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元エンジニアの探求心が開拓する 紅茶専門店の経営手法と得意客
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事例:TEAS Liyn-an
written in 2003.3.25
飲料業界ではヒット商品の主流がコーヒーや炭酸飲料から「お茶」へと変化している。ウーロン茶をはじめとして、緑茶、ブレンド茶など無糖茶市場の成長が著しい。大手の清涼飲料メーカー各社でも、無糖茶商品を積極的に投入して、今では収益の新しい柱とするまでになった。一言で「お茶」といっても世界には多くの種類や製法が存在しているために、売る側としても様々な商品を消費者に訴求することができるのが無糖茶市場の特徴である。
しかしその一方で「お茶を飲ませること」を商いとする喫茶店業界は元気がない。2001年頃からはカフェブームの到来によって、雰囲気の良い店に女性客が押し寄せたが、人気とは裏腹に実際の経営状態はあまり芳しいものではなかった。「おしゃれな場所で、ゆったりお茶を楽しませること」がウリのカフェは、立地条件の良い場所へ出店しなくてはならない(家賃が高い)わりに、客単価と回転率は低いために採算構造はあまり良くない。この条件で利益を上げようとすれば、商品やサービスの原価率を落とすしかない。好立地、金をかけた店舗で、本当に良質のコーヒーやお茶を顧客に提供しようとすれば、なかなか儲けることは難しい。
カフェ業界におけるこの課題をインターネットによって解決しているのが愛知県の尾張旭市にある「TEAS Liyn-an(リンアン)」という紅茶専門店。。同店では、紅茶に対して強いこだわりを持つ店主自らが、スリランカやインドなどの茶産国に赴き、自身の目にかなった紅茶を調達している。その専門性から、仕入れた紅茶は自店のカフェで提供するのみでなく、オンラインによる小売販売と卸販売をあわせて手掛けることで紅茶ビジネスの幅を広げている。
カフェ経営者がパソコンやインターネットを巧みに使いこなして商売をする事例はまだ少ないが、Liyn-an(リンアン)を経営する堀田 信幸氏(49歳)は、アンテナメーカーのマスプロ電工でエンジニアとして22年間、開発に携わってきた後、趣味であった「茶の湯」からお茶の世界に入り45歳の時に起業を果たした人物である。同店ではパソコンやネットをカフェ経営の中で巧みに活用することで、来店客数や売上げの向上に繋げているが、そこには元エンジニアとしての経験と視点が生かされている。
好きな道での起業に役立てたパソコン通信
堀田氏はいまから10年ほど前に趣味として茶の湯をはじめた。当時、情報収集と活動の拠点としていたのがパソコン通信である。Nifty-serve 内、芸術フォーラムの中にある「茶の湯会議室」に参加していたが、その会議室からの有志らと共に「茶の文化フォーラム: FTEA」の立ち上げに参画し、日本茶、中国茶、紅茶に関する様々な情報を収集〜発信するコミュニティを作り上げていった。
■FTEA 茶の文化フォーラム
堀田氏は昔から紅茶好きで、紅茶の有名ブランド「フォートナムメイスン」を香港から何缶も買い込んでは、自宅キッチンに専用の棚まで作って楽しんでいたが当時のFTEA会議室での話題は、そういった大手の「パッカー(茶園から紅茶を仕入れて、ブレンドとパッキングをする紅茶メーカー)」ではなく、何もブレンドしない現地の茶園から直接取り寄せた紅茶が主体になっていた。
そしてFTEAのオフ会を名古屋地区で開催するため、堀田氏はそんな“紅茶通”が満足できる紅茶専門店を探したが、茶園から直接輸入販売する老舗はあるものの、喫茶部門で満足できる店は1軒も見つけることができなかった。ならば「自分で店を作ろう」と、独立を決意して長年勤めた会社を辞めたのが44歳の時であった。その後、約1年間の準備期間を経て、1998年3月に会社「有限会社リンアン」(愛知県尾張旭市)を設立、5月に実店舗(喫茶店)をオープンさせた。
独立する頃には、既にFTEAを中心としたパソコン通信の活動をきっかけにして、お茶の学者や大学教授、紅茶専門店の経営者など、お茶業界の広い人脈が出来上がっていたことが、堀田氏の起業における大きなアドバンテージとなっている。
現地からの直接仕入れによる喫茶店の専門化
リンアンの店内で客に出される紅茶は、当然ながら堀田氏が厳選したもので、その大半は自社輸入によって世界各地の茶園から直接調達されている。「紅茶市場は生き物」であり、各茶園では紅茶が毎日生産されているが、そのすべてのロットが異なる紅茶であり、ひとつとして同品質のものはない、と堀田氏は語る。
大手の紅茶メーカーでは、それを大量(数トン単位)に買い入れ、ブレンドすることで品質を安定させると共に、仕入れコストを圧縮して販売している。リンアンのような小規模な輸入業者は、大手のように大量仕入れによるコストダウンをすることはできないが、逆に「ブレンドしてはもったいない」状態にまで生育して品質がピークに達した時期の紅茶を小口で仕入れ、ノンブレンドで販売することが可能である。
