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高級和牛には頼らない
グルメ食肉店の商品発掘と顧客獲得術
事例:グルメミートワールド
written in 2003.4.9

 一昨年前から取り沙汰されるようになった BSE(牛海綿状脳症)問題は食肉業界に深刻な影響を与えた。現在、国内に流通している牛肉は検査によって安全性が確認されているものだが、一度消費者に与えてしまった“牛肉に対する不信や怖さ”が完全に癒えるまでには、もう少し時間がかかりそうだ。

《精肉販売店の売上構成》 精肉販売店の売上構成 BSE問題以前の食肉業界では、牛肉の販売に大きく依存した業者が多かったが、“牛肉離れ”による売上減少の穴を埋める新たな主力商品は、行政や業界団体を頼りにしていたのでは、なかなか見つけられないのが現状。これからも食肉業界で生き残っていくためには、新たな人気・売れ筋商品を、各食肉店が独自に開拓、育成していくことが鍵になる。


鳥獣肉専門店として差別化する栃木の食肉店

 上図が示すとおり、日本の食肉店では「牛肉」「豚肉」「鶏肉」を中心に売上を構成している。そのためどの店も同じような品揃えになってしまうことが多い。自店の特徴付けをするために、ブランド肉を専門に扱う高級志向の店も増えてきたが、それとて独自の仕入れルートを開拓しなくては他店との差別化を図ることは難しい。

グルメミートワールドページサンプル そんな停滞した食肉業界において、独自の品揃えを追求してプロの料理人やグルメ志向の強い主婦達からの支持を受けているのが、有限会社ミート田村(栃木県今市市)が運営するオンラインショップ「グルメミートワールド」である。

同サイトでは、フランスやイタリアから直接輸入した鴨肉やフランス鶏、仔羊肉(ラム肉)、鹿肉や猪肉などのジビエ(狩猟肉)など、一般の食肉店では購入することが難しい特殊な肉を専門に揃えてオンライン販売をする。現在では 120種類以上の珍しい食肉や生ハムなどのグルメ食材を扱うことで、全国的にも他にはない「世界のグルメな食肉専門店」としての位置づけに成功している。

グルメミートワールド(有限会社ミート田村)

「ジビエ」とは狩猟による鳥獣肉のことを指す


地元の商圏で鍛えられた食材選びのセンス

 有限会社ミート田村は、現在の前身である大正12年創業の田村精肉店の時代から栃木県の北部に位置して精肉業を営んでいた。近隣の商圏には日光、霜降高原、奥日光などがあることから洋食中心のホテルやレストランも多い。この地域は海に面していないことから海産物は少なく、肉が中心のメニュー構成になっている。ミート田村では、これらのホテル、レストランなどを数多く取引先としていたが、「新しい素材を生かした料理」を模索している料理人は多く、ジビエに対する需要も多かったことから、他ではあまり見かけない珍しい肉をいち早く仕入れては、料理人達に提案していくようになった。

特殊な食肉を数多く扱っていたことから、商品リストを取引先のシェフ達が調べられるようにしたいという理由で、2001年1月に商品情報だけを掲載したホームページを作成。しかしアクセス状況から、地元の料理人が現場でインターネットを利用できる環境はまだ整っていないことがわかり、方針を変更して全国からの顧客を獲得すべく、オンラインショップ「グルメーミートワールド」を2001年8月に立ち上げた。当初はグルメーミートだけに絞り込むことなく、和牛も品揃えに加えていたが、その後、BSE問題が深刻化してきたことによって「牛肉に対する消費者の恐怖感は当分収まらない」という判断から、サイト上から「牛」という文字を外して、鳥獣肉による専門店化を推し進めていった。


店主の行動力で開拓する海外仕入れルート

 ミート田村が他の食肉店と異なるのは、商材選びのセンスだけでなく、同社代表の田村幸雄氏が興味を持った食材に関しては、どこまでも出張して“味”を自分の舌で確かめては、仕入れ先を開拓してくる点にある。そのため現在、同サイトで販売されている食材の大半は、フランスやイタリアから直接輸入されたものである。

田村氏が海外仕入れのノウハウを開拓したのはサイト立ち上げ後のこと。特に海外にコネクションがあったわけではないが、「現地に行って様々な食材を食べて自分が“美味しい”と思ったものを仕入れる」というシンプルな作業をしているだけと田村氏は語る。

主な仕入れ先となっているフランスに出張すれば、彼の仕事は「食べること」が大半を占める。パリに到着して現地のレストランを何件も巡り、ホテルに深夜到着した後、そこから更に夜中2時頃に自炊をして、ラムと仔羊のステーキを食べたこともある。翌日、地元の人から「ブレス鶏のカルパッチョが美味しいレストランがリヨンにある」という噂を聞けば、カルパッチョを食べるためだけにリヨンへ向かう。その他にも、現地の高級スーパーに出かけて、一人では食べきれないほどの多彩な食材を買い込んできては、ホテルで試食をする。海外出張では自炊による試食が大切な仕事になることから、キッチン付きのアパルトマン式ホテルを利用している。

具体的な取引相手を探しての商談については、現地で開催されている展示会へ参加して人脈を作ることからはじめる。新規の商談時にはwebサイト「グルメミートワールド」の存在が、現地業者からの信頼を得るための重要なツールとなっているとのこと。日本のオンラインショップのバイヤーという肩書きは、海外での仕入れ交渉時には意外と役立つものらしい。

このような海外出張を繰り返すことで、現地の業者との信頼関係は次第に高まり、田村氏独自の仕入れルートが構築されている。国内の小さな食肉業者が、単独で海外に飛んで仕入れ交渉をするケースというのはかなり珍しく、特殊肉の分野では田村氏がパイオニア的な存在になっている。

