると過剰な在庫が積み重なり、逆に在庫一掃の安売りで商品価値を落としてしまうデメリットがある。そこで量り売りを導入すると、店側では在庫管理の負担が軽減されて、消費者は同じ店で何度もリピート購入をするようになる。

というのも、量り売りでは商品の品質をパッケージで確かめることができないため、信頼できる店が見つかれば、継続的に利用しようとする意識が強くなるためである。日本でも昔は、味噌、醤油、酒類などを樽から量り売りするのが一般的だったが、個人商店からスーパーマーケットや量販店へと流通網が変化したことで、工場から出荷された状態で品質が一定に維持されることが要求されて、量り売りが次第に衰退していった歴史がある。つまり、品質面や衛生面の信頼性を一定に保てないことが、量り売りのデメリット、弱点であった。

しかしエコの観点や他店との差別化により、再び量り売りが見直されるようになってきた。コンビニでも手軽に酒が買えるようになった中、個人経営の酒屋では、日本酒や焼酎を樽から量り売りする新サービスに生き残りをかけている。酒屋としての目利きによる樽単位での仕入は、多品種を揃えることはできないものの、コンビニでは販売されていない“こだわりの酒”を売ることができる。こだわりの中には「味」の他にも、防腐剤や添加物を含まない「安全性」という切り口もある。

ただし酒樽の品質管理は店主の責任によって行なわれ、売れ足によっても風味が劣化する早さは異なるため、どの酒屋でも量り売りができるというわけではない。
逆に「あそこの店で買った酒は上手い」という評判が立てば、遠方からのリピート客も付くようになる。購入前に味見や試飲ができるのも、量り売りならではの特徴だ。

実際に欧州では、従来からの商品を量り売り方式にすることで急成長を遂げている企業もある。その中の一つ、ドイツのフォム・ファース社が量り売りの商材として着目したのは「ワイン」だ。ドイツではビールやウイスキーを量り売りしている店は多い。しかしフォム社が始めるまでは、ワインはボトル単位の販売が当たり前で、樽から量りすることはなかった。

しかしフォム社も最初から量り売りでの成功を狙っていたわけではなく、商品の仕入れに失敗して不良在庫を抱えてしまった経験から、瓶から樽に移し替えて、顧客が自由に試飲もできるようにしたところ、思わぬ反響を生んだことが量り売りビジネスへ転身するきっかけになっている。

店内にはワイン樽が設置されていて、顧客は試飲をして気に入ったワインを選んで、好きな量を樽から容器に入れて購入する。購入できる量は 100ml単位の少量から可能で、容器は自分の好きな容器を持参してもよいし、店で購入することもできる。40mlから 500ml以上までのデザインされた容器が各種取り揃えており、ペットボトルはサービスになっている。現在、フォム社の量り売りショップはドイツばかりではなく、フランチャイズ方式で英国、オーストラリア、スイス、日本にまで店舗を展開している。ワインだけでなく、スピリッツなどの酒類やビネガーやオリーブ油、シロップなどの調味料まで 100アイテム以上の液体食材を量り売りしている。同社のオンラインショップでも同じように量り売りでオーダーできるようになっている。

同社の量り売りビジネスでユニークなのは、フランチャイズ加盟店の選考を行うにあたって、オーナーの性格を重視している点だ。というのも、フォム社のワイン量り売りは自動販売機とは違って、店員による対面販売によるため、店員の商品知識やアドバイスが購入の意思決定に大きな影響を与えるからだという。実はここに、量り売りビジネスが今の時代に成長できる理由が隠されている。フォム社が目指しているのは、スーパーや量販店に代わる、かつての“八百屋さん”や“魚屋さん”のような存在。顧客のニーズに合わせて良い商品を適正な価格で提供し、とりわけ触れ合いを大切にして店と顧客のつながりを深める、そんな小売店本来の姿だ。