このような最高級の紅茶を仕入れるためには、各茶産国において信頼できる茶商を見つけることが大切になる。日本から年に数回程度の海外出張をして、その時に生産されたものを、まとめて仕入れるのでは、品質がピーク時の紅茶に巡り会える確率は少ないためだ。
もちろん堀田氏も産地国へ定期的に出向くが、その目的は「取引先との信頼関係を築くこと」と、「現地の茶園を自分の目で見て情報収集すること」に重点を置いている。実際に茶園の人達と現場で議論することが大切であるため、茶園に泊めてもらいながら、昼夜のコミュニケーションをする。
そのようにして培われた信頼関係があれば、堀田氏が日本にいる間でも、現地の茶商や茶園から、品質がピークに達した紅茶の情報が随時送られてきて、最良のタイミングで輸入することができるわけだ。同社では多種類の紅茶を小ロットで仕入れることを基本にしているが、面倒な発注に現地が対応してくれるのも、先方との信頼関係が形成されているからに他ならない。
《直接仕入れのリスクと販路開拓》
喫茶店の差別化策として紅茶やコーヒーを海外から直接輸入して専門店化することは有意義だが、仕入れた茶葉や豆は品質が劣化する前に売り切ってしまわなくては大きな損失を被ることになる。そのため“店売り”だけを業務とする喫茶店では、このようなリスクを背負う原材料の独自調達はできないのが普通だ。
そこでリンアンでは、“紅茶専門店”としての業務を「喫茶業務」「小売業務」「卸売業務」の三本柱にして、安定した販路の拡大に注力している。従来このようなビジネスは大手商社の独断場となっていたが、これをリンアンのような小規模業者でも実現可能なものとしているのがインターネットによる販売手法だ。
《リンアンの紅茶販路》
実店舗を持つ紅茶専門店のオンライン戦略
リンアンのwebサイトは現在「実店舗の情報提供(本店)」と「紅茶のオンライン販売」の2部門によって構成されているが、会社全体としての売上げは喫茶部門が7割、販売部門が3割という比率になっている。今後はさらにオンライン販売の比率を高めていく方針だ。
同社が実店舗経営に加えてオンライン販売にも本腰を入れはじめたきっかけは、やはり仕入れの問題が起因している。サイトの立ち上げは1998年10月、当初は茶葉のリストを公開していただけで、あまり“オンラインで売ること”に力を入れてはいなかった。ところ翌年、インド産の紅茶「ダージリン」を直輸入することになったが、ダージリンは基本的に生産ロット全量(100kg以上)の取引が基本条件である。しかし自店だけでこれだけの量を消費することはできないため、本格的なオンライン販売に取り組むこととなった。その時にとった販売手法がメールマガジンの配信で、最初の一日で4件の注文が入り、その月では10万円ほどの売上げとなった。
その後、本格的なオンラインショップの構築が必要と考えていたことから、商工会議所が運営するショッピングモールに参加した。しかしモールからの集客はほとんどなく、逆にメールマガジンからモールへ誘導しているような状態であったために、モールを退会して独自のショップを構築していくこととなる。
当初は注文フォームを設置しただけのシンプルなサイトであったが、この間もメールマガジンの配信は継続していたために、売上げが落ち込むことはなかった。そしてサイト構築の試行錯誤を重ねる中で、プロの業者の力も借りて2001年9月にリニューアル、さらに2002年10月にも再リニューアルを重ねて現在のサイトの形へとたどり着いている。この頃から売上げは急速に上昇している。
また卸売業務についても、「紅茶のアウトソーシング」という窓口をサイト上に設けることで、業者からの問い合わせ案件を拾い上げている。その中には大口の案件も多く、上場企業が新しく展開するカフェにリンアンが仕入れた紅茶を提供する話などもある。
■本店サイト:TEAS Liyn-an(ティーズリンアン)
■紅茶とケーキのオンラインショップ
《紅茶ファンを惹き付けるためのメルマガ戦略》
実店舗、オンライン販売共にリンアンの集客に大きく貢献しているのがメールマガジンであることは、現在でも変わっていない。同店が紅茶の専門性を追求していることから、それに呼応する熱心な紅茶ファンを組織化する手段としてメルマガは欠かせない販促ツールとなっている。現在では、客層や目的別に下記4種類のメルマガを配信している。
●「紅茶通信 ☆ Liyn-an TEA TIMES 」(登録者数 2150名)
リンアンのメインのメールマガジンで、同店の総合情報、そしてお茶に関係する種々の情報を発信している。発行頻度は月2〜4回。
●「店主の時々刻々」(登録者数 280名)
