生鮮品の劣化を防ぐコーティングと腐敗防止テクノロジー
農業生産者から野菜や果物が出荷されて、スーパーなどで販売されるまでのリードタイムは、作物の種類によっても異なるが3~7日と言われている。それを過ぎれば商品価値が落ちるため、売り場から撤去されて廃棄への道を辿ることになる。
鮮度を保つために物流ルートを短縮化する工夫は色々とされているが、「農産物コーティング」という別のアプローチにより、生鮮品の保存期間を長期化する技術が投資家からも注目されている。農産物コーティングは、化学的な薬剤は使わずに、自然素材から抽出された成分を出荷前の作物に吹きかけたり、浸したりすることで、腐敗するまでの期間を2~3倍に伸ばすことができる。
カーネギーメロン大学で、様々な材料の特性を原子、分子構造から分析するマテリアル科学に取り組んでいた研究者が、2012年に創業した「Apeel Sciences」は、スーパーなど小売店舗で廃棄される農作物から抽出できる、腐敗防止コーティング剤の開発に取り組んでいる。
多くの野菜や果物には、自身を乾燥や腐敗から保護するための「皮」が存在している。この皮部分にはクチンという成分が含まれており、腐敗の原因となる細菌の侵入をブロックする役割を果たしている。
クチンの構造については、まだ解明されていない事も多いが、Apeel Sciencesでは実験を重ねる中で、熟成したアボカドの中からクチン成分を水溶液として抽出することに成功した。それを収穫したばかりのアボガドにコーティングスプレーすることで、腐敗までの日数が2~3倍に伸びることが実証されている。
アボガドの成功例は、開発段階の第一歩に過ぎないが、さらに研究を進めていけば、アスパラガス、レモン、リンゴ、イチゴなど、他の作物でもコーティング剤を商品化できる見通しだ。こうした農作物コーティングの技術は、従来の防腐剤や殺菌剤よりも安全であるため、生鮮品流通に革命を起こせる可能性がある。また、コーティング剤は、売れ残りで廃棄される野菜や果物を原料にできるため、フードロス対策の面から期待されている。
Apeel Sciences社のビジネスは、コストコのような大手スーパーチェーンとの提携により、独自のコーティング技術を施した野菜や果物をブランド化して販売することを目指している。
Apeel Sciences社に対しては、ビルゲイツの財団基金が創業期(2012年)に10万ドルの資金を提供している他、大手のベンチャーキャピタルも次々と出資をして、未公開企業ではあるが、2019年の時点で1億1000万ドルの資金を調達している。
《農作物コーティングの持続性サイクル》
○廃棄される野菜、果物の皮から腐敗防止成分を抽出。
↓
○腐敗防止成分からコーティング剤を作成する。
↓
○収穫された作物にコーティング剤を散布する。
↓
○腐敗するまでの日数が2~3倍に伸びる。
↓
○小売店舗は付加価値の高い生鮮品を販売できる。
↓
○廃棄される食品が減少する。
野菜や果物の熟成が進行するのは、食材自体が分泌するエチレンガスも関係している。バナナを冷蔵庫に保存すると黒ずみやすいのは、エチレンガスの放出量が多い他の食品の影響を受けて、熟成のスピードが速くなるためである。そのため、バナナを一つずつポリ袋やラップに密封して保存しておけば、同じ冷蔵庫内でも、バナナの賞味期間を延ばすことができる。
エチレンガスの気体自体は、植物の発育にとって有益な植物ホルモンで、種子の発芽を促進させたり、果実を熟成させて、再び種子を土壌に返す役割を担っている。日照条件が悪い環境や、茎や実に傷が付いた時にも、分泌量が多くなる性質がある。植物が自身を守る上で、エチレンガスは善玉の成分だが、収穫後の輸送や保存の過程では厄介な存在になるため、その放出量をコントロールできれば、食品の劣化を遅らせることも可能になる。
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■JNEWS会員レポートの主な項目
・農作物コーティングが生み出す新市場
・食品腐敗防止テクノロジーの開発視点
・試行錯誤する賞味期限管理のテクノロジー
・賞味期限を管理するスマート冷蔵庫の方向性
・賞味期限と連動した変動価格システム
・廃棄食材の価値を算定するゴミ箱の着眼
・フードロス対策市場の経済価値と投資効果
・有料フードバンク事業のビジネスモデル
・コロナ危機で生じる食糧問題と新フードビジネス
・海洋プラスチック規制で浮上する脱ペットボトル事業
・電子棚札で変わる未来店舗の投資対効果と集客方法
・飲食業の事業転換を促す、未来の食事スタイル
■この記事の完全レポート
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