【ボトルオーナーから樽オーナーへの飛躍】

 必要な時に必要な量だけ購入できることをウリにした“量り売り”には、店側でも在庫管理や固定客作りのための利点があるが、さらに上級の固定客に対してはボトルキープ制を導入することも効果的である。高級なワインやオリーブオイルは販売できる量に限りがあるため、買いたい時にいつでも購入できるというわけではない。そこで自分が購入予定の分量をあらかじめキープしておき、大切なゲストを招くホームパーティなどの都度、必要な量を小分けしてらえばよい。店側では事前にボトル単位の料金を受け取ることができるし、利用者の側でも高級品を飲み残しや使い残しで無駄にすることがなくエコにも優しい。

もともとボトルキープ制は酒好き達の間で、希少な酒を自分のためにストックしておくことから広がったサービスと言われるが、さらに彼らの食指を動かすシステムとして「樽オーナー制度」がある。これは酒造所で仕込まれている酒樽を丸ごと一つ購入してしまうもので、酒蔵で厳格な管理の下に貯蔵、熟成されている名酒をオーナーが希望した時に瓶詰め、出荷してもらえる。

サントリーでは山崎と白州にある蒸留所で、貯蔵されているウイスキー樽の中から、実際に試飲して気に入った樽を丸ごと購入できる「オーナーズカスク」という制度を2004年から実施している。一般に市販されているウイスキーは複数の原酒がブレンドされている上に、大量生産向けにアルコール度数や品質を安定させる添加物も含まれているために、“本物の風味を楽しむ”という点では物足りない。

そこで「オーナーズカスク」で自分の樽を所有すれば、世界に一つしかない純粋なウイスキーを楽しむことができる。1樽あたりの価格は、樽の大きさ、貯蔵年数(10年~25年)や風味によって 50万~300万円という違いがある。樽から 700mlの瓶に小分けすると100~500本になるため、とても一人では飲みきれない量だが、企業がイベントや得意客への贈答用として利用したり、レストランやホテルが契約するケースが多い。

《樽オーナーになるための共同購入グループ》

オーナーズカスクは、ウイスキーの供給量が不足したことから2010年にサービスを休止したが、当時の樽は品質が高いことから、オーナーズカスク全体が販売額の十倍から数十倍の価値に高騰して、二次市場で取引されている。

ボトルキープや樽オーナー制は、酒類ばかりではなく他の商材にも応用することが可能で、エコ社会の新たなビジネスモデルとして浮揚してくる可能性が高い。
洗剤、シャンプー、香水、芳香剤、ハーブ類、コーヒー、紅茶などの他、化粧品にも「量り売りをして欲しい」というニーズがあるが、従来のブランドイメージや売上を落とさずに量り売りを実現させることは難しい。そこで美容室やエステサロンで自分専用の化粧品をボトルキープできるサービスが開発されている。

ソニー系列の化粧品メーカー、CPコスメティクスは全国の専売代理店を通して商品を販売しているが、その売り方は、従来の店舗や訪販型とは違って、各代理店がフェイシャルエステとメイクアップのサロンを経営し、そこで施術に使う自分専用の化粧品をボトルキープしてもらう「キープメンバーシステム」という仕組みを開発している。キープするボトルは4種類の化粧品がセットになっていて、一式が28,350円と35,700円のコースがある。利用客はこの化粧品セットを購入してサロンにキープした後は、1回あたり 2,100円~ 3,150円というメンバー料金でフェイシャルエステの施術を受けることができる。

CPコスメの利用客が、なぜボトルキープしてサロンに通うのかといえば、自分の肌に合う化粧品を選んでもらえることと、信頼できるエステシャンに施術やメイクのアドバイスをしてもらえるためで、「商品(化粧品)+サービス(施術)」をセットにすることが固定客のリピート率向上に役立っている。このボトルキープモデルは、他のエステサロンなどでも導入する店が増えている。

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JNEWS会員レポートの主な項目
・マイ水筒ユーザーを優良顧客にする方法
・マイ水筒ユーザーに向けた給水サービスの狙い
・量り売りへと回帰する小売業のビジネス
・ゴミが無くなる循環社会に向けたゴミ箱の役割
・ハイテクゴミ箱とエコポイントを連動させた循環ビジネス
・水危機の到来に向けた「水を売るビジネス」の布石と死角
・トイレのある場所に客が集まる人間行動学とトイレビジネス
・ゴミを捨てると報酬がもらえるハイテクゴミ箱の開発市場
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