3/25日号で紹介した紅茶専門店「TEAS Liyn-an」にも共通することだが、オンラインショップが独自商品を販売するためには、海外出張をしてまで現地における仕入れルートを開拓することが今後の重要なノウハウとなっていきそうだ。国内のメーカーや卸業者に頼っているだけの小売業であれば、インターネット商圏の中で生き残っていくことは難しい時代に突入している。

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仕入れリスクを低下させるための実店舗とオンラインの融合

「これからは海外仕入れが重要」といっても、すべてのオンラインショップ経営者がそれを実行できるわけではない。多くの経営者が躊躇する要因として大きなものに「仕入れた商品をすべて売り切る」ことが難しい点があげられる。海外業者との直接取引になれば、国内取引のような「卸業者」「小売業者」という棲み分けは事実上消滅して、ロットで仕入れた商品在庫すべてを限られた期間内(商品が劣化、陳腐化しない間に)に売り切ってしまわなくてはならない。

この在庫リスクに対して、ミート田村ではこれまでの実店舗経営で培ってきた、地元ホテルや旅館との取引を上手に活用している。オンライン販売のみであれば輸入した商品を完売させることは難しいが、地元ホテルや旅館に対して提案営業をすることよって、ある程度まとまった量をさばいて、最終的にはすべての在庫を売り切ることができる。

仕入れ・販売フロー


プロの料理人から火を付けるグルメミートの販売手法

 オンラインショップ「グルメミートワールド」における現在の売上状況は、月商およそ500万円で、一日の注文件数は 10〜50件の範囲を推移する。注文件数の内訳は、一般家庭と飲食店関係者とが(3:1)の割合だが、売上金額では(1:1)となる。

飲食店関係者からの注文では、圧倒的にレストランのオーナーシェフが多く、フランス系、イタリア系レストラン、焼き鳥屋、軽食が食べられる洒落たバーなどが主な取引顧客となっているが、いずれも都市部にある飲食店からの利用が多いのが特徴。また最近ではペンションからの引き合いも増えてきた。

従来の高級レストランでは主力のメニューとして和牛のロースかフィレ肉(1キロ1万円前後)を使うことが多い。しかし和牛の取引相場は輸入肉と比較するとかなり高い水準にあるのが実態で、これがレストラン側にとって原価率を高める要因になっている。

一方、グルメミートワールドが扱うフランス産の高級ソワキ鴨のロースならば1キロ6千円と、和牛よりもかなり安価で調達することができる。鴨肉を上手に使いこなせば、食材の原価率を下げると同時に、他のレストランにはない新メニューで来店客を喜ばせることができることから、プロの料理人達が同サイトの品揃えに注目しはじめている。注文者の中で“オーナーシェフ”が多いのは、料理人と経営者、両方の視点から新しい食材の利用を即決できる立場にあるためだ。

またおもしろいことに、プロの料理人からの注文が増えると、それと同調するかのように一般家庭からの注文件数も増えてくる。「プロのシェフが利用している食肉店」という評判が立てば、ぜひ自分も購入してみたいという気持ちになるのが一般の消費者心理。ただし同店で扱う食材では珍しいものも多いため、サイト上における各食材の商品情報とレシピ情報とを連動させる工夫もしている。

レシピWORLD

新規の顧客を獲得するためにはプレゼント懸賞と連動したメルマガ配信も行う。現在のメルマガは週1回の配信ペースで、購読者数は約1万4千人。そこからの平均購買率は 0.2%程度だという。プレゼント応募→メルマガ購読で獲得したユーザーを“顧客”とするまでには時間がかかるが、近頃では購入単価1万円前後の利用客も増えてきたという。メルマガによる販促活動では、総読者数に対する平均購買率が安定してくれば、読者数を増やすことで売上も伸びてくるため、10万人読者獲得を当面の目標としている。

さらに同店のユニークな懸賞内容として、「グルメWORLDショップ商品券(500円分)」を100名にプレゼントしている点も注目に値する。プレゼントの賞品として自店のギフト券を提供すれば、それが呼び水となって商品を購入してもらうことができる。

今月のプレゼント内容

 国内ではそれほどまだ人気がなくても、海外では“美味しい”と評判の高い食材はたくさん発掘することができる。田村氏はグルメミートワールドの他にも、生ハムを専門に販売する「生ハム.com」、自然塩を専門に販売する「ナチュラムソルト.com」も並行して運営する多店舗化を進めている。これらのサイトもターゲットとなる顧客はグルメミートと同じ層であるため、一度開拓した顧客に対して専門的なグルメ食材を幅広く提案することができるわけだ。

生ハム.com

ナチュラルソルト.com

将来的には、これらグルメ食材販売の専門ショップを10サイト以上に増やして、各サイトの運営をそれぞれ1〜2名の責任者体制でおこなっていくことが目標とのこと。高品質のグルメ食材を海外から独自に仕入れるノウハウと、グルメな顧客を獲得するノウハウとを併せ持つことができれば、その路線上に乗せる商材の幅を広げることでビジネスの奥行きも広がっていくことになりそうだ。食肉業界全体が BSEの影響で沈む中、グルメミートワールド・田村氏が有力商品発掘をする行動力は、多くの経営者が見習うべきものなのだろう。

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これは正式会員向けJNEWS LETTER 2003年4月9日号に掲載された記事のサンプルです。 JNEWSでは、電子メールを媒体としたニューズレター(JNEWS LETTER)での有料(個人:月額500円、法人:月額1名300円)による情報提供をメインの活動としています。JNEWSが発信する情報を深く知りたい人のために2週間の無料お試し登録を用意していますので下のフォームからお申し込みください。
 
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