脱ハンコ政策で変革されるアナログ業界の取引形態
日本では契約取引の大半で「印鑑」が使われているが、その役割は意思表示の証拠を示すことにある。たとえば、金銭の貸し借りを示す借用書に、借り手の押印があるか無いのかにより、契約の信用度に大きな差が生じることは、民事裁判の判例からも示されている。しかし、近年では3Dプリンターで印鑑は簡単に複製できるようになったことから、アナログ時代の承認ツールとして役割を終えようとしている。
さらに、コロナ禍ではテレワークの普及により、対面で押印する習慣が足かせになっていることから、日本政府は本格的に押印制度の廃止に乗り出した。国や地方自治体で行われる行政手続きの中で、公的書類への押印が必要なものは約1万5千種類ある。その中で、法律や省令で押印の規定が無いものや、押印の必要性が低いものを調査したところ、99.4%(14,909件)が該当した。これらの手続きでは、2021年3月以降、段階的に押印が廃止されていく計画で、自治体向けの「押印見直しマニュアル」が作成されている。
具体的な押印の廃止例としては、婚姻届、離婚届、健康保険や介護保険の申請、確定申告、自動車の購入時に必要な車庫証明など多岐にわたる。自動車(普通車)の所有権登録については財産価値の重要性から、従来と同様に実印と印鑑証明が必要だが、軽自動車と二輪については所有権の概念が異なるため、購入時の押印が不要になる見通しだ。
行政手続きで必要な印鑑の種類には「認め印」と「実印」があるが、認め印が必要だった公的書類の大半で、今後は押印が不要になる。それと合わせて進むのが行政手続きの非対面化であり、電子メールでの書類提出や、役所の公式サイトからオンラインで行える手続きも増えていくことになる。
そこに向けては、不動産、建設、医療、介護、金融など多様な業界で、押印無しの電子契約取引が進むことになりそうだ。役所内の手続きに限らず、押印不要の規制緩和が各分野で起きることにより、これまで対面で行われてきた民間同士の取引でも、非対面の電子契約をすることが可能となり、アナログ業界の取引形態にも大きな変革が起きる。
押印廃止の規制緩和により、大きな変化が起きる分野の一つが不動産業界と言われている。従来、不動産の売買や賃貸契約では、宅地建物取引士(宅建士)の有資格者が、重要事項説明の書面交付と口頭での説明をした後、その内容に同意した証明として契約者の押印が法律で定められていた。
しかし、国土交通省は新たな取り組みとして、重要事項説明書のオンライン交付による不動産契約の社会実験を2019年から行っており、その中では、押印以外の方法で電子的に同意の記録を取ることが認められている。この方式は、コロナ禍でも不動産業界のニーズが高いことから、社会実験を経て、オンラインによる重要事項説明(オンライン重説)の標準型となることが見込まれている。
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■JNEWS会員レポートの主な項目
・IT重説で解禁される不動産取引のオンライン契約
・分譲マンション管理組合を電子化する潜在市場
・押印廃止で変わる人材派遣ビジネスの動向
・コロナ禍で変化する保険業界の営業と契約手法
・保険代理店向けオンライン商談システムの開発視点
・急速に普及する来店不要の本人確認テクノロジー
・eKYCによるオンライン本人確認の仕組み
・eKYCを活用したブランド品宅配買取サービス
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・JNEWS LETTER 2021.3.14
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