社会インパクト投資とは 、投資家・行政・民間事業者とがリスクとリターンを共有しながら、社会的問題の解決に取り組む事業形態を指す。公共事業に投資のスキームを導入することで資金調達がしやすくなり、公的医療費の削減策としても期待されている(JNEWSについて
リスクとリターンを共有する社会インパクト投資

JNEWS
JNEWS会員配信日 2019/4/24

 高齢化、所得格差による貧困、治安の悪化、環境問題など、社会的に解決しなくてはいけない課題は多数あるが、それを行政に頼るだけでは限界がある。社会的に深刻な課題は、長期的な視野に立って取り組む必要があるが、企業は数年のうちに収益の見通しが立つ分野でなければ参入がしにくく、NPOでも資金が枯渇して活動を諦めてしまうケースが少なくない。

こうした社会問題の解決に対して、成果報酬や投資のスキームを取り入れようとする試みが、世界的に進んでいる。それは「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」や「社会的インパクト投資」と呼ばれるもので、官民が連携した投資事業として注目されている。

海外の社会インパクト投資事例を解説した関連書籍

基本的な仕組みは、行政が民間業者に対して公共サービスの業務委託をして、成果に連動した報酬を支払う取り決めになっている。そのため、行政は成果が生じている事業に集中して公的資金を投入することができる。一方、民間業者は、目的の成果を達成するハードルはあるものの、行政との関わりも持ちながら、社会問題解決型の事業にチャレンジしやすい。

さらに、成果連動型の公共事業を投資商品として組成するのがソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)となり、投資家は公共事業が失敗したときのリスクは背負いながらも、事前に設定された成果が生じれば、魅力的なリターンを得ることができる。

《成果連動型委託事業の仕組み》


欧米では、2010年頃から犯罪者の更生、児童福祉、失業者の雇用、ホームレス支援など多様な分野で成果報酬型の社会事業が立ち上がっているが、日本では、主に医療費の削減に繋がるヘルスケア分野で導入されはじめている。国の財源が不足する中で、投資家や事業者との間でリスクとリターンを共有する新タイプの公共事業は、医療、健康、介護などの分野で導入されていく可能性がある。

【糖尿病重症化を防ぐ成果報酬型ヘルスケア】

 成功報酬による公的ヘルスケアサービスの具体例として、神戸市では2017年7月~2020年3月の期間で「糖尿病性腎症等重症化予防事業」を成果連動型で実施している。このプロジェクトは、広島市に本社がある「DPPヘルスパートナーズ」が委託事業者となり、神戸市内で糖尿病から腎症のリスクがある患者(国民健康保険加入者の中から約100人を選定)に対して、看護師や保健師などの有資格者が、電話で食事や運動面などの健康指導を6ヶ月にわたり行う。それにより、人工透析へ移行する患者数を減らすことを目的としている。

人工透析患者にかかる医療費は、1人あたり年間で500万円と非常に高いため、自治体としては健康指導のコストをかけても、糖尿病からの重症化を予防したいと考えている。

神戸市がDPPヘルスパートナーズに支払う委託事業費には約2,400万円の予算が設定されているが、この資金は、健康指導プログラムが終了した後に、第三者機関による生活習慣の改善効果が評価され、成果報酬が段階的に支払われる契約になっている。つまり、成果が出なかった時のリスクは、委託業者が背負うことになり、全く成果が出なければ「報酬はゼロ」ということも想定されるが、それでは人件費などの原価を回収できないため、最低限支払われる保証額が設定されている。

この最低保証額を担保として、銀行や投資家は委託事業者に対して資金提供を行うが、神戸市からの成果報酬が満額支払われた場合には、年率で5%前後のリターンが得られるように設計されている。

糖尿病性腎症等重症化予防事業について(神戸市)PDF

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JNEWS会員レポートの主な項目
・成果連動委託型ヘルスサービスの仕組み
・糖尿病重症化を防ぐ成果報酬型ヘルスケア事業
・成果報酬型大腸がん検診向上プログラムの契約体系
・各地域で開拓できる慢性病重症予防サービスの潜在市場
・高齢者向け認知症予防教室の開業と費用対効果
・成果連動型ヘルシケア商品の設計方法と業界構造
・高血圧の抑制を投資商品にする海外ファンドの動向
・休眠預金も投入される社会インパクト投資への着目
・診療報酬の利害関係からみた医療テクノロジー開発
・成果主義で医療報酬を決めるバリューヘルスケアの到来
・保険業界の変革で求められる専門職とFinTechの参入テーマ

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