携帯向けのメールマガジンで、店主堀田氏の日常を配信する日記的な位置づけになっている。日常の些細な出来事から、実店舗でのお得情報、オンラインショップでの新商品情報がタイムリーに配信されるため、メインのメルマガ「紅茶通信 ☆ Liyn-an TEA TIMES」で新商品を紹介する前に、このメルマガだけで完売してしまうこともある。
なお同メルマガは専用の CGIによって、堀田氏が掲示板に書き込むのと同じ要領で、店で紅茶を淹れながら、通関のために出かけた空港からなど、どこからでも情報発信できて、メール配信と同時にサイト上の「店主の時々刻々」の内容も自動的に書き変わる仕掛けになっている。
●「紅茶の実験室 ☆ Liyn-an Tea Club 」(登録者数 420名)
リンアンでは「どうしたら紅茶を美味しく飲めるのか」を実験、検証するための「リンアンティークラブ」を毎月開催しているが、その会合の報告と参加者を募集するためのメルマガ。市販の本に書かれている“紅茶の常識”が本当に正しいものかを実験してみて、それが“間違った常識”であれば実証データとして示す専門的な内容となっているため、紅茶業界のプロからも注目されている。
●「私がマ・ダ・ム」(登録者数95名)
リンアンのケーキ担当である堀田氏の奥さんが発行するメルマガで、「店主の時々刻々」と同じ仕掛けにより、メルマガ配信と同時にサイト内の該当ページも自動的に書き変わる。リンアンではケーキ教室も行っているため、その参加者を中心にしたケーキファンへの情報発信をおこなう。
※Liyn-anケーキサイト
リンアンのオンライン戦略では実店舗への集客とオンライン販売とが併走しているが、その相乗効果によって、オンラインで紅茶を購入した顧客が実際に遠方から実店舗を訪れることも珍しくない。愛知県にある同店には、今月だけでも福岡、旭川、網走からの来店があった。また常連客の中には、大阪や横浜に住む人も多いという。遠方からの来店客が多い紅茶専門店という口コミが広がれば、名古屋近郊の人達も「一度行ってみよう」という気持ちにもさせて、来店客数を伸ばすことに成功している。
元エンジニアの探求心が生み出す紅茶の専門情報
全国には10万件以上の喫茶店があるが、その数は年々減少している。これといって特徴のない喫茶店は、自動販売機やコンビニによる飲料販売の影響も受けて淘汰されていく傾向にあるのだ。しかし、それとは一線を画する「リンアン」は、全国の紅茶ファンから“一目置かれる店”へと育っている。それは堀田氏が日々研究している紅茶に対する専門知識や情報を、ネットを通して広く発信しているからに他ならない。
紅茶に関連した文献や書籍は数え切れないほど存在するが、そこに書いてあることが必ずしも正しいとは言い切れない、と堀田氏は指摘する。紅茶の淹れ方や、紅茶に関する歴史など、堀田氏はこれまで一般的に“常識”として書かれていることの中でも「これはおかしい」と自分が疑問を感じた点については、客観的に調べ直し、自分でも実験を繰り返すことによって新たな真実をいくつも解き明かしている。その内容については、昨年総務省が主催したインターネット博覧会(インパク)のパビリオンの中でも公開した。これら独自の視点で生み出される紅茶の深い知識・情報は、サラリーマン時代のエンジニアとしての経験が強く生かされているという。
■インパク・パビリオン「紅茶の真相」
お茶の世界を突き詰めて研究していくと、紅茶・中国茶・日本茶という区別は存在しなくなる。元はすべて同じ「お茶」であるものが、製法の違いによって6種類に分かれる。その一つが「紅茶」であり、日本茶の中にある煎茶、番茶、抹茶は「緑茶」の中で枝分かれした分類だ。そのため堀田氏の人脈は、紅茶業界に限らず、茶道の著名人達にも広がっている。趣味として楽しんでいた「お茶」を、ここまで専門的に掘り下げてこそ、初めてプロとしての仕事が成り立つことを、これからの独立希望者達は見習っておくべきだろう。
最近では健康ブームから派生して「中国茶」が女性達の間でブームとなっているが、その客筋を堀田氏の深い情報発信によって取り込むことができれば、この商売をさらに飛躍させることもできそうだ。
■JNEWS LETTER関連情報
JNEWS LETTER 2000.10.7
<メールマガジンが生み出す販売力と顧客ネットワークの特徴>
JNEWS LETTER 2001.5.16
<顧客生涯価値から考える固定客を掴みやすい商材の特徴>
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これは正式会員向けJNEWS LETTER 2003年3月25日号に掲載された記事のサンプルです。 JNEWSでは、電子メールを媒体としたニューズレター(JNEWS LETTER)での有料(個人:月額500円、法人:月額1名300円)による情報提供をメインの活動としています。JNEWSが発信する情報を深く知りたい人のために2週間の無料お試し登録を用意していますので下のフォームからお申し込みください。
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