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オープン化されるコロナ対策特許の活用方法と問題点

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JNEWS会員配信日 2020/7/31

 コロナ危機の中では、医療や新生活様式に役立つ製品の開発を各企業が手掛け始めているが、それに伴い、特許ライセンスの分野でも新たな動きが出てきている。

話の前提として、新たに発明、考案されたコロナ対策関連の技術を特許で専有化しようとする動きは中国を中心に増えている。中国では2020年の2月までは感染拡大の影響で、特許出願件数が前年より落ち込んでいたが、その後は急速に回復して、7月時点で国際特許の出願件数は前年で20%を上回っている。

中国政府は、2008年に「国家知的財産権戦略」を掲げて以降、下請け体質の製造業から脱却する目的で、民間企業に対して特許取得を奨励しており、2015年頃からは、米国や日本を抜いて国際特許の出願件数が世界でトップとなっている。

《世界の特許出願件数(2019年)》

その一方で、医療現場などで不足する感染対策用品を中小企業が作ろうとする場合には、既に取得されている他社の特許が障壁になることから、コロナ対策に役立つ特許については無償解放する動きが、先進国の中では広がっている。

日本では、トヨタ自動車、日産、キヤノン、味の素、ニコン、ヤフーなど、大手企業の20社が発起人となり、新型コロナの治療で求められる医療機器、感染防止製品、ソフトウエア等の開発に必要な特許を、他の団体や個人に対して無償で利用可能とした「知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言」プロジェクトが立ち上がっている。

知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言

2020年7月末の時点では、90社近い国内の大企業が同プロジェクトに賛同して、いる。支援の宣言をした企業では、コロナ対策として役立つ見込みのある自社特許を「COVIT対策支援宣言特許」として公開して、その技術を活用して新製品を開発する他者に対して、コロナが終息するまでの期間はライセンス料の請求など、知財の権利行使をしない約束をしている。

たとえば、キャノンが社内での利用を目的として開発した「ファン付きバイザー」は、フェイスシールドの上部にモバイルバッテリーを電源とする電動ファンが付いており、額から顔にかけて下向きの気流が発生するため、シールドが曇ること無く、夏の暑い時期でも作業がしやすい仕様になっている。この製品に使われる技術はキャノンが特許出願中だが、COVIT対策支援宣言の対象としているため、他社でも同じ技術を活用した製品開発をすることができる。

ファン付きバイザー(キャノン)

「COVIT対策支援宣言」の対象とされる知的財産には、特許権の他に、実用新案権、意匠権、著作権(ソフトウエア等)も含まれるため、有効に活用すれば、中小企業がコロナ対策製品を開発、販売することに役立つ。

コロナ対策のために、大企業の知的財産が無償解放されるのは、社会的に有意義なことだが、そこにはコロナ後のビジネスを見据えた、巧みな知財戦略も潜んでいる。権利の無償解放は永続的なものではなく、「WHOが新型コロナ感染の終結宣言を行う日までの間」という期限が設定されており、それ以降も該当技術の利用を継続したい場合には、権利を保有する企業とのライセンス契約を有償で結ぶことが必要になる。

《コロナ支援による知財無償化の仕組み》

新型コロナの完全終息がいつ頃になるかは未定だが、休眠特許を大量に保有している大手メーカーにとっては、社会貢献として権利を無償解放しつつ、他社の製品からコロナ後も残るヒット商品が生まれた時には、ライセンス収入を徴収するという、知財収益化の道筋ができる。

近年のテクノロジーは高度になっており、大企業といえども、ゼロから技術を開発して収益化までを単独で行うことは難しく、他社との協力関係を築いていく必要がある。そのためには特許技術を独占するのではなく、他社と共有しながらライセンス料が得られるような、オープン化戦略が今後の主流になるとみられている。

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JNEWS会員レポートの主な項目
・コロナ対策支援による特許無償化の仕組み
・オープン化されるコロナ対策特許の問題点
・トヨタがオープン化する特許戦略の収益構造
・オープンソース人工呼吸器のライセンス体系
・新型コロナワクチン開発の市場構造
・米国ワープスピード作戦の仕組みと業界構造
・予防接種ワクチンの流通ルートと採算構造
・コロナワクチン接種の優先順位と格差問題
・プロ投資家が物色するポストコロナの有望テクノロジー
・中国に依存する医薬品業界のサプライチェーン構造
・年間40兆円の医療費を牛耳る製薬会社の業界構